第3話

 やけ食いする女子高生と食事をし、その後軽く会話してその日は別れた。

 それから数週間後。

 久しぶりにまた同じ場所へとソロツーリングに来ていた。動画の撮影目的でない完全な趣味の走り。


「やっぱり慣れ親しんだこの道が一番気楽に走れていいな」


 元康がまだスーパーレッジェーラに乗り始めるよりももっと昔、友人に教えてもらい初めてツーリングにきた場所。

 そのためいくつかあるよく走るコースの中で、一番走り慣れている。


「さて、いつもの軽食屋の前まできたけど……」


 ヘルメットを脱いで無意識に真理亜を探す。


「……って、いる訳ないよな」


 自身が今日大学へ行っていないため失念してしまっていたが今日は平日だ。


(何を期待してたんだ俺は)


 そう思いながら、今日はお腹が減っていないこともあり自販機でコーヒーでも買おうとしたその時だった。


「あ、お兄さん。こんにちは」

「! ……なんでいるの?」


 いる訳がないよなと思っていた矢先の登場についびくりと身体が震えた。


「もー、お兄さんなんですかその居て欲しくなかった、みたいな挨拶は」

「ああ、ごめんごめん。そういう訳じゃないんだ。ただ今日平日だから、いる訳ないよなって思ってたから」

「え? ってことは、もしかしてお兄さんも私のこと探してくれたってことですか?」

「あー……まあ、ちょっとだけね」

「えへへっ、嬉しいです」


 気持ち悪がられるかも、と元康が心配したようなことにはならずむしろ嬉しそうに笑う真理亜。

 そういえば自分が学生の時にもこういう人懐っこくて誰とでもすぐに打ち解けるタイプの子がいたな、と昔を思い出して懐かしくなる。


「……あ、もしてして創立記念日で今日休み?」

「いえ、普通に学校はありますよ。うちの学校創立記念日がちょうど夏休みの期間と被っててないんですよ」


 つまるところサボったのか、と思いつつ後半の情報が気になった。


「もしかして□△高校?」

「そうですけど、よく分かりましたね」

「俺も高校そこだったから」

「えっ!? じゃあお兄さん先輩だったってことですか!?」

「そうなるね」

「あー、あと一年早く生まれてたらお兄さんと同じ学校だったのに」


 元康は今大学二年生で、真理亜は高校二年生。つまり元康が卒業した年の新一年生が真理亜たちという事になる。


「ははっ、そうだったらもっと前から仲良くなってたかもね」


 □△高校はバイク通学も可能で、父親が使わない日だけは元康はバイク通学していた。スーパーレッジェーラを見てカッコいいと話しかけてきた彼女であれば、もしかしたら話しかけてきていたかもしれない。


「そうだったら良かったな」

「だね。……で、今日はサボり?」


 咎めるつもりではない。しかしどちらかといえば世間的にはバイク乗りは不良というイメージがあるが、実際には気のいい人たちばかりであり真理亜も学校をサボるタイプには見えない。

 もしかしたら何か学校に行きにくい理由があるのではないかと思ったのだ。


「それ聞いちゃう感じですか」

「別に怒ろうとかって話じゃないよ。俺はどっちかって言うとサボりたいけど勇気が無くて、サボってるクラスメイトを羨ましく思ってたタイプだから。ただ真理ちゃんはサボったりしなさそうな子に見えたから意外に思って」

「お兄さんの前では猫被ってるだけで、学校ではすっごいギャルかもしれませんよ?」

「そうだったら怖いな」


 軽口の応酬に二人でおかしくなって軽く笑う。


「ただやっぱり目元が腫れてるからさ、なにかあったのかなって」


 最初はメイクで上手く隠されていて分からなかったが、よくよく見てみると薄っすらながら腫れていた。ナンパ目的でなくとも、悲し気な女性を見れば気になるものだ。


「あー……やっぱりわかっちゃいますかこれ」

「じっくり見ないと分からないぐらい、だけどね」

「えっと、それじゃあお兄さん。お話しするので、ちょっと向こう行きませんか」


 真理亜が示した方向にはベンチと自販機がある。


「そうだね、立ち話もなんだし」

「はい。それじゃあ行きましょうお兄さん」

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