第31話 神崎郁人④


「んん~? お前は一組じゃねえな。どうしたよ?他クラスにまで来て」

「この不良が僕と夢ノ中さんの会話を邪魔したんです!!」


 会話...、うん。会話だよな。一方的に話をしてるように見えたけれども。


「不良ってお前、七貴のことか?まあ見た目まんまそうだしな。で、こう言ってるがそこんとこどうなのよ?」

「飯食うのに近くで騒ぐなと言っただけだ。騒ぐなら余所に行けってな」

「なるほどなるほど。うるさかったと。確かに外まで声が聞こえてたわな。夢ノ中は?」

「彼に、その、交際を求められたのですが申し訳ありませんとお断りしたところなら友人から、と...」

「ふ~ん。状況は理解した。君、あー確か相川修一君だったな。今の二人の話に間違いはないか?」

「・・・はい、そうですね。確かに熱くなってしまったのは事実です。彼女の言うことも・・ですが、だからと言って諦めたら何もならないじゃないですか!!」


 教師である古手川先生が間に入ったことで少し落ち着いた様子の相川だったけど、やっぱり諦めきれないのか縋るように声をあげた。


「確かにそうだな。諦めたら叶ったかもしれないモノも叶わなくなる。大切なことだ」

「だったら――ッ」

「だが、こと人間関係において相手を考えない自己的な行為、感情の押しつけってのは逆効果になるんじゃないのか?現に見て見ろ夢ノ中を」

「え?・・・っ!」


 先生に言われ目を向けた先の夢ノ中は・・まあいい顔はしてないな。


 やっと気づいたのか狼狽え、顔を青くした相川は視線を彷徨わせ周りにある自分を囲う視線に気づき悔しそうに下を向いた。


「・・・・だったらなんだってこんな奴が当たり前のように・・っ。はっ、そうだ!こいつが一組だと言うのは本当なんですか!!?」

「あん?まあそうだな。七貴奈木は正真正銘一組の生徒だ。それがどうした?」

「う、嘘だ!!この高校はこんな不良が偶々で入れるような所じゃ無いはずです!何か・・そう、何か不正をしたに違いない!そうなんだろ!?」

(酷い言われようだな)


 自分は拒絶されたのに社会のはみ出し者と言われたりもする不良(見た目)の七貴が想い人夢ノ中と同じクラスで尚且つ何やら親し気だなんて許せないんだろうな。


「誰がそんなことするかよ」

「はっ、しらばっくれても無駄だ!さあ、先生!今からでも遅くありません。この学校に相応しくない不良を退学に――っ!!」

「ハァ...。あのな相川...」


 またヒートアップしだした相川が言い切る前に深く、それはもう深くため息をついた古手川先生の空気が変わる。


「今、お前の発言はこの学校そのものを非難していると同義だ。不正と言ったな。試験はこちらが用意した筆記用具以外の私物の持ち込みは原則禁止。軽くとは言え身体チェックもする。会場には複数の試験監督の他、常に監視カメラも動き、試験終了後も不審な行為が行われていないかの確認がされる。そんな中で不正を行うのはまず不可能と言っていい。その他にも二次まである面接、人柄についての身辺調査など、相川が言う相応しいかどうかの審査は多岐に亘る。これは入試案内にもきちんと明記されており、同意のサインも受験するに当たってしたはずだ」

「だったらなぜ僕が一組じゃないんですかっ!!?」

「あん?まあクラス分けに関しては運が悪かったとしか言えんな。生徒同士のバランス何かを考えての決定だ」


 一年の頃からバランスを考えてるってどうやって?身辺調査か?怖すぎんだろ桜城高校...。


「そ、そんな・・、嘘だ...」

「もし納得がいかないのなら、個別で学校が下した相川の評価を教えることも申請すれば可能だ。これは他人から自分がどうみられているのかを知り、そして今後に生かしてほしいと考案されたもの。生徒手帳にも書かれている」


 何だそれ。知りたいような知りたくないような...。


「はぇ~、そんな制度あったんやね~」

「確か17ページに書かれていたよ」

「流石ゆっきー」


 ほんとだ。この学校で利用できる施設やらの説明部分後半に書いてあった。雪、お前ページ数まで覚えてるのかよ...。


「決まったことは覆らないし、今この学校には学期途中でクラスが変わるといった制度は無い。二年次に期待するんだな」


 そう言って古手川先生は相川の肩にポンと手を置き外へと促す。


「おし。この話はもう終いだ!さっさと飯食うなり次の授業の準備するなりしろよ~」

『は~い』

「・・ない。絶対に・・」(ブツブツ)


 徐々に野次馬が散っていく中、俯き力なく教室を出ていく相川だったが、その姿はどことなく嫌な雰囲気だった。


「ふぅ。あ~しんど。じゃあ俺は職員室に戻るからな。もう面倒事を起こすのは止めてくれ~」


 先ほどのキリッとした姿は何処へやら。ダルんとした空気に戻った古手川先生はガリガリと頭を掻きながら出て行った。


「そう言えば他クラスの生徒の名前ちゃんと覚えてんねんな」

「そう言えばそうなんだよ。普段の態度から何でここの先生をやれてるのか麻奈は不思議だったんだよ」

「ま、あの姿見たら納得だな」


 田中の言う通り初めて古手川先生の真面目な姿を見た気がする。授業中でも欠伸するからなあの先生。


「ようよう七貴ぃ。えらい面倒な奴に絡まれて大変やったな~、ええ?」

「しね」

「そこまで言う!?」


 ようやく落ち着いて飯が食えるってときに絡まれたらそらウザがられるだろうに。そんな様子を苦笑いで眺める雪と麻奈。あ~あ~田中まで加わって・・あ、キレた七貴に拳骨を喰らって仲良く沈んだな。


 こうしていつもの明るさを取り戻し昼休みは過ぎていった。



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