第20話 田中太郎⑨
「んぁ?ここは?」
ぼやぁっとした視界に暖色系の明かりともる天井が映る。ならばあのセリフを言うしかない。
「知らない、てんじょ「あ、目が覚めたんですね」西郷君?」
ぬっと頭の上から強面イケメンこと西郷君が現れる。
「あ~、介抱してくれたわけか。ありがとうな」
「いえいえ。でも気を付けてくださいよ?」
安心したように笑う西郷君にぺこりと頭を下げる。それにしてもかぁ~情けない。漫画とかでサウナ入って気を失うとかザッコwwとか言ってた過去の俺ザッコ!
「どれくらい気を失ってた?あと七貴達は?」
「ここに運び込んでから5~6分くらいですね。七貴君たちでしたら先に休憩所の方に行ってます。大勢残っても邪魔ですしね」
そらそうだ。
「ありがとな」
「当然のことをしたまでですよ」
「そう言わずに、迷惑を掛けた訳だし、な?」
「ならえっと、どういたしまして?です」
「
と、ここまでタオルを掛けられていたとはいえ真っ裸で話していたので冷えを感じた。
「軽くシャワー浴びてくる。少し冷えた」
「そうした方がいいですね。僕の方で皆に伝えときます」「よろしく」
・・・・・・
「お、田中こっちやこっち!」
熱いシャワーを浴び休憩所に行くといち早く俺に気づいた更科が手を振っていた。窓辺で丁寧に整えられた日本庭園を眺められる絶好のポジションを確保しているようで、今の季節はライトアップされた桜の木が綺麗であった。ちょっと葉っぱが見えてるのはご愛敬。
「ほら太郎。君の分」
「あざす」
そこにやってきた勝重さんからフルーツ牛乳を受け取る。他のやつらの手元にも空瓶があるから全員に奢った模様。ごちになります!温泉上がりと言えばこれでしょう。蓋開けて、手は腰にぐびっと、うん。美味い!
「女性陣はまだですか?」
「そうだね――、いや今来たよ」
「今北産業ですか。ほんとだ。こっちこっち~」
「お待たせ~」
噂をすれば影。佐那さんを先頭に四人が歩いてくる。
う~ん。風呂上がりの美少女三人は何というかドキドキするものがあるな。
「感想は?」
「最高ですね!って何言わせるんですか佐那さん...」
「ふふん。太郎とはそれなりの付き合いになって来てるからね~。何考えてるのか何となく分かるのよ」
「佐那さんには敵わないな~」
佐那さんとは今年で4年目の付き合いになるがよくしてもらったものだ。主に俺とあいつの悪ふざけの尻ぬぐいで。
「あっ、フルーツ牛乳いいなあ~。私も買ってこよ!」
愛音さんが男性陣の手元にある空き瓶を見て自動販売機に向かう。
「あたしも飲も~っと。睡ちゃんと翆ちゃんもいる?奢ってあげるわ」
「あ、ありがとうございます」
「ん、ごちです」
「それじゃあもうちょっと休憩して帰ろうか」
「そうですね。お~い更科、あとちょっとしたら帰るぞ~」
「あ゛あ゛あ゛~~~ぁぁぁい」
マッサージチェアを楽しむ更科。おっさんかよ。西郷君はのんびりと風景を楽しみ、七貴は携帯を弄っていた。
俺は勝重さんと話しながらそんな彼らの姿を写真に収めるのだった。
――――――
「さて。今夜のメニューは伝えていた通りカレーな訳だが」
時刻は19時を過ぎた頃。流石に日は沈み辺りは暗くなっている。とはいえ今回のグランピングでは明かりの心配はない。キャンプ気分を邪魔しない程度には用意されているし足場も悪くない。
そこに加えお昼に使った火種を焚き木に移し成長させる。これでばっちしだ。
「何かいいね!外でする料理って!」
「ふふっ。そうね。普段味わえない魅力があるわね」
有り難いことに文句ひとつ言わず、寧ろ楽しげに食材を準備していく夢ノ中さんと愛音さん。昼間もそうだったけど二人とも普段から料理をするのだろうか?
「あ、更科君。この人参の皮剥いといてくれる?」
「了解や」
「肉ここに置いとくぞ」
「ええ、ありがとう」
「そう言えばオーソドックスなカレーなんですね」
「お?色物をご所望か西郷君。意外だな」
「あ、い、いえ!そんなつもりは!田中君だったらもしかしてって思っただけで...」
「なぁに~?それはつまり期待に添えなかったと言うことか!?この俺が!?」
「期待外れ」
「み、水原さん!?」
「くう、みんな大好きカレーをチョイスして思考を止めていた俺が甘かった。――甘口だけに」
「「ぷふっ」」
人数が人数だからその分食材の量も多かったが、夢ノ中さんと愛音さんが指揮を執り完璧と言っていい程の連携でカレーが完成した。そんな俺らを國枝夫妻が動画撮影をしてくれる。のちのち面白おかしく編集してやるぜ~。
「よ~し。みんなコップもったな?それじゃあ乾~杯!!」
『乾杯!!!』
パクリと一口。うん美味い。安定の美味しさ。それもキャンプという雰囲気も相まって普段以上にうまく感じるから雰囲気って大事よな。
「お~いし~ね!睡!」
「ええ。とっても」
「あ、水原さんありがとうございます」
「うん」
「普段中辛やけど甘口もまた美味いな~」
「田中、これナンか?」
「おう。いるかな~って」
「持ってくるか普通...」
「あ、僕貰っていいですか?好きなんですよ」
「おう食え食え。大した数無いから早い者勝ちだけどな」
「あなた半分こしましょ?」
「うん、いいね。そうしようか」
その後もワイワイと晩御飯は進みあっという間に鍋の中は空になったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます