第18話 田中太郎⑧


「田中君いっくよ~!!」

「ヘイ、カモンッ!!ってあれ?」

「ちょっと和歌奈、急にこっちに投げないで。びっくりするじゃない」

「あれ?おっかしいな~」

「まったく。田中君いくわよ」

「OK!バッチコォ~イ?」

「あはは、睡だってへたっぴじゃん!」

「おかしいわね?」

「・・・」



「七貴、俺の球打てるもんなら打ってみい!!」

「打ちごろだ!」

「うそん!?」



「絵、上手」

「い、いえ全然そんなことないですよ。・・あのちょっと恥ずかしいんで見ないで頂けると...」

「ん。後で見せて?」

「えぇ...」


 あのあと七貴たちも乗馬を体験し動物成分を堪能した俺たちは広場で各々(男子組)が持ってきた遊具で遊んでいた。俺がフリスビー、更科がバットとボール(プラスチック製)。西郷君はスケッチブックに絵を描いていた。


 こういう思いっきり外で遊べる場所って中々無いんだよな。緑が減ってお兄さんは悲しいよ。


 そんな俺たちの他にも子連れ一家や犬を散歩させている人もいる。それでも十分な広さがあるから気を使わなくていいのがまたいいね。




ぐぅぅ・・




「ん?お、もう17時か。時間が経つのは「田中君危ない!!」あイタぁ!!?」


 フリスビーが額にクリティカル!!


 ふふふ、油断しているところにとは愛音さん中々やりおる。フリスビーを拾い上げると愛音さんが慌てた様子で駆け寄って来た。ちょっと夢ノ中さん、とっさに顔を背けたけど肩震わしてるの酷くない?


「大丈夫!?怪我してない??」

「あー大丈夫大丈夫。ナイスヘッドショット!愛音さんスナイパーの素質あるよ!」

「へ?あ、ふふっ。スナイパーって。バ~ン!なんちゃって」

「撃たれた~ってか?」

「ちゃう!!!」

「は?」

「え?」


 愛音さんの可愛らしい銃撃に軽口を返すといきなり更科が声を張り上げた。


「そこはこうすんねん!」クイクイ

「え、え~っと、バン!」


 更科はなにやら食い気味に愛音さんへ手招きする。その意図を戸惑いながらも汲み相手してあげる愛音さんの優しさよ...。


「うぐっ!?・・うぅ...」――バタリ

「迫真の演技ね...」


 呆れる夢ノ中さんを余所に胸を押さえ本当に苦しそうに呻いた更科はガクッと膝を着き地面に倒れ伏した。流石関西人。マジでやるんだ。


「田中分かったか!これくらいせなあかん!常識やぞ?」

「いや知らねえよ」


 何事も無かったかのように起き上がったけど、そんな常識は知らん。


「そろそろ飯の準備か?」

「そうだな。因みに定番のカレーな」


 やっぱりキャンプと言えばでしょう。遊びに夢中になっていたから気付くの遅れたけど、日も暮れてきている。時間としては丁度いいんじゃないか?


「やった!あたしカレー大好き!」

「うんうん。やっぱカレーは正義だよな。あ、それとお風呂どうする?」

「そうね。軽く汗も掻いたことだし先に済ませたいわね」

「了解。じゃあ各自風呂の準備しに戻ろうか」

『は~い』





―――――




と、言うわけでやって来ました『スパ ― 舞岳の湯 ―』。ここのキャンプ場内にあり、無料送迎バスも巡回しているのでそれを利用。調べたところ結構な種類の温泉があり、露天風呂に岩風呂、炭酸風呂に季節によって内容が変わる花風呂なんかもあるそうだ。


「結構ちゃんとしてんだな」

「どんなところを想像したのかは知らんがここれっきとしたリゾート施設だからな?」


 フロントで靴箱の鍵とロッカーキーを交換し脱衣所に向かう。館内は清潔感がしっかりと保たれており、静かでゆったりとしたBGMが流れていた。木の柱や畳といった和のテイストは日本人だからか居心地がよくどこか落ち着く。


「じゃあここでお別れだな。上がったら休憩所で待つってことでよろし?」

「ええ。分かったわ」

「早く行こ!翆ちゃん、睡!」

「ん」

「え、ちょっと走っちゃ・・ああもう。それじゃあまた後で」


 待ちきれず瞳をキラキラさせて突撃していった愛音さんに釣られたように水原さんもトコトコと暖簾を潜って行った。


「それじゃあそっちは頼んだよ」

「ええ。大丈夫だと思うけどね」


 一応の保護者として佐那さんが微笑まし気に女湯へと入って行った。


「じゃあ俺たちも行こうか・・ってあれ?更科と七貴は?」

「えっと、更科君は覗き穴探すんやーって先に...」

「七貴は?」

「先行くぞって...」

「西郷君」

「は、はい」

「やっぱり君はいい奴だ・・っ!」

「あ、あはは」


 くそう。七貴はともかく更科のやつ先に行きやがって。





 俺も探すぜひゃほう!!

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