第4話
プルルル、ポケットの中のスマホが震える。画面を確認すると、オーディション不合格の文字。………通算25回目…………。
久々に晴れた青空の日だって言うのに気分はグレー。
はぁ…………いつになったら俳優になれるんだか。
あの日、ナツミとカフェで会話してからボクはより一層オーディションや、演技の本など読むようにした。
ナツミはボクのこと見習いの俳優だと思っているが、本当は素人に毛が生えた程度。
演劇部だなんて高校の時入ってただけ。
演技のメソッドなんて、分からない。
そんな自分が見習いと偽っているという罪悪感もあってか絶対に夢を叶えなきゃならない。
あの子の、濁った目がキラキラした目になったのは喜ばしいことだがまだ一歩も進めていない自分が情けなくなってくる。
日差しが暑い。
もうすぐ、夏だな。
プルルルルと、再度ポケットの中のスマホが震える。メルマガかなんかだろ、と思いつつ画面を開ける。
「トオルからのメール……」
ナカムラトオルは高校時代の古い友人だ。
長らく連絡を取ったことはなかったが急にどうしたんだろう?
メールの内容は番組に出て欲しいとのことだった。
テレビ番組を作る側になったとは聞いていたが、まさかこんなことがあるだなんて!
まさしく、これは縁だな。
メールには直ぐに返信をした。
『急にメールにありがとう! めちゃ嬉しいわ!ぜひ参加させてもらいます!! ってか高校卒業して、もう7年ちょいか? トオルと会うのも楽しみやわ!じゃあまた当日よろしくお願いします』
少し馴れ馴れし過ぎたかもしれないか。
まあ、大丈夫だろう。
本来なら今日はバイトがないので、一日中アパートに篭ってるつもりだったのだが、カーテンを開けるとビックリするぐらいの晴れ間で思わず外に出て来た。
別段やる事もないので、ブラブラ適当に時間を潰すかぁ………。
そう思っていた矢先、送ったメールが返ってきた。
『承諾してくれてありがとう! 配役足りてなかったから助かる! さっそくだけど、明日の朝10時下記の場所に来てくれ。台本は当日渡すけど、台詞は二言ぐらいだからアキラなら大丈夫だろ? じゃあ明日よろしく』
本文の下に地図が載っけられていた。
自宅からだと電車で二駅ぐらいか。
当日台詞覚えるのは少々不安だったが、トオルの本文から察するにたいした役でもないんだろう。
役が貰えるだけで有難いはずなのにガックシ来ている。久々にメールが来て大っきい仕事くれるのかな? って期待したら脇役。
自分で掴み取れってことか。
そういえばトオルと演技について色々言ってたっけ演技なんて心なんだよ! とか分かった風なことばかり言ってたっけ………。
あの時も今も大口叩く癖は変わってないな。
翌日、ボクは指定された場所に30分も前に着いた。
この業界は遅刻に厳しいから前もってきた方がいいんだって本に書いてあった。
それが正しいのかはともかくとして、早く来るのに越したことはないだろう。
………にしても、緊張するな。
初めての番組収録だから服装とかよく分からなかったからスーツで来たけど良かったのだろうか。
周りに誰も居ないのが余計に緊張感を増させる。本当にここであっているのか、もしかして場所を間違えたのでははいかと思い何度か、地図アプリを立ち上げ確認したがメールで示された場所はここで合っていた。
シャッターが降ろされた青い倉庫の前でボクはポツンと待っている。
この中にスタジオがあるのだろうか? だとしてもシャッターは、もう開いてなきゃおかしくないんじゃないのか?
ぐるぐると頭の中で思案していると、カツーン、カツーンとハイヒールの音が後ろから聞こえた。振り返ってみると、ドラマやCMで見ない日はないと言われるほどの大人気女優のカンバラサヤカがこちらに向かって歩いて来た。
「貴方、今日の助っ人ね? ……なにその格好。衣装着るから私服は何でもいいはずなんだけど、ナカムラさんから聞いてなかったの?」
スーツじゃなくてもよかったのか……。
「え、ああああはい! 今日はよろしくお願いします!」
緊張し過ぎて、舌が張り付いて上手く声が出なかった。恥ずかしい………。
「うん、よろしく。とりあえず着いて来て」
「え、あの。皆さんまだ着いてませんが………」
「………貴方何も聞いてないのね。キャスト、スタッフ先にとっくに現場の方に着いてるわよ。貴方だけよ、来てないのは。今現場の雰囲気は最悪よ。ナカムラさんからメールでここにいるだろうって来た時は目ん玉が飛び出るかと思ったわよ」
カンバラさんは溜息を吐いた。
もう、とっくに着いてる。
助っ人のボクだけ来ていない………。
現場の雰囲気は最悪。
その言葉だけで、今現場がどのような感じなのかは容易に推測出来た。
「え、ちょちょっと待って下さい! ボクはトオルに言われた通り指定された場所で待ってたんですよ!!」
ボクはメールに添付された地図の画面をカンバラさんに見せた。
「………いや、ここじゃないわ。はぁぁぁ……ナカムラさんドジったな……」
「あ、あのトオルはどこに……?」
「ナカムラさんは今日は別の現場よ。ここでうじうじしてても仕方ないわ。行きましょう」
ボクはカンバラさんの後に続きながら急ぎ足で走った。
「ここを左」
「あ、はい!」
幸い、さっきの場所から現場まではそんなに離れていなかったがカンバラさんの言った通りスタジオはピリピリしていた。
「はい、主役到着しましたー!」
スタッフさんがボクを見るなりキャストに大声で叫ぶ。
え、主役? 誰か? ボク?
「はい、これ台本ね。もう直ぐに始めるからちゃちゃっと覚えちゃって」
中身をペラペラと捲るとが喋る所がマーカーされていた。台詞の量が膨大過ぎるこんなの覚えれるわけない。
「あ、あのこれ主役の台本じゃないですか? ボク脇役って聞いてたんですけど……」
「はあ?! キミは主役なんだろ? ナカムラ君からはオーディション受けて勝ち取った凄い役者で台詞も直ぐ覚えれるから問題ないって言ってたけど、それ嘘なの?」
スタッフさんの鋭い瞳が僕の心を抉る。
「え、あ、いや! 大丈夫です! 出来ます!!」
出来るわけない。でも、やるって言わなきゃダメだと思った。それにこれはチャンスだとも思った。もし、ここでちゃんと出来ればボクは長年描いてた夢を叶えることが出来る。
いつものホラ吹きとは違い、言っても全然気持ち良くならなかった。
これが全部、今までボクがやって来たツケか…………。
くそ、やってやる! やってやるぞこの野郎!
目玉が飛び出るくらい台本に書かれてる言葉をじっと見つめ、頭に入れようと努力した。
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