第9話 田中太郎⑤


「郁人、ちゃんと二人に連絡しないと駄目じゃないか」

「すまん。昨日は田中が噂通りの奴じゃないってわかって安心したらすっかり忘れてたんだよ」

「「ごめんなさい...」」


 何とか双子の誤解も解けたので一件落着。


「昨日の神崎にも言ったけど、実害があった訳じゃないから気にしてないない。ただ七貴の奴も変に怖がらないでやってくれ。あいつあんな見た目でもいい奴だから。慣れあいは苦手みたいだけどな」

「う~ん、本当?」

「まだちょっと怖いの...」


 まだ少しだけ不安そうな瑠奈ちゃんと麻奈ちゃん。まあ、確かに怖いのは分かる。俺も初めて見たときはビビったもん。


「何もしなけりゃ大人しいもんさ」

「てめぇは人を何だと思ってんだ」

「あたっ」


 随分と不機嫌そうな声と共に頭頂部に衝撃が走る。振り向くと七貴がペットボトル片手に握りこぶしを固めていた。


「おい!人が折角フォローしてやってんのに殴ることは無いだろ!?」

「頼んでねぇ」

「かぁ~!可愛くねえ奴!」


 しかし俺に気取られることなく背後に立つとはやりおる。


「あ、あの・・っ」

「あん?」

「ひぅ・・、えっとその、さっきは...」


 と、そこに勇気を出したのは双子の姉の麻奈ちゃん。瑠奈ちゃんは冬室の後ろに隠れていた。


「何だよ?」

「うぅ...」

「顔が怖いぞ~」

「あ゛?」


 何でケンカ腰なのこいつ。俺でもビビるわ。


「七貴すまん!!」

「は?」

「俺、後から来たからよく分かってないけど、二人が気に障ること言ったんだよな?」

「いや、別に――」

「でもそれは悪気があっていったんじゃないんだ!信じてくれ!」

「だから気に――」

「ほんとはもっと優しい子なんだ。ちょっと噂に踊らされたって言うか、俺もなんだけど、だからごめん!!」


 がばっと勢いよく頭を下げた神崎に目を丸くする七貴。元はといえば神崎がしっかりと報告してたら起きなかった問題だもんな。

 自責の念はしっかり感じてるみたいだ。


「だから俺は――」


 硬い表情、震える拳をぎゅっと握る神崎に七貴が答えようとしたその時。


「「ごめんなさい!」」

「――気にして、は?」


 可愛らしくも切実な声に再び七貴の返事がインターセプトされる。


「私たちまだ知りもしないのに七貴君の陰口みたいなこと言って...」

「うん、本当に最低なの...」

「ふ、二人とも...」


 頭を下げた神崎を挟む形で瑠奈ちゃんと麻奈ちゃんも頭を下げた。


「「七貴君、さっきは酷い事言ってごめんなさい!!」」

「・・・・・」


 凄いな。ちょっとした芝居を見せられてるみたいだ。何だか盛り上がってきてるところ悪いんだが、そんな深刻な問題じゃないからな?

 おい麻奈ちゃん。やっぱり怖いのか神崎の袖をちょんと摘まむの可愛すぎるんだけど。

 瑠奈ちゃん。その涙目非常にGoodです。写真いいですか?駄目ですよね、ごめんなさい。


 そして七貴、笑っていい?


「・・」ゴッ

「いっっっってぇな!!?なんで殴った!?」

「顔がムカついたからな」

「おまっ!」

「俺は気にしてない」

「「「!!」」」

「誤解や勘違いは昔から慣れてる」

「「「・・・」」」


 そう言い残し七貴は自分の席へと戻っていきそのタイミングでHR開始のチャイムが鳴り響いた。




―――――




「大変でしたね」


 一限目の授業が終わり、次の準備をしていると西郷君が気まずそうにやって来た。


「これはこれは。友達を見捨てた薄情者じゃあ無いですか~。俺のSOSを流しやがって。今日の昼飯パン一個奢れよ~」

「あはは、僕では荷が重かったんです。それで田中君が許してくれるなら安いものです」

「まったく。で、だ。あの双子の誤解は解けたわけだが――」

「水原さん、ですよね?」

「そそ。あっちに関してはマジで見当が付かん。まだ挨拶する程度の関係だぜ?」

「何か言いたげではありましたよね?」


 当の本人は何も言わずに離れてったし、休み時間に改めてって感じじゃない。今は普通に夢ノ中たちと話している。


「大事な用があるのでしたらまた来るのではないでしょうか?」

「それもそうだな。気にしても仕方ない、か」


 結局その日、再び水原さんから話しかけてくることは無く。平穏に過ぎていった。




授業ペース早すぎ。



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