第12話 西郷敦盛②
「え~っと売店は、ここが現在地で・・」
田中君に連れ垂れてやってきたここ『荒崎リゾートキャンプ場』は何でも数年前にできたばかりのキャンプ場で、広大な敷地の中に本格的なキャンプが出来る場所の他にも僕たちの様なゲルやログハウスといった建物もあります。
(釣り堀やアスレチック、へ~ボルダリングもあるんですね)
手元のリーフレットで地図を見ながら歩いていく。
更に小動物と触れ合える場所、乗馬体験と子どもから大人まで幅広い世代が楽しめるリゾート地で今日明日が楽しみで仕方ありませんね。
辺りをグルッと見渡せば、サァーッと気持ちのいい風が草花を揺らし頬を撫でます。普段過ごしている街では味わえない自然の空気。何処か実家に近いものを感じますね。
離れたところから聞こえる他のグループのワイワイと笑い合う声。天候や気温も4月中頃としては温かく過ごしやすいです。
(こんな素敵な場所に連れてきてくれた田中君には感謝ですね)
「っといけない、いけない。早く飲み物を買いに行かないと・・」
誰に聞かれるでもなくそう呟いた僕は駆け足で売店へ向かって行くのでした。
――――
チリン、チリィン
「いらっしゃいま...、せ」
売店を見つけ可愛らしいベルの音に反応して店員がこちらを向き声を詰まらせた。笑顔の似合う女性店員だったけれど既にその表情は引き攣ってしまっていた。
僕の頬には大きな傷があります。小さいころに出来た傷で手術までするほどでした。それに加え西郷家の男子は全員身長が190を超えます。お父さんもお爺さんもその先も・・・。写真で見せてもらった限りでは全員が大きい。おまけに柔道は家訓として黒帯にならなければならず、その為がっしりとしてます。
顔の彫りが深く、目は釣り目。近所ではちょっとした有名一家になっているほど。『マスクは極力つけるな。問題が起きるから。』とよくお母さんに言われてました。
初対面の人に怯えられるようになったのはいつからだっただろうか。少なくとも中学ではまだ避けられるくらいだったと思います。
(いやいや、それも大概でしょうに...)
思わず自傷気味に笑ってしまい更に店員さんは顔を引き攣らせてしまいました。申し訳ないです。
(早く買って帰ろう...)
頼まれたのは飲み物。お菓子やフリスビーといった遊具にキャンプ用品とその品揃えの良さに驚きつつ、さっと見渡し飲料コーナーに向かう。
「ひっ」
運悪く僕と鉢合わせてしまった他のお客さんが驚きのあまり手に持っていた商品を落としてしまう。
僕は心の中でごめんなさいと謝りながらレジに進む。
「よ、4点で831円・・ですっ」
「1001円でお願いします」
「ひゃい!1001円お預かりいたします!――170円のお返しです!」
「ありがとうございます。あの、なんかすいませんでした」
「え、いやっ、あのっ!」
出来るだけ相手を威圧しないようにこちらの謝意を伝え僕はそそくさと売店を後にした。
―――――
「おっ!お~い、西郷く~ん!」
歩いてきた道を戻っていると後ろから名前を呼ばれ振り向く。そこには二人の男女が仲良く手をつなぎながら手を振っていました。
「勝重さん、佐那さん。どうしたんですか?」
田中君が同伴者として連れてこられたご夫婦で、男性の方は
「いやなに。周辺散策ついでにお手洗いをね。そしたら見覚えのある後ろ姿見えたもんだから声を掛けさせてもらった訳だよ」
ガッチリとした体形でジーパンにシャツとラフな格好の勝重さんはそう気さくに言いました。
「そうね~。太郎から『付き添いという形だけであとは好きにして下さい。』とは言われているけれども、それじゃあ味気ないでしょ? それにあたし個人としても話してみたいと思ってたのよ」
勝重さんと同じくジーパンとシャツというラフな洋装ながらスラッとした佐那さんは凄くカッコいい女性という感じです。
二人とも警察官として働いているそうで、何でも佐那さんの弟さんが田中君の友達なんだとか。その関係で昔から仲良くさせてもらっているとのこと。
今回丁度休みが重なり、久々に二人でのんびりできる場所を探していたところに田中君が話を持ち掛け、来てくださったそうです。
「話ですか?」
「そうそう。太郎の奴が超有名高校に合格したって聞いてさ、上手くやっていけるのかちょっぴり心配だったのよ。結局こっちの心配なんて馬鹿馬鹿しく思える程、太郎はいつも通り太郎だったわけだけどね。でもまさか一番最初に仲良くなったのが君みたいな強面君とは、しかも二人。もう一人は確か七貴君だっけ?」
「あ、はいそうですよ」
「おい佐那」
「ん?ああ、ごめんごめん。気を悪くしないでね?」
「いえいえ、怖がられるのは割と慣れているので」
「え~そうなの?あたしは結構好みよ?かっこいいじゃない。渋くて」
「まったく、ほぼ初対面なのにぐいぐい行き過ぎだ」
額に手を添えて首を振る勝重さんに、どこか納得していないのか佐那さんは頬を膨らます。
「さっきも言ったけどあたしは好きよ?自己紹介の時も怖いなんて思わなかった。確かに職業柄そういう人たちを見慣れてるってのもあるかもしれないけれど、西郷君は優しくていい子ってのはちゃ~んと分かってるわ」
そういってパチンとウインクをする佐那さん。家族以外でこうも女性に真正面から褒められることが無かったからか頬が熱くなってしまい咄嗟に目を逸らす。
「えっとありがとうございます。僕をそんな風に評価していただいて。けれど僕佐那さんに何かしましたっけ?」
佐那さんの優しくていい子という評価はムズ痒くも素直に嬉しいです。ですが身に覚えが無いんですよね...。
「うん?そうねぇ。常に車道側を歩いて後方を注意していたし、電車でお年寄りに席譲ってたでしょ?気取った感じも無しに自然と出来ているあたりこの子はちゃーんと普段から周りを見てるんだなってね。お姉さん感心しちゃったわ」
「あれは、姉に教え込まれていただけで・・」
5つ年上の姉曰く『気遣いできない男はシモにしか興味がない奴なのよ』とのことで、お酒片手に愚痴ってました。大学で何があったのでしょうか?
「だったらお姉さんに感謝しときなさい。あれだけ自然に振舞える子最近いないわよ?ねぇ、あ・な・た?」
「・・・これからは気を付けます」
そう言って佐那さんは肘で勝重さんの突っつきました。
「よろしい!さ、早く戻ろう。あたしお腹減っちゃったからさ」
「そう、ですね」
仲いいなぁと思いながら僕は二人と話しながらキャンプ場所へと戻るのでした。
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