第4話 七貴奈木①
◇
「チッ、水樹の奴どこ行った?」
今日は当番じゃなかったが帰り道で偶然あいつに見つかったのが運の尽きだった。先に気づいたのは俺だったが離れようと目を離した5秒後には後ろから腕を掴まれた。
そのまま上手いこと言いくるめられて体のいい荷物持ちにされてしまった。
(くそッ、さっさと帰ってバイトまで寝るつもりだったってのにめんどくせえ)
しかも当の本人は少し離れた際に
「それにしてもさっき男二人に絡まれてた子、大丈夫かな・・?」
「あ~、遠目だったけど結構可愛かったよな。んでも俺たちが行ってどうしろってんだよ。可哀そうとは思うけど忘れろ」
仕方なくスーパーの入口で待っていると聞こえてきた会話。普段なら気にも留めないが今は違った。
「おい」
「そう言えばあの制服って・・はい?――ひっ!!?」
「ごめんなさい!!?」
レジ袋片手にそいつの肩を掴んで無理やり引き留める。怪訝な顔で振り返ったそいつらは一瞬で顔を引き攣らせ固まったが、どうでもいい。
「今の話、詳しく聞かせろ」
・ ・ ・
「くそっどこのどいつだ?」
二人の話によるとさっきまでいたスーパーの裏口付近で、チャラそうな男二人組が公立
「どこだ・・?」
水樹は生意気な奴だがそれでも大切な身内だ。おかしなことしやがったらただじゃおかねえぞ。手に持った荷物が酷く邪魔だが、投げだしたら投げだしたらで後であいつが煩くなる。
(いた!)
建物と建物の細道。その前で水樹と三人の男。酷く不安げな水樹は携帯を握りしめていた。
―――ぁの野郎っ!!
「それじゃ、そうい・・とで。ナンパも・・・な~」
近づくにつれ聞こえてきた会話。ペコリと軽く頭を下げて離れていく二人の男。
「水樹!!」
「えっ?あ、奈木兄ぃ!!」
俺の声に反応して驚いたような、でも嬉しそうな表情を浮かべる水樹と目を見開いた男。
「そいつからっ・・」
「は?え?ちょっ・・まっ!!?」
「離れろ!!!」
「へぶるっ!!!?」
走り、男の顔面目掛けてハイキックを繰り出す。中学生を手下にナンパさせるような貧弱な奴だ。避けることも何も出来ずアホ面晒して地面に転がった。
「無事か?」
「ちょっと奈木兄ぃ何でいきなりっ!?」
「残り二人は・・ちっ、どっか行きやがったな」
「ってそうだ!た、太郎さん!大丈夫ですか!?ああ、白目向いちゃってる・・。太郎さん!!」
「おい水樹。何をして・・?」
「多分奈木兄ぃ勘違いしちゃってるけどこの人はさっき私を助けてくれた人!恩人になんてことしてくれるの!」
恩・・人?
(そういやこいつ俺と同じ制服、桜城高校のやつか・・?)
・ ・ ・
「ほんとごめんなさい!!太郎さん。うちの暴力兄ぃが飛んだ失礼を・・」
「あ~、大丈夫大丈夫。大した傷じゃないから。お昼ご馳走してくれるんだろ?それでノーカン、チャラチャラだから」
「あ、・・ふふっ何ですかチャラチャラって。でも、うん。それじゃあ期待していてくださいね!私結構自信ありますから!!」
そう言ってパタパタとスリッパを鳴らし台所に向かって行った水樹を見送る田中の頬にはガーゼが張られており、少なからず罪悪感を覚える。
あの後、頭に血が上って勘違いしたとは言え、蹴っ飛ばして気絶させた田中を担いで家に帰った。どうやら水樹は俺からの携帯に出ようとしたものの、周りが煩く静かな場所を探していたらしい。そこで男二人に絡まれて、偶然通りかかった田中が間に入ったそうだ。
はじめこそ割って入った田中に不機嫌な二人だったが、少し話すと急に態度を改めてぺこぺこと頭を下げたらしい。知り合いだったのか?
「で?何か言うことがあるんじゃないのか?」
気色悪い笑顔を浮かべていた田中がジト目を向けてくる。
「チッ。・・・・悪かったよ」(ボソッ)
素直に認めるのも癪だが悪いのは完全にこちら側。妙に太々しくなったこいつの態度に思わず舌打ちが出たが謝罪をする。
「声ちっさ。あ~あ、めっちゃ痛いなぁ~!なんか口の中も切ったしぃ?折角人助けしたってのにな~~」
「うぐっ」
「どっかの怖いお兄さんが早とちりするからな~。てかいきなり蹴り叩き込む?普通。平和的解決方法くらい幾らでもあっただろうに」
――こ、こいつ!!下手に出たからって調子にっ・・!!?
痛いなぁー痛いなぁーとわざとらしく頬を押さえ床を転がるこいつに改めて殺意が湧いた。こんな奴さっさと叩き出してやりたいが、水樹の奴が後で煩くなるのは目に見えてる。普段は男に対して警戒心が強いあいつが何故かこいつには懐いている。何だってんだくそっ。
「「「ただいまーーーー!!!」」」
「いた・・お?」
「チッ。もうそんな時間か」
壁掛け時計を見れば13時過ぎ。あいつらが帰って来たってことは母さんも一緒のはず。どうせ母さんには事情を説明する必要があるし、めんどくせぇ!!
ボリボリと頭をかいている間にバタバタと廊下を走る音が近づいてくる。
「奈木兄ぃ!お客さん!?彼女か!!?」
「うるさいぞ。
「ごめんなさい!!」
更に声のボリュームを上げる馬鹿はほっておいて、開けっ放しのドアから顔を覗かせる二人を見る。
「
「ただいま」
「た、ただいま。奈木兄ぃ。お母さんは――」
「ただいま奈木ちゃん。お客さんなの?」
奏が答える前に部屋に入って来たのは俺たちが母と呼ぶここ児童養護施設の管理人である水島秋穂その人だった。
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