第38話 春野ミリアーノ②
ピピッ
「両チーム整列」
10分の練習、と言うよりも皆のバスケ技術と簡単なフォーメーションの確認を行い並ぶ。
勿論全員ルールなどの基礎知識はあり、中でも隼人と健太君はかなりの腕前だった。齊賀君も持ち前の運動神経はかなりのもので十分な働きが期待できる。
太郎君はお調子者の言動が目立つけれど普通に上手で、あの雰囲気のお陰で気を張っていた隼人や健太君の力みが取れたので良しとしよう。
(彼の場合、狙って演じている気もするしね)
これは勘だけどそんな気がした。
「よぉーっし、俺の華麗なるドリブルでごぼう抜きを目指すぜ~!」
「でも太郎君。相手はバスケ部が二人もいるんだよね?」
「あのでかい二人な。てか他も奴らもでかいし...、それでも勝ぁ~つ!!」
「どっからその自信が湧いてくるんやまったく...」
「相手にとって不足は無し。全力で戦うまでだ」
こちらの士気は十分。頼もしさも感じれる。ただ相手陣営が浮かべている余裕の態度がどうにも気になってしまう。
田口君はスポーツが苦手でメンバーには入っていない。一番注意すべき相手はバスケ部員の佐竹君と東君。そして柔道部の戸田君だ。バスケ部の二人は技術的な面で、そして戸田君は田口君といつも一緒にいる面で警戒するべきだろうね。
残りの二人、加山君・和田君の実力は分からないけど田口君が選んだ人物である以上自信があるはず。油断は禁物だ。
「隼人ーー!!負けるんじゃないわよ!!」
「みんな頑張るんだよー!」
「頑張るのー!」
「4組ぃー!下剋上だああ!!!」
「ちょっと顔が良いからって持て囃されやがってちきしょう!!負けんじゃねえぞ!!」
両クラスの声援が飛び交い体育館内に木霊する。
女子の方も同じくバスケの試合が始まろうとしているけれど、やはり罰ゲーム有りの勝負ということで館内にいる大半の生徒は僕たちの試合に注目していた。
中には2階席に上がって観戦している生徒もいる。
彼らの声援によって試合が始まる前からみんなのボルテージが上がっていく。そしてチラリと時計を確認した青木先生が号令をかけた。
「それではこれより1組対4組の男子による試合を始める。両チーム怪我の無いよう気を付けること。それでは、礼!!」
『お願いしゃーッス!!』
僕たちのポジションはこうなった。
日々テニスで鍛えられたフィジカルを持つ齊賀君を中心にバランスよく配置。全体の様子を見る為に僕が司令塔をやらせてもらう。
「相手さんの作戦はガンガン行こうぜかな?」
「コートが狭いとはいえ後ろがら空きやん」
4組の陣形はバスケ部二人がフォワードを務め、恐らく戸田君がセンター。他の二人も前寄りだ。あからさまなくらい攻撃的な陣形。
(ただ作戦としては理に適っている)
男子と女子で体育館を二分しているためコートは通常よりも狭い方を利用している。例えジャンプボールに負けてもディフェンスにはすぐ戻れると踏んだんだろうね。
「ジャンパー、前へ」
「うっし行くぜ~~」
「真面目にせぇよ?」
「頑張って」
「後ろは任せろ」
本人の強い要望でこちらのジャンパーは太郎君だ。他に立候補者もいなかったしね。
青木先生がボールを持ちセンターサークルに立つ。4組は意外にもバスケ部の二人では無く戸田君が前に出てきた。
「お前ら1組の奴らに何を命令してやろうか楽しみだ」
「おいおい、勝った気になるのは早いんじゃないの?」
「ここまでくれば後は作戦通りに、だろ?」
「作戦、ねぇ...」
太郎君と戸田君の間で何か言葉が交わさる。小声であったことと歓声にかき消され聞き取ることは出来なかった。気にはなったけれど先生がボールを真上に放り投げたことで切り替える。
「よっしゃ ≪ピカッ≫ ――うっ!?」
「はっ。先行は頂くぜ!!」
「アホ!!?何やっとんねん!?」
ボールが放られ同時に飛び上がった二人。しかし太郎君の伸ばした手は不自然なタイミングで空を切る。その間に戸田君は悠々とボールを掴み4組へ先行を渡す形となってしまった。
――今のは・・っ!?それに不味い!!
「ディフェンス!!」
「行かせない!!」
パスを受け素早くドリブルで切り込んできた東君に隼人が立ち塞がる。進路を閉ざされ上体を起こし勢いを緩めた東君だったが、そのまま流れるように深く沈み込み隼人の脇を潜り抜ける。その緩急に隼人は反応できなかった。
「させん!」
カバーに入る齊賀君。素人ながらも持ち前の運動神経を駆使し何とかボールを奪おうとする。
「ほらほら、こっちだよ」
「くっ」
ただやはりバスケ部。右へ左へボールを捌き体勢が崩れた齊賀君を馬鹿にした後、佐竹君へパスを出した。
「甘いで」
しかしそのパスを読んでいたのか健太君がインターセプト。すぐさま僕にボールを回し、一連の攻防は止まった。
「おい何してんだよ!チャンスだっただろうが!」
「す、すまん」
「ちっ、役立たずが」
先制点が取れなかった戸田君は東君を罵倒し肩を殴りつけた。
「おお、こわっ」
「健太ナイスだよ。よく止めてくれた」
「偶々いいとこ居ったにすぎん。それよりも田中大丈夫か?」
「もう大丈夫。2階席の誰かにバルられた」
「妨害か...。一回だけとは限らない。気を付けよう」
『おう!』
ダムダムと慎重にボールを突きながら相手陣地へ運ぶ。相手は加山君。陸上部所属だったはず。対峙した感じ隙はある。ただ執拗にボールへ手を伸ばし狙ってくる上に時々手を叩いてくるので落としそうになる。本来ならファールだがこれは授業。青木先生の見極めも甘い。
彼のディフェンスに付き合いながらパスルートを探る。バスケ部がマークしている隼人と健太へのパスは難しそうだ。ならここは――。
「太郎君!」
「よし来た!」
マークが甘くなった隙をつきパスを出す。3Pラインの外でパスを受けた彼はそのままドリブルで切り込み勢いそのままにシュートを放つ。
「貰っ――」
「「「「外れろーーー!!!」」」」
「―――たぁっ!!?」
一歩二歩と踏み切るその時。外野からの盛大な野次に驚き太郎君がリズムを崩す。
「ところがぎっちょん!!」
しかし太郎君は冷静だった。ぶれたフォームでは決まらないと悟ったのか後ろに控えていた齊賀君にパスを出した。
「ナイスパスだ」
「しまっっ――!!」
フリーでパスを受けた齊賀君はニヤリと不敵に笑いそのままシュートし――。
バコンッ
「む?」
「「外したぁあああーーー!!?」」
『リバウンド!!』
惜しくも外れたボールに田口君と、そして僕の声が重なる。
「はん。下手糞が。おらカウン・・」
「ふっ!」
「なっ!!?てめぇ!!」
リバウンドのボールを掴んだ戸田君の意識が手元から外れたその瞬間を隼人は見逃さなかった。がっちりと両手で掴まれたボールを下から叩くことで弾き出し奪取。そのままゴールへ放ち先取点を決めたのだった。
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