第四話

   ●


 鹿島かしまがスマホのRPGで遊んでいると、再びスマホが鳴った。

「やれやれ、また日高ひだかかよ。今度は一体、何だ?」と、電話に出た。

『もしもし、鹿島か?』

『おう、俺だ。どうした?』

『ビッグニュースや、ビッグニュース! 今からお前のマンションへ行ってもいいか?』

『何だよ。電話じゃ話せないことなのか?』

『まあ、そういうこっちゃ』

『ふーん、分かった。それじゃあ、待ってる』

『ほな!』


 三十分後に日高は、鹿島のマンションへきた。

「お邪魔じゃまするでー、鹿島ー」

「おー、あがれ、あがれー」


 日高は史織しおりを見つけると、べためした。

「やー、相変あいかわらず史織ちゃんは、べっぴんさんやなー。ワイも史織ちゃんみたいな、可愛い嫁が欲しいわー」


 史織は照れながらも、告げた。

「もう、本当に上手うまいんだからー、日高さんは!」

「いやいや、ホンマやて。昔は小説も書ける女優を目指していたんやろ? それがダメなら、今からでも人妻アイドルを目指したら、どうやー」

「いえいえ。めてくれるのは、ありがたいんですけど私は、大人しく主婦を続けます。それでコーヒーと紅茶、どっちにします?」

「あ、ワイはコーヒーを頼むでー」


 鹿島も、続けて答えた。

「あ、俺もコーヒーで」

「はーい!」と少しすると史織はコーヒーの入ったコップを、二人に出した。


 日高は、コーヒーを飲みながら話し出した。

「あー、ビジネスホテルのベッドは寝づらいわー。あ、そうそう。そんなことより、鹿島。徳川埋蔵金とくがわまいぞうきん伝説って知ってるか?」

「ああ、もちろん。江戸幕府の大政奉還たいせいほうかんの時に、幕府の家臣かしんによって埋蔵されたとされる、幕府再興のための軍資金ぐんしきんだろ?」


 うなづきながら、日高は続けた。

「ああ、そうや。で、その徳川埋蔵金は、どこにあると思う?」

「うーん、どこにあるんだろうなあ……。まあ、考えられる場所が多すぎて、しぼり込めないかなあ……」

「で、そこなんやが、さっき出版社の編集者から、面白い話を聞いたんや!」

「面白い話?」


 日高は、意気込いきごんだ。

「徳川幕府の最後の将軍は誰や?」

「そりゃあ、もちろん徳川慶喜とくがわよしのぶだろ?」

「そや。すると徳川埋蔵金も、徳川慶喜の近くにあると考えた方が自然やないか?」

「あー、まー、そうかもしれねえけど……」

「で、さっきの話に戻るんやけど大政奉還の後、徳川慶喜は一時、S県T町に移住いじゅうしたやろ?」


 鹿島は、頷いた。

「ああ、そうだな」

「で、聞いた話によると、K町の西側にある洞窟どうくつに、徳川埋蔵金がかくされておるらしいんや!」

「そうかあ?ー。そんなに簡単な場所にあるんなら、誰かがもう見つけているんじゃねえか?」


「まあな。でもこの話には続きがあるんや。K町の西側は最近になって、高速道路を通すために森林を伐採ばっさいしたんや。そしたら今まで見たことが無い洞窟が見つかった、ちゅう訳や!」

「なるほど、そういう訳か……」


 日高は更に意気込んで、続けた。

「しかも、その洞窟の奥には、謎があるんやと!」

「謎?」

「そうや。どうやらその洞窟の行き止まりには、謎があるっちゅう話や! おそらく徳川埋蔵金を守っている謎やと、ワイはにらんどる!」

「うーむ……」


 日高は、目を輝かせた。

「どや! におうやろ!」

「まあな……」


 日高は、言い切った。

「ぶっちゃけワイは徳川埋蔵金よりも、その謎の方が気になんねん。発想者はっそうしゃとして!」

「なるほど、徳川埋蔵金を守る謎か……。確かに少し、興味があるな……」

「そうか! お前も興味が出てきたか! よし、行こう! 今からS県T町へ!」


 鹿島は、面食めんくらった。

「何?! 今から?!」

「そうや、ぜんは急げや! 急がんと誰かに、謎を解かれてしまうかもしれへんで! 何かそれはくやしいやろ、発想者として! 一番早く謎を、解きたいやろ!」

「まあな……」

「よし、決まりや!」


 日高は鹿島の手を取り、マンションから出ようとしていた。史織はそんな二人を、天使の様な笑顔で見送った。

「二人とも、がんばってねえ~」

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