The 11thバトル ~ロリコンと覗き②~
クソガキを取り囲む他のガキ共を秋人が睨み付ける。
秋人とは違い遊具には昇らなかったのか、千冬っていうあの女の子みたいな少年も静かにその隣へと並んだ。
「女一人相手にダセぇんだよ!!」
突然の乱入者に困惑したイジメっ子共を気にせず、威勢良く啖呵を切る。
さらにそのまま水鉄砲で追撃し始めた。
隣にいた千冬も無言で撃つ。
「な、なにすんだよ! ふざけんな!!」
「お前らには関係ないだろ!!」
そんなことを喚きながら、男子の方が二人に突進してきて揉み合いのようになった。
突然のことで、助けられたであろうクソガキが状況に付いていけずポカンとした表情で立ち尽くしている。
――と、秋人が、ごく当たり前のように千冬に掴みかかっていた相手をぶん殴った。
殴られた側は尻もちを付いて鼻血を流し、目を白黒させている。
さらにそれを見て戸惑っている他の男子にも、間髪入れず腹に蹴りを入れてうずくまらせた。
「うぅ……」
「ちょ、なにしてんの!? 頭おかしいんじゃない!?」
堪らず敵対している女子が声を上げる。
俺も最近のガキの喧嘩はこんなに殺伐としているのかと戦慄した。
「うるせぇ!! 女はすっこんでろ!!」
恐ろしい剣幕で、遊具が震えるかと思うほどに怒鳴りつける。
切れ方が半端じゃない。なんだこいつ。
「それじゃ、私も行きますんで」
「え? ちょ、おい」
春香がその様子を窺って、表へと出て行った。
そのまま秋人の後ろまで歩いて行くと、後頭部を思いっきり引っぱたく。
「いってーな!!」
「秋人、やりすぎ」
千冬も同じことを感じたのか、春香に合わせて秋人を水鉄砲で撃った。
撃たれた側はまさに水をかけられたように、少し落ち着いた様子でぶすくれる。
「あなたたちも、愛姫に対して言いすぎ。この馬鹿がやりすぎたのは謝るけど、こいつがどんな奴かは聞いたことぐらいあるでしょ? また同じようなことしてたら、きっとクラスとか関係なく乗り込みに行くし、きっとこんなものじゃ済まないわよ」
そう淡々と告げる春香の声は、脅しでも何でもなく事実のようだった。
しかしやられた側は頭が追いついてないのか、ドン引きに近い空気が漂っている。
「分かったらさっさと帰った方がいいわよ。それとも一緒に遊びましょうか? 私たち、今日は愛姫とこの公園で遊ぶ約束をしてたの」
まるで水に流しましょうぐらいの感覚で、サラリと誘ってのける。
それが逆に威圧を与えたのだろう、クソガキをいじめていた集団は「だ、誰がお前らなんかと遊ぶか!」だの、「お母さんに言い付けるから!!」だの、一通り喚きながら公園を足早に去って行った。
先ほどまでの喧騒が幕を閉じ、公園が落ち着いた空気を取り戻す。
助けられた形になったクソガキは、ただただ呆然としていた。
「大丈夫? 私たちが遅くなったせいでごめんね。秋人が急に水鉄砲で遊ぼうって言うから探すのに時間かかっちゃって」
「それにしてもやるじゃねーか生麻。相手四人もいたのに一人で言い合ってるとかちょっと見直したわ」
「あ、ありがとう。で、でも、私のせいで、三人とも後で怒られるんじゃ……」
二人の言葉に戸惑いながら礼を言うクソガキは、未だに困惑しているようだった。
同時にその接し方は、何だかぎこちなくて、距離感を測りかねているようにも見える。
しかし、そんなクソガキに不意に水の線が走り、その服を濡らした。同時に、水鉄砲が放り投げられ、慌ててそれを受け取る。
驚いた表情のクソガキに、千冬が笑いかけた。
「いいから遊ぼ? それにすごく怒られるのはきっと秋人だけだよ。本当、僕らのこと言われるとすぐ喧嘩するんだから」
自分のことを言われた悪ガキが、照れ臭いのか千冬へと引き金を引きまくった。
そのままなし崩し的に水の掛け合いが始まる。
そこに、この前の祭りで見たもう一人の女の子が参戦してきた。
「あー、小夏がまだだったのに先に始めてるー!! ずるーい!」
全員が揃ったことで、本格的にガキどもがしゃがみ込んで水遊びの算段をし始めた。
その輪の中で、クソガキの様子はまだぎこちない。
けれど、なんだか確信的に、もうあいつは大丈夫なんだろうなと思った。
もう、俺なんかとくだらない勝負をしなくても、一人になることはないだろうと思えた。
俺は立ち上がると、遊具の影になりながら踵を返し、公園の出口へと向かう。
「えー、秋人くん、またケンカしたの? 前にもダメって言ったのに!」
「仕方ねえだろ、寄ってたかって生麻のこと馬鹿にしやがって、あいつらムカつくんだよ」
そんな声が背後から聞こえてくる。
あばよクソガキ、精々そいつらと仲良くやれよ。変質者はただ去るのみだ。
ここのところ一緒にいたから、あいつの家のことを知ってるから、俺のことを庇ったりなんかするから、少しばかり情が移っちまった。
けど、別に以前の生活に戻るだけだ。
仕事の合間の時間潰しは、適当に違うところを探せばいいだろう。
しかし、そんなことを考えながら公園の出口を出たところで不意に袖を引かれた。
「帰るんですか?」
そこにいたのは春香だった。
どうやら、目ざとく俺が帰るところに気付いたらしい。
「あぁ、もう必要ねえだろ。多分この先もな」
「……」
何がとは言わない。春香も訊ねてはこないし、分かっているのかも判断が付かない。
ただ、無表情にこちらをジッと見上げてくる。
やがて、春香がこちらに来たことで全員が俺の存在に気付いたのか、他のガキ共もこちらへ向かってくる。
当然、その中にはクソガキも少し驚いた表情で混じっていた。
俺はガキどもが近付く前に春香の腕を振りほどいた。
「それじゃあな。仲良くやれよ」
見かけることはあっても、もう会うこともないかも知れないな。
しかし、俺が踵を返したところで春香がガキ共の方へ声を上げた。
「秋人ー、海の件だけど、このおじさんが一緒に行ってくれるってー」
「は?」
このおじさんってのはもしかしなくても俺のことだろう。
意味が分からず、振り返って疑問の目を向ける。
その様子を察したのか、春香が口を開いて答えた。
「皆で海に行きたかったんですけど、私たちの親は忙しくて来れないんです。子供だけは駄目って言われてるし、一緒に行ってくれる大人の人が必要だったんですよ」
「いや、なんで俺なんだよ。俺だって忙しいっての」
「昼間から小学生と遊んでる大人がですか?」
「うっ……」
思わず言いよどむ。確かに盆休みはあるから行けなくもない。
だけどさっき決めたはずだった。もうクソガキと一緒にいるのはやめた方がいいって。
あいつのためにならないだろうって。
するとそんな俺を見て、春香が不敵に笑ってみせた。
「海ならきっと、一緒にいても立派な保護者に見えますよ」
言われて一瞬、俺は相手が小学生だと忘れてしまった。
さっきの悪ガキの喧嘩といい、この春香といい、最近のガキってのは末恐ろしいわ。
「……しゃーねぇな」
俺は公園の敷地に一歩入ると、懐からタバコを取り出して火を付けた。
クソガキがそれを咎めて怒る声や、悪ガキの海への同行を喜ぶ声が響いてくる。
俺はため息と共に、煙を一つふかした。
海ね。
どこに行くか決めねぇとな。
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