The 4thバトル ~幼女と出会いとコーンポタージュ~
その日は雪が降るんじゃねぇかってぐらい寒い日のことだった。
二月も半ばを過ぎ、決算が近付くことで会社は数字数字とうざったい空気に包まれていて、俺は馴染みの顧客を回る口実で外に出ていた。
新規の営業と医療機器のメンテナンスや既存顧客伺いが俺の主な仕事だ。
気付けばこの会社に入って10年も経っていた。
年月が過ぎれば、会社でもある程度の立場になって、後輩も出来てくる。
そして、同時にやる気や緊張感といったものは摩耗していく。
「次は五時からか」
大手から独立した馴染みのお客さんに会う予定だったが大分時間に余裕があるため、よく立ち寄る近くの公園で暇を潰すことにした。
昔と違って最近ではすっかりだらけているけれど、既存顧客を回るだけで一定の数字は取れてしまうため、上司も中堅になった俺には特に何も言わなくなった。
能力の上限が見えたってことだろうな。
厳しくするのは新人のうちで、伸び代が尽きて、何を言っても響かなくなったやつのケツを叩く労力ってのは他に回す。
俺にこれ以上を期待はしないし、ノルマをこなしてさえいれば会社にとって駒としては充分なんだろう。
だから、公園や喫茶店で時間を潰してようが、それを上司が察していようが、注意してくる人間ってのはいない。
赤字社員にもなれば別なんだろうが、要領だけはいい方だったからな。
そんなこんなで、良くも悪くも安定しちまった毎日。
刺激もなけりゃ、変化もないし、ましてこの状況を変えようだなんて気も起きない。
彼女も数年前振られてっきり出来ないし、当然結婚の予定もない。
もしかしたら死ぬまでこんな感じなのかねぇ俺は。まぁ今となっちゃ別にどうでもいいんだけど。
そんなことを考えながら、公園の近くにある自販機で缶コーヒーを買ってベンチに腰を下ろした。
かじかみかけていた手を缶の熱が溶かしてくれる。
店に入ればよかったかも知れないが、約束の合間合間に毎回喫茶店にでも入っていたら金の消費が激しすぎる。
ちょっとした時間だと、こういった公園で時間を潰した方が安上がりだ。
缶コーヒーのプルを空けて流し込むと、身体が芯から温まった。
……しかし、あの子も寒かないのかねぇ。
目線を横の方にずらすと、女の子が一人でブランコを漕いでいた。
歳は小学校の真ん中ぐらいかな。
目鼻立ちが整っていて、子供特有の細くて柔らかそうな髪。
すらっと伸びた手足は余計な肉が付いてなくて、細すぎるぐらいなのに不自然に感じない。
華がある顔立ちではあるけど最近の子供にしては変にケバくもなくて、格好は年相応って感じだ。
この公園には昔から立ち寄っているが、ちょっと前から頻繁に見かけるようになった。
友達と一緒ってわけでもないのに、なんで好き好んでこの寒空の下で公園に一人でいるんだか。
まぁ、かなり可愛い子だから目の保養になるんだけど。
店に入らず公園で時間を潰してるのは、最近じゃ出費的な理由以外にあの子を見れるからってのもある。
やっぱ子供ってのはいいな。
なんつーか、何にも染まってなくて、俺みたいな大人と違ってまだ将来があって、なによりあのチマチマした感じが可愛らしい。
同じ人間だってのに、別のカテゴリに見えちまう。
あのあどけない女の子も、その内うちの会社の事務のババアみたいに嫌味ったらしくなったりすんのかな。
月日ってのは残酷なもんだ。
「っと」
あまりに長く見すぎていたせいか、こちらを向いた少女と目があったので咄嗟に逸らした。
最近は何かと世知辛いからな。
こういったことだけでも警察の厄介になっちまうらしい。
俺は誤魔化すように懐からタバコを取り出すと、携帯を見ながらそれに火を付けた。
なんだろう、冬に外で吸うタバコって旨いんだよ。
暖かい缶コーヒーとの相性も抜群。
一服を付くってのはこういうのを言うんだろう。
「ちょっと」
不意に声を掛けられて携帯の画面から顔を上げると、いつの間に近付いたのか先程の少女が立っていた。
普段は目を伏せがちな暗い印象だったけど、今は少しムッとしたような表情をしている。
「公園の中はたばこ吸っちゃダメなんだけど」
「あ、えーとはいはい。ごめんな」
そう注意を受けたので、俺は戸惑いながらも携帯灰皿を取り出してタバコを消した。
まさか声をかけられると思わなかった。
子供の頃特有の妙な正義感か? まぁどう考えても俺が悪いわな。
「これでいいか? 悪いな、煙かったか?」
「……」
俺のことを見下ろしていた少女は、その言葉には何も返さず、そのままベンチの隣に座った。
そのままランドセルから本を取り出すと、その場で読み始める。
印象通り無愛想な子だな。思春期って大体こんなものかも知れないけど。
しかしなんだって急に隣で本を読みだすのか。
「本なら家で読んだほうがいいじゃないか? ここだと寒いだろ」
沈黙と、人一人分しか離れていない距離感が気まずくなり、そう声をかけてみる。
しかし少女は何も答えなかった。
「そ、その本学校のか? 面白い?」
「……」
依然として続く黙殺。正直辛い。
少しは懐柔したかったけど、思ったよりも難攻不落らしい。
もし仲良くなったら、いくら見ても許されるし、いい癒しになると思ったんだけどな。
キャバクラで媚びた女と酒を飲みながら話すより、俺にとっては公園で女児と仲良くなる方が断然いい。
しかもこの子、近くで見るとなおのこと可愛い。
全体的に細くて小さいのに、丸っこくて柔らかそうフォルム。化粧っけが一切ないのに、素材のまんまで均整の取れた顔立ち。
しかもなんだよこの肌の透明感。やべぇだろ。
「仕事、してないの?」
しばらく少女を視姦、もとい観察していたら、本に視線を落としたままそう口を開いた。
めっちゃ見てたの気付かれたかな。
「いや、次の予定まで時間が空いてるからここで暇を潰してたんだよ。ここから近くだったからさ」
「そうなんだ。てっきり仕事してない人かと思った」
「……」
今度は俺が黙る。
なんだろう、やたらと刺々しい。そんなにタバコ吸ってたのが気に入らなかったんだろうか。
「あんたがいるとき、ベンチに座れなくて困るの。ブランコだと本読み辛いし。なんていうか、邪魔」
「へ、へー、そりゃ悪かったな。でも今みたいに空いてるとこに座ればいいだろ?」
「怪しかったから近付きたくなかった」
……なんだこのクソガキ。
確かに俺が邪魔だったのかも知れないけど、子供とはいえそれが初対面の大人に対する口の利き方か?
「あのさ、この公園はお嬢ちゃんのもんなのかな? 違うよな? 俺がどこ座ってようと自由じゃないか?」
「公園でずっとスーツの人がいるって先生に言ったら、仕事探してる可哀想な人じゃないかって。でもあんたは違うんでしょ? こんなところにいないで仕事すれば?」
なんなんだこいつ、見た目と違って中身はまるで可愛げがねぇ。
なんで初対面の小学生に仕事しろとか言われなくちゃならないんだ。
「お嬢ちゃんこそ、わざわざここで本読む必要ないだろ? 他に行けばいいんじゃないか?」
「別に私の勝手でしょ。あとお嬢ちゃんって呼ばないで、きもい」
こいつ、さらっと自分のこと棚に上げやがった。
それなら俺だってどうしてようと勝手だろ。
下手に出てれば調子乗りやがって。大人の狡猾さを教えてやる。
「あ、そっか。お前ぼっちなんだろ? この公園でも友達といるとこ見たことないもんな。それで家に帰らないのは、毎日早く帰ったら親に友達いないってバレるからか?」
「……違う」
クソガキ、もとい少女が本を閉じて、キッと俺を睨み付ける。
冷静ぶってるけど、こんな安い挑発に乗るとかわりとちょろいな。
「あらら、ごめん図星付いちまったか? でもその捻くれたところ直せばちょっとは友達も出来ると思うぞ」
「違う! 友達ぐらいいるもん!!」
「じゃあなんでこんなとこによく一人でいるんだよ? まぁ親には知られたくないよな、自分が遊ぶ相手もいない可哀想なぼっちだなんて。安心しろよ、きっとバレたら慰めてくれるぜ?」
「違う! 違うったら違う!!」
あ、やべ、やりすぎた。
涙目になってやがる。
もしかして本当に図星だったのか。洒落にならん。
「……違うもん。私、可哀想な子じゃないもん」
結局良い返しが思い浮かばなかったのか、少し肩を震わせながら必死にそう呟く。
さすがにそれを見たら罪悪感が襲ってきて、やたら後ろめたい気持ちになった。
いい歳して何やってんだ俺。
「あー、なんつーか、そうだな、違うわ。俺が悪かったよ」
「……」
自分で煽っておきながら、上手いフォローが見付からず曖昧に謝る。
そんな言葉じゃ腹の虫が収まらないのか、依然として俺のことを恨めしそうに涙目で睨みつけていた。
俺は乾いた愛想笑いのようななもの浮かべたが、少女の敵意は消えそうになかった。
閉じた本を再び開くでもなく、ただただ俺を責めるように睨む。
バツの悪くなった俺はベンチから腰を上げて公園の入口に向かった。
別に逃げようってわけじゃない。
財布を取り出し、自販機に小銭を投入する。
「ほら、これやるよ」
そう、やはり子供を懐柔するには言葉より物が手っ取り早いだろう。
ベンチに戻り俺がそう言って渡したのは、今しがた買ってきたコンポタだった。
放られて咄嗟に受け取った少女の表情が、怒りから戸惑いに変わる。
「なに、これ?」
「見れば分かるだろ。コーンポタージュだよ。さっきの詫びにやるから許してくれよ」
「……いらない」
そう言いながらも、少女は缶を握りしめたままだった。
多分長時間外にいたから寒いんだろう。
言葉とは裏腹に、その温もりを手離したくなさそうだった。
「いいからもらっとけよ。寒いんだろ?」
「知らない人から何かもらっちゃだめって学校で言われてるから……」
「くそ生意気なのに変なところで真面目だな」
「なまいきじゃない」
こいつ俺に言われたことは何でも否定するな。
あわよくば懐かれようと思ってたのが馬鹿らしいほど警戒されてるわ。
「松井逸馬だ。仕事の関係でこの辺りはちょいちょい通りかかる。ほら、これでもう知らない人じゃないだろ」
「……生麻愛姫。9才、になった」
「へー、ってことは小学三年生か」
「そう」
うん。小学三年生か。九才か。
なんかもうそれだけで心躍るものがあるな。
「これ、返す」
かじかんだ手が多少マシになったのか、クソガキが缶を差し出してくる。
どうやら名前を明かしただけの関係じゃ受け取るに値しないらしい。正しい判断だな。利口だわ。
「それじゃ、簡単な勝負をしよう。お前が勝ったらそれやるよ」
「……勝負? なんの?」
「そうだな、棒消しとかどうだ?」
「なにそれ?」
最近のガキは棒消しも知らねぇのか。
地面に書くゲームとしては王道だろうに。
「単純に言うとこう、棒をピラミッドみたいに書いてだな」
俺は側に落ちていた枝を拾うと、地面に複数の棒を書きながらルールを説明する。
クソガキは先ほどまでと違って、ふんふんと内容をしっかり聞いていた。
「で、最後の一本を消すことになった方の負けってルールだ」
「分かった。だけど、私が負けた場合はどうするの?」
「は?」
「だから、私が勝ったらそれくれるんでしょ? 私が負けたときはどうすればいいの?」
「……」
なんか律儀なことを言い始めた。
こっちとしてはわざと負けてやろうぐらいに考えて提案したゲームだけに、少しばかり悩む。
真っ直ぐな目で見上げてくるのが眩しい。
あどけない子供が真剣な眼差ししてるって、それだけでギャップ萌えだよな。
「えーと、じゃあ、俺が勝ったら頭撫でさせてくれ」
「え……」
分かりやすく引かれた。
考えた中で比較的ハードルの低い要求だったがどうやらダメらしい。
俺も他人のオッサンが同じことやってたら通報すると思う。
「なんで私の頭なんて触りたいの?」
「お前さ、猫とか犬って好きか?」
「う、うん」
「可愛いと思うか?」
「うん、かわいい。でもなんで?」
「それと同じだ。中身が如何にお前みたいなクソガキでも、俺は可愛いもんが好きなんだわ。お前だって犬や猫見たら撫でたくなるだろ」
「私猫とか犬じゃない。それにおじさんなのにかわいいものが好きとかきもいんだけど。あんたみたいなのロリコンって言うんでしょ?」
「人の趣味嗜好をとやかく言うんじゃねぇよ」
その後もあーでもないこーでもないと話していたが、結果的にクソガキは俺が勝ったら頭を撫でさせるという条件を了承した。
世の中、何かを得るためには釣り合うだけの対価を賭ける必要がある、とか適当なことを言ったら何故か納得していた。
まぁ、全然釣り合ってないんだが。
自分の価値に無自覚ってのは恐ろしいな。
コンポタ一本でこの可愛いクソガキの頭を撫でられるってなったら、連日長蛇の列が出来るだろう。
コンポタ箱買いするわ。
「それじゃ私が先に消していいのね?」
「あぁ」
そう言うと、クソガキは意気揚々と下段の5本を一気に消した。アホだなこいつ。
「ほらよ」っと、俺もその上の4本を一気に消す。
正直、この時点で完全に勝負は付いていた。この手のゲームは当然だが法則や必勝法があるのだ。
未だ自分の負けルートに気付いていないクソガキが、ドヤ顔で一番上の棒を消す。
しかし、俺が三段目の一本だけを消したことで状況に気付いたらしい。
深刻そうな面持ちで一生懸命考えているが、どうやっても勝てないと理解したのだろう。
「あ、あんたの番よ」
俺に勝ち筋を悟らせないためか、精一杯平静を装ったクソガキが番手を勧めてくる。
俺は残り三本のうち、敢えて一本だけを消した。途端にクソガキの顔がパッと明るくなる。
「ほ、本当にそれでいいのね!? じゃあ私はこれ消すから、ほら、次はあんたの番よ! 最後の棒消しなさい!!」
「あーあ、負けちまったか」
「自分からやろうって言ったゲームなのにバカみたい! あそこで一本だけ消さなきゃあんたの勝ちだったのに!! なんでそんな簡単なことに気付かないの?」
まさに鬼の首を取ったかのようというか、クソガキが滅茶苦茶に勝ち誇る。
窮地からまさかの大逆転でテンションが上がったのだろう、当初声をかけてきたときとは別人のようだ。
これはこれで単純すぎて可愛く思えなくもない。
が、俺がわざと負けたと気付かずにこっちを馬鹿にする様は、なんだかちょっとイラッときた。
「ほらよ」
景品であるコンポタを再度クソガキに差し出すと、一瞬疑問の表情を浮かべた。どうやらゲームに熱中し過ぎて賭けのことを忘れていたらしい。
小三ってこんな馬鹿だったかな。いや、馬鹿だったか。少なくとも俺は。
「変なこと提案してきた割にムダになっちゃったわね。あー、コンポタージュ温かくておいしー。あんたもあそこで二本消してなきゃねー。なんで負けたか教えてあげよっか?」
ぐっ、うぜぇ。なんだこいつ。
というか、別に俺はコンポタ如きで羨ましがったりしないし、自分でも買えるってのになんでこんな見せ付けてくんだ。
「……おい、クソガキ」
「なによロリコン」
「もう一回だ」
「え?」
「もう一回勝負しろ。次俺が負けたら、飲み物だけじゃなくて何でも買ってやる」
もはや勝ってどうこう負けてどうこうではなかった。
単純に勝ちを譲られたことに気付かず、超絶勝ち誇って調子に乗っているクソガキを完膚なきまで凹ましてやりたかった。
自らの無力さと大海の広さを教えてやる、この子蛙が。
「ふん、いいわよ! 相手してあげる。今度はあんたが先行でいいわ」
「ほう。それじゃ俺は先行やらせてもらう代わりに、五回中一回でもお前が勝てれば負けでいいわ」
「はぁ? バカじゃないのあんた? そんなの私が勝つに決まってるじゃない。さっき自分が負けたの忘れたの?」
「忘れてねぇっての。その代わり俺は弱いからよ、五回とも先行な」
「ふふん、負けてもう一回って言っても今度はダメよ」
その表情には随分と余裕が見て取れる。
馬鹿はお前だ。
さっき自分が先行で負けそうになったから、後攻が不利とは欠片も思ってないんだろう。
「それじゃかかってきなさい、このロリコン!」
――五分後。
そこには屈辱と絶望に表情を染めた幼女がいた。
俺は心の底からざまぁと思った。
「あのよ、もう気付いてるかも知れないけど、このゲーム間違えさえしなきゃ先攻が必勝するんだわ。さっきのゲームは俺が凡ミスしたから負けたけど、先攻が一手目で偶数消せば必勝。後攻は相手が奇数消したら必勝なのよ。さすがに偶数と奇数ぐらいは分かるよなぁ小学生?」
「くっ、くぅ……」
棒がたくさん描かれた地面を見詰めながら、悔しそうにプルプルと肩を震わせる。
何も言い返せず顔真っ赤にして怒る女児ってなんかいいな。
超悔しそう。
ずっとからかってたい。
変な趣味に目覚めたらどうしてくれんだよおい。
「残念だったなぁ、クソガキ。あれー? 負けてもう一回って言うのは駄目なんだよな? 当然俺の勝ちで終わりだよなぁ? あれだけ得意げだったのに五連敗とか恥かしー」
勝利の報酬としてクソガキの頭をぐりぐりと撫で回しながら、今度は俺が高笑いする。
その髪の細さと柔らかさ、頭の小ささに感動しながら、精一杯相手の神経をを逆撫でしてやる。
クソガキは不本意ながら、負けた代償ということで納得しているためか、されるがままだ。
せめてもの反抗とばかりに、涙目で睨み付けてくる。
あ、やばい。本格的に何かに目覚めそう。
先ほどぼっちをいじって泣かせかけたときとは違い、罪悪感どころか嗜虐心がギュンギュン刺激される。
可哀想でそれが可愛くて、抱き締めたいぐらいなのにもっとイジメたい。
なんだこの矛盾を孕んだ業の深い衝動は。俺に何てもんに気付かせるんだよこのクソガキは。
「……ずるい」
絞り出すよう、恨めしそうにクソガキが口を開く。
そして、そのまま頭を撫で回していた俺の手を払った。
「最初からどっちが勝つか分かってるゲームなんて、卑怯よ。ずるい! ずるいずるい!!」
自分の意見を肯定するように、徐々に声色が激しくなる。
ふっ、所詮負け犬の遠吠えだな。
「気付けなかったお前が悪いんだろ。最初にお前が勝ったとき、何で自分が負けそうになったか、なんで俺が負けたかもっとよく考えてたら、先攻が有利ってのは分かったはずだぜ?」
「そ、それは……」
「それなのに安易に喜んで、調子に乗った挙句先攻譲った時点でお前の自業自得だろ」
わざわざ五回勝負にしたのは、完膚なきまで凹まして悔しがらせるためだけどな。
一回勝負じゃ偶然負けたと思うだろうし。
「っ~~〜〜」
それでもやはり納得いかないのか、クソガキが声にならない声で眉根を寄せて悔しがる。
人が見てなかったら地団駄でも踏みそうな勢いだな。
「ははは、まぁ悔しかったら次会ったときにでもリベンジマッチ受けてやるよ」
「い、言ったわね!? 次は私になにで勝負するか決めさせるのよ!?」
「あぁ、別に構わねぇよ」
俺は余裕しゃくしゃくに笑いながら公園を出た。
またさっきの悔しそうな顔が見れるんだと思ったら、何故だか次にこの公園に来るのが待ち遠しくすらあった。
遅刻ギリギリに付いた仕事の打ち合わせは、いつも以上に調子が良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます