第22話 更科健太①

「へっくしょい!!」


 うう~流石にまだ四月。夜中は冷えるわ~。


「大丈夫?こっちの焚き木近く暖かいよ!」

「おお、ありがとさん」


 和歌奈ちゃんの隣に立つと彼女が言う通りパチパチと赤く燃える焚き木の近くは暖かかった。それにしても田中のやつ上手くやってんのやろうか? ようやっと翆ちゃんと二人っきりになれたみたいやけど、今日見てるとあいつ自分の計画忘れてんのちゃうか思うくらい普っ通ぅ~に楽しんどったし。


「うわっ見て見て!星空!綺麗...」

「ん~?ほ~、ホンマや!これは普段見れへんな~」

「うんうん!凄いなぁ」


 なんやろ。今結構いい感じやない?べ、別に狙った訳ちゃうで?偶々和歌奈ちゃんみたいな美少女と星を眺めるシチュエーションに恵まれたんや!


「あ、あれがおとめ座だよ!」

「どれや?」

「う~んとね~、あそこに光ってるの分かる?」

「ん~、お、あれかな?」

「見つけた?そこからね~・・」

「お、おう・・」


 楽しそうに説明してくれるんは有難いんやけど、この子パーソナルスペースちょい狭いんちゃう?視点合わせるためやろうけど、身体寄せてきおるから肩とか普通に触れとんねんけど!?あ、めっちゃええ匂い。


「お~、あれがおとめ座なん?」

「そう!私の星座!」

「なら誕生日近いん?」

「ううん。私の誕生日は8月27日だよ」

「ん? せやったら今見えるのおかしない?」


 おとめ座やのに誕生日は8月ってどうなってるん?今4月やで??


「それ私も気になって調べたんだけど、星座が生まれたのって約2000年も前のギリシャらしいんだ。それで太陽の通る道、黄道こうどうって呼ばれてるんだけどその黄道を12等分して重なった星座を黄道12星座って呼ぶようになったのが始まりなんだって。星占いもそこから来てるそうだよ?」

「お、似たようなの聞いたことあるな。確かそこでは黄道おうどうやったで」


 主人公が火竜の!って火ぃ吹いとったな。


「あ、私も知ってる!魔法とか出てくる漫画でしょ?面白かったよね~。あ、で。昔々に決められた星座を今も使ってるんだけど、昔と比べて地球の自転軸がだいぶ変わったみたいでその影響からズレちゃったんだって」

「は~~。やから実際の誕生日に見える星座と自分の星座は違うんやな~」

「どう?勉強になったでしょ!」

「なったなった!意外やったで。和歌奈ちゃん星座に詳しいん?」

「う~ん...」


 何の気なしに尋ねたら和歌奈ちゃんは眉をヘナってさせ困ったような、それでいて物思いに浸るような顔になった。


「そういう訳じゃ、無いんだけどね。今回は偶々だよ、偶々」


 あははと、そう直ぐに元の明るい和歌奈ちゃんに戻るとまた星空を見上げた。


「・・・星ってさ、キラキラしてて綺麗だよね」

「せやな~」

「ほんと、綺麗だよ...」


 和歌奈ちゃんが何を思って今星を見上げてるのかは俺には分からんかったけど、軽い気持ちで踏み込むんは違うと思って軽く流した。それに触れるには俺たちはまだお互いの事なんも知らんしのお。


「星を眺める和歌奈ちゃんもキレイやで?」

「あははっ。ありがと!!」


 冗談じゃないけど冗談めかすと和歌奈ちゃんは向日葵のような明るい笑みを浮かべた。



・ ・ ・ ・



「――あの子凄く可愛かったよね!!もう掌で丸くなってさ!思ったよりとげとげしてなかったの意外だったなぁ~」

「犬や猫だけやのうてちょっと珍しい動物にも触れたの良かったな~」

「―――はあはあ...っ」

「なんや西郷、そない慌ててどないしたん?」

「い、いえ・・別に、はぁ、はぁ...」


 再び和歌奈ちゃんと雑談しとるとトイレに行っとった西郷が帰って来たんやけど、息切らして何しとんねん。


「ただいまっと」

「おっ、おかえり~。帰って来たか」


 少し遅れて田中と翆ちゃんが帰って来た。二人の雰囲気は・・特に変わってないな。ま、そんな早くに付き合うとか無いか。


「田中君、翆ちゃん!洗い物任せちゃってごめんね。それでありがとう!」

「気にしないで愛音さん。これも幹事の役目ってね」

「ん」


 女子の幹事は翆ちゃんってことか?


「お帰り田中君。それで?」

「分かってる分かってる。この後はみんなでトランプ大会! 景品は何とあの『モルガン』で作られる一日に50個限定のシュークリーム!!!食べられる人は4人だ!!」

「ほんと!?やっったぁぁ~~!!あたしあそこのシュークリーム食べたかったんだよね!!よ~っし負っけないぞぉ~!!」


 モルガン言うたら確か駅から一時間くらいの大手百貨店内にある店の名前やったな。なんやSNSでもめちゃくちゃ美味しいってトレンドになっとったはず。


「そんなもんどこに置いとったん?」

「テント内に小さな冷蔵庫あるだろ?そん中」

「あ~確かにあったな。中まで見てへんかったから気付かんかったわ」

「あ、僕見ましたよ。袋の中にあって『触れるな、馬鹿者!』って張り紙が張ってあったので中までは見ませんでしたけど」

「そんでまた人数分無いんかい...」

「だっておひとり様4個までだったし。勝負になんないし」

「どうなっても知らんで~?」


 ちらりとある人の方を見ると静かにやる気を溢れさせていた。


 話が盛り上がっていく内に他のメンバーも集まりだし俺たちはテント内に入っていく。中はそこそこの広さがあると言えど、9人ともなると全員は座れへん。やから何人かがベットに乗っかり準備万端。掛かってこい!


「よし。ゲーム内容はババ抜き、七並べ、人数多いから51じゃなくて手札三枚の31、最後に大富豪の4番勝負でそれぞれ一位になった人が景品ゲット!あ、当たり前だけど複数回買っても二個は食べれんからな」

「了解よ。早く始めましょう」

「おおぅ、気合の入り方が尋常じゃないね」

「ええ、勿論よ。負けっぱなしは性に合わないの」

「はっ、また負けても文句言うなよ?」


 誰に対して言ってんのか丸分かりな睡ちゃん。七貴も勝負事は嫌いじゃないんか睡ちゃんの視線に鼻で笑いながら答える。翆ちゃんは既に集中モード入って配られるカード穴開くくらい見つめとるし、和歌奈ちゃんも『むむむっ』と声漏らしとる。

 女子は真剣やな。


「ふふ。流石太郎。良い物を商品にするわね」

「そうだね。太郎のこういった時の行動力は相変わらずだ」


 ハーゲンダッツくらいのモンを想定してたけど、これは誰であろうとガチになるやろ。


「さあ!いざ尋常に!」

「「「「「「「「「勝負 ! ! !」」」」」」」」

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