第23話 夢ノ中睡②
「・・美味しいわ」
「もう睡ちゃん。だったらもっと美味しそうに食べなよ~」
時刻は21時過ぎ。自分たちのテントに戻ってそれぞれがベットで寛ぎながらデザートを食べていた。
「だって納得いかないもの」
「激つよ」
「下に小さい子が多いから付き合ってるうちに強くなったって言ってたわね。ふふっ、兄は強しってことなのかしら?」
田中君が企画したトランプ大会4連戦。私は最後の大富豪で景品の『モルガンのシュークリーム』を獲得することが出来た。
それはいいの。
だってこのシュークリームは噂に
美味しく無い筈ないもの。
「でも確かに七貴君強かったね~。まさか全戦全勝一位通過って驚きだよ」
和歌奈はそう言ってパクっとスプーンを咥える。彼女が食べているのは残念賞と銘打ったプリンだけれど満足そうに味わっている。
(ちゃっかり田中君もシュークリーム食べてたのよね...)
31で2位となり更科君に文句言われながらも堂々と食べていた姿を思い出す。お昼でもホタテを食べていたし、正直なところ彼にも思うことはある。
(でも、彼はいいの)
そう。問題は田中君じゃないわ。
『良かったな。シュークリーム食えて』
思い出すのは憎たらしく笑う七貴君の顔。
先ほど和歌奈が言ったように彼はババ抜き、七並べ、31、大富豪全てのゲームに勝利し一位に君臨していた。
(手札は悪くなかったのに...)
シュークリームを得る最後の勝負。既に景品を手に入れた三人以外は誰もが真剣だった。その中で流れを完全に読み切った七貴君のプレイに成す術も無く私は敗れた。
何より悔しいのが順番的に七貴君が上がったお陰で次である私が上がれたのが素直に喜べない原因だった。これじゃあまるで彼のお零れを貰ったみたいじゃない!!
「田中君明日も何かイベント考えてるかな?」
「・・どうかしら。しおりによると明日は他の施設を巡るみたいだけれど、お昼までとなると多くは回れないし難しいんじゃないかしら」
「ん~それもそっか~。でもさ、今日だけでも凄い色々やったから明日もってあたし楽しみなんだ」
そうニコニコと笑う和歌奈。
「ええ。私もよ」
家族以外とこうして外で遊ぶなんて初めてで新鮮だったわ。
「翆ちゃんも?」
「・・うん。楽しかった」
翠は眠そうに小さく欠伸を溢した。
「明日最後にでもそのこと太郎に言ってあげたらあの子凄く喜ぶわよ?」
「はい!ちゃんとお礼を言います!こんな楽しい企画に招待してくれてありがと!!って」
そうね。田中君には改めてお礼を言わないとね。ほんといきなりだったけれど、楽しかったのは確かなのだから。
「勿論翠にも、ね?」
「そだね!翆ちゃんありがとう!!」
「ぅん」
照れたのか目を逸らしつつ髪を触る翆。
(初め翠がキャンプ行こって誘ってきたときは驚いたものね。どう見てもそんなアクティブな子じゃないって思ってたもの)
ある日の放課後に田中君と翆に誘われたときその内容もだけれど、あなた達いつの間にそんな仲良くなったの?って和歌奈と二人で目を丸くしたのを覚えているわ。
でも話を聞けばこれから一年を共に過ごすと言うことで、お互いを知るためのちょっとした交流会に翠が最初に誘われただけ。翠は面白そうだけども一人は不安だと言うことで、私も一緒にどうかと思ってくれたらしい。
そのお誘いは素直に嬉しかった。短い期間だけれど彼女の不安を和らげれる友達と見てくれていたんだもの。
(でもよくよく考えてみれば交流会って感じじゃないわね。一組全員に声を掛けた訳じゃなさそうだったし)
田中君の軽いノリと翆から誘われた嬉しさでついつい深く考えなかったけれど、出会って一か月も経ってない女性を遊びに、それも宿泊込みで誘うなんて意外と田中君って、その・・女性遊びするタイプなのかしら?。
それとも私の考えが古い?
「ねえ睡ちゃん。思い切って来て見てよかったね!!」
「ええ。そうね」
今は楽しそうな和歌奈だけれど、当初一番心配していたのは彼女だった。私たちも一緒に行くから来たものの、度々『ホントに大丈夫かな?襲われちゃったりしないかな?』と不安そうだった。
確かにメンバーはクラス一、二を争う強面二人にその二人と数日で仲良くなった謎のクラスメイト。更科君は・・特に懸念点は無かったけれどもまだそんなに話したことは無かった。
そんな彼女も今では明るい太陽のような笑みを浮かべている。
(勇気を出して正解だったわね。和歌奈)
「そう言えば佐那さんって田中君と知り合いなんですよね?」
「うん?そうよ~。私の愚弟の友達って繋がり。
「田中君って昔からあんな感じでしたか?」
「そうね~、じゃあ先に聞いてみよっかな。今日一日だけどあいつと遊んでどうだった?」
そう言ってベットに腰掛ける佐那さんが訪ねる。
「へ? う~んと楽しい人って感じです!」
「ふふっ、太郎は楽しいこと大好きだからね~。翆ちゃんは?」
「良い人、とは思う」
「いい人か~。因みにどこら辺が?」
「色々、手伝ってくれる・・とことか?」
「あ~、太郎らしいわね」
「睡ちゃんは?」
「そうですね...」
彼はどんな人...。今日の田中君を思い出すと、そう―――。
「いつも笑っているかしら?」
「確かに!田中君ってよく笑ってるよね!」
「ん」
流石にずっとでは無いけれど、今日の彼の様子を思い出すと笑っている顔がほとんどだった。それほど印象に残っているってことなのかしら?
「うんうん。太郎らしいわ」
「ってことは・・?」
「ピンポンピンポーン。中学の頃からな~んにも変わってないわ。そのまんま体だけ成長した感じよ。でも太郎の凄い所はそこだと私は思うわ」
『???』
昔と変わってないところが凄いところ?どういうことなのかしら?
「太郎は今回のとこもそうだけど、楽しいことの為にしっかりと準備を怠らない。そして自分だけじゃなく相手もしっかりと楽しめるよう配慮を欠かさないの。性格とかしっかり考えてね。結果彼が絡む事柄は全て大成功になってきた。中学生でそれが出来るってかなり凄いことじゃない?」
「そう言われればそうなのかな?」
「確かに、凄いことですね」
「ふふっ。まあ今はまだピンと来ないかもね」
勿論佐那さんが今行ったことは凄いと思うのだけれど、企画者としてはありふれたことのような気もするのは確かだった。
「ま、あたしから頼むのも変な話だけれどこれからも太郎とは仲良くしてあげて?」
「はい!それは勿論です!だってもう友達ですから!!」
「そうですね。彼の人となりはとても好ましいですし、私の方からお願いしたいくらいです」
「ん」
佐那さんに頼まれなくてもそれは大丈夫だと私たちは頷き合った。
「そう...。それを聞いて安心したわ。(パンッ!)はいそれじゃあここからは女子トークのお時間よ!まだまだ夜は長いから覚悟しなさ~い!」
顔を綻ばせた佐那さんは手を鳴らして空気を切り替えると、テンション高めにそう切り出したのだった。
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