第2話

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ワタシ、モリモトナツミは大学卒業後父と母が経営しているフラワーショップを継いだ。


就活が嫌だったっていうのもあったけど、ワタシはあんな風にキラキラ自分の言葉を紡げない。皆、同じスーツを着てるけど面接ではそれぞれ違う夢や希望を語る。

ワタシにはそれが出来なかった。

 夢がないと、生きてちゃいけない。 

そんな風に言われてるような気がして……ワタシは就活から逃げて、父と母の守って来たものを継ごうと決めた。


夢のないワタシにはそれしかなかった。

夢なんてなくても生きていける。

そう信じて、ずっとレジに立ってお客さんとの会話に花を咲かせたりしていた。

 なのに、この前嫌な奴と会った。東京から上京して来た関西弁を話す見習い俳優がワタシに向かって夢はあるか? と聞いてきた。見ず知らずの人にする話題かな……一応お客さんだったけど、ワタシはブチ切れた。

綺麗事じゃ夢は叶わないと、夢はなくても生きていけると言ってやった。ワタシの言葉に彼は驚いていたけど、そこで止まることはなく『夢』について語った。

その中で「夢って持ってた方が楽しいやん?」という言葉がワタシの中で何かが弾けて苦しくなった。

逃げ出してしまった過去は簡単には拭えないのだろうか。ワタシはベランダに出て、ポケットから煙草を取り出し火を付けた。

 煙が肺の中に入ってくる。ゆっくりと味わいながら紫煙を口から吐き出す。


「そりゃ、昔はあったわよ。なりたいモノは…………」


紫煙は辺りを漂い、ゆっくりと空気と同化していく。

ワタシにだって昔はあった。

『夢』や『希望』を。

でも、それは昔のこと。逃げてしまった過去のこと。

いつの間にか過去は小さくなっていた。

ワタシはもう一度夢を見て裏切られるのが怖いんだ。

いいや、違う。裏切ったのはワタシの方だ。

才能がないと勝手に諦めて、自分の想いに蓋をした。『好き』を『嫌い』にした。

そうしなきゃ、夢に押しつぶされそうだったから。


「濁った目って言われたのは堪えたなぁ………」


 目に関してはよく指摘される。だから接客中は出来る限り気をつけていたのに。

図々しいお客さんだったけど、不思議と今は怒りは込み上げてこない。

暫くの間、ベランダから雨に打たれるビル群を見つめていた。

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