第24話 田中太郎⑪
「やっぱりか...」
夜が明け日曜日となる朝。時間で言うと6時過ぎに目が覚めた。
(昔からこうなんだよな~)
旅行などで普段と寝る場所が変わると初日の朝は必ず早くに目が覚めてしまうのだ。二日目とかになると普通に戻るんだけどな。
(う~ん。ならいつも通りその辺散策するか)
そういった日は二度寝と洒落込むよりも決まって付近を散歩するのがいつしか当たり前になっていた。
寝巻から着替え、首からタオルを下げる。掛け布団を蹴っ飛ばして寝ている更科の布団をかけ直し、テントから静かに出るとお日様はまだ顔を出していないのか薄暗い。
「少し冷える、か」
早朝独特の冷たい空気を胸いっぱいに吸い込むと、寝起きの体が覚醒していくのを感じる。うむ気持ち良き。
「あれ、七貴?早いな」
「お前か」
上着を着ても少し肌寒く感じる空気の中、顔を洗いにいざ炊事場に行こうとすると七貴が欠伸を溢しながらテントから出てきた。
「何々?七貴も早く起きちゃった口?」
「てめぇと一緒にすんな」
流石に寝起きだからか幾分かマイルド調な悪態を頂戴したところで一先ず揃って顔を洗いに行く。
「はるの~、散歩は~、気持ちいい~♪頭ブルブル体ゾクゾク風邪ひくぞ~っと」
「なにその歌!変なの♪」
「おかしな歌ね」
「おん?」
即興で思い浮かべた替え歌を口ずさむと、後ろから可愛らしい突っ込みとクールで優し気な突っ込みが飛んできた。
この声は・・・あらやだ聞かれてた?
「おはよ♪田中君!七貴君」
「おお、愛音さん。夢ノ中さんおはよう。早いね?」
振り向くとスーパー元気娘の愛音さんとザ清楚な夢ノ中さんが揃って歩いて来ていた。
どうやら彼女らも起きてきたばかりのようだった。
「顔洗いに行くの?」
「そそ。散歩がてらね」
「じゃあ私たちも一緒にいい?」
「勿論!ウェルカムよ!」
「七貴君も、いい?」
「ああ」
愛音さんはそのまま駆け足で追いついてくると、俺が先ほどしたように新鮮な朝の空気を堪能する。
その姿のなんと可愛いことか。早起きは三文どころの徳じゃなかった。お金で買えない価値がある。
「二人はいつもこんな早いの?」
「私はそうね。この時間には起きてることが多いわ」
「私は普段こんな早くないよ?でもなんか目が覚めちゃったんだ~。田中君も?」
「そうだな。俺の場合旅行とかの初日はいつも早起きなんだ」
「ふふっ。何だか楽しみで眠れない子どもみたいだね♪」
「ブーメラン当たるぞ~?」
「ブーメラン?」
「言ったことが自分にも帰って来るってこと。つまり普段より早く目が覚めちゃった愛音さんも子どもみたいだって自分で言ってることになるの」
「なるほど!ってあたしは子どもじゃないもん!」
小さく頬をぷくっと膨らませこちらを睨む愛音さんだけど、ただ可愛いだけなんだよね。迫力が可愛さによって飲み込まれてるから全く怖くない。
サァ――ァァ―ッ
「うぅ。ちょっと寒かったかな~」
「だから言ったじゃない。寒いわよって」
「まだ四月だからね。昨日着てたジャケットは置いてきちゃったか~」
「うぅ。顔洗うだけだしいいかなって。歩いてく田中君たちが見えたのもあるけど」
そう言いながら草木を揺らす風が吹くと愛音さんは身体を震わしキュッと目を瞑る。
「・・ほらよ」
「え?い、いいよ!悪いし、寒いよ?」
このまま震える彼女を余所に歩いて行くなんてことはせず、俺は愛音さんの肩に着ていた上着を渡そうとするも一足先に七貴が実行。は、早い・・っ!!?俺でも見逃しちゃったね!
すると驚いたように七貴を見た愛音さんは首をブンブンと振って上着を返そうする。
「気にするな。それとも、いらねえか?」
「・・・いる。えへへ、ありがと♪」
何だ?どうした!?角度的に七貴の顔が見れないけど、愛音さんが凄く照れてるのは分かるぞ!不良の法則はずりぃ!!
「随分と優しいじゃない。昨日悪い物でも食べたのかしら?」
「記憶にねぇな。昨日は美味い伊勢海老を食ったくらいか。ああ、そういやデザートは美味かったか?」
「え、ええ。とっっっても美味しかったわ」ヒクヒクッ
「自ら墓穴を掘りに行くスタイルとは...」
「だね...」
「何か言ったかしら?」
「「ひえっ」」
美人の微笑みって怖いね!
・ ・ ・ ・ ・
顔を洗い終えそのまま四人で散歩することに。せっかくだしどう?と誘うと快く乗って来てくれたので一緒に散歩。七貴は律儀に約束を守り、先に帰ろうとしたのだが愛音さんの逆お誘いを断り切れず同行。
「ねえ田中君、今日は何するの?」
すると前を行く愛音さんが「ふんふん♪」と鼻歌を口ずさみつつも尋ねてきた。その内スキップとかしそう。
「今日はバギーに乗れる場所があるからそこに行ってみよっかなって」
「バギー!バギーに乗れるの!?うわ~楽しみ~!!あ、でも免許とかいらないの?」
「ご安心を。二人乗りだと免許が必要になるみたいだけど、一人乗りなら高校生でも乗れるってさ」
「だから二日目の服装は汚れてもいい服と書いていたのね。加えて着替えも」
きちんとしおりを読んでくれたのだろう夢ノ中さんの格好はしっかりと動きやすい服装、そして長く綺麗な黒髪はポニーテールに結ばれていた。ポニテ!ポニテ!
「その通~り!そのあとは釣り堀で魚釣り体験をして釣った魚をお昼に帰宅って流れだね」
「おお~~~!!」
どうやら俺のプランにご満悦なのか愛音さんは瞳をキラッキラさせて話を聞くとその場でクルクルと踊るように回った。
「あ、そうだ!記念に写真撮ろうよ!え~っと・・、あそこ! 丁度お日様も出てきたしあっちをバックにしてさ!」
「よし来た!どっちので撮る?」
「じゃあ田中君ので!動画とか編集するんでしょ?その方が楽かなって」
「OK!じゃあ撮るぞ~・・ってこらこら、七貴こっち来い! ハイ・チーズ!」
「いえ~い!」
花壇の花々、木々の間に昇る朝日。そして最高の笑顔(仏頂面の奴がいるけど)。思い出に残る写真をうまく取れたことにホッとした俺は携帯を仕舞いのんびりと散歩を楽しむのだった。
・ ・ ・ ・ ・
「到着~」
「こういうのも新鮮でいいわね」
「ありがとね。散歩に付き合ってくれて。楽しかったよ」
「いえいえ。あたしも楽しかったよ!あ、七貴君も上着ありがとう!」
「おう」
時刻は七時になった頃。大体三十分くらい歩いていた。他の皆は・・・まだ寝てるみたいだな。じゃあパパっと朝食の準備でもしますか。
「朝ごはん?あたしも何か手伝う?」
「お、助かるよ。じゃあ人数分のベーコンエッグをお願いできる?」
「了解であります!隊長!」
「うむ。愛音一等兵の活躍に期待する!・・・って急にどうしたの?」
「あはは、何となく?」
「私も手伝うわ」
ぺろっといたずらっ子みたいに笑った愛音さんにフライパンと二口ガスコンロを渡し夢ノ中さんと準備に取り掛かる。フライパンは持参だがガスコンロはレンタルだ。
俺はもう一つのコンロでフレンチトーストを焼き始める。七貴は食器類の準備だ。
ほんとは夜の内からパンを原液に漬けておきたかったのだが、流石に9人分のパンを漬けておくボールも場所も何もかもが足りず断念。
「あ、おはようございます。それ朝食ですか?ご、ごめんなさい。僕も何か手伝えることあったり・・」
「おはよう、西郷君。簡単な調理だから問題無いよ。それよりも顔洗ってき?」
「は、はい!直ぐに行ってきます!」
「え、いやそんな急がなくても・・、行っちゃった」
「行っちゃったね」
「彼らしいわね」
「ふふっ、だね♪」
その後も続々と起き出したメンバー。最後に起きてくる人は誰かと四人で予想し合ったら、愛音さん夢ノ中さん二人が揃って水原さんと予想。
そしてその予想は見事的中。
持参した抱き枕に抱き着き幸せそうに眠っている姿を見て起こすのが申し訳なかった(女性陣談)らしい。
俺も見て見たかった...。
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