第3話 田中太郎③


「じゃあ自分、寮ですから」

「おう、じゃあまた明日な~」

「はい!」


 残念ながら西郷君は寮住まいだそうで学校敷地内で別れる。寮の存在を今日初めて知った俺は軽くショックを受けたりなんかもした。入学説明書読めよ過去の俺ぇぇぇ...。


 いやでも記念受験(本気)だったし合格するとは思ってなかったから詳しく調べても無いのよ。そのくせ合格通知が届いたその日に格安物件を探したからね俺。


 俺の他にもちらほら校門へ向かう生徒はいるものの、ほとんどの生徒が寮で暮らしているのだろう。圧倒的に数が少ない。


「それにしてもやっぱすげぇ面子だったなー」


 ずっしりと重くなったカバンを背負い直し、これから三年間通う校舎を眺めてしみじみと思い返す。


 集会が終わり諸々の説明、資料プリントや教科書を受け取った後に待っていたのは簡単な自己紹介タイムだった。そこで明かされる我らが一組メンバーの濃さはまさに異質と言っていい。


 特に際立った人を紹介すると――


 まずは集会で新入生代表の挨拶をキッチリと務めた主席『夢ノ中睡』。

 全国各地から集まった選りすぐりの猛者たちの頂点に輝いた彼女はなんと入学試験で史上初の満点合格を果たしたのだ。更に【夢心地】という大手化粧品メーカー(名前からして寝具を売った方がいいのでは?)の社長令嬢。凛とした佇まいに少し眠たげな表情をしている美女で、早くもファンクラブの募集がされていた。

 教室であいさつ程度の会話をしてみたところの印象は聞き上手といった感じ。ただこちらの話にはきちんと返してくれるし、表情も豊かだ。ファンクラブに入ってもいいかもしれない。


 続いて次席の姫咲美蘭ひめさき みらん。総資産150兆円。通信・IT系財閥の一つ、HIMESAKIグループの総帥、姫咲昭雄ひめさきあきおの孫。

 キリッとした勝気な表情からしてその通り強気な性格。全身から自信が溢れていると言っても過言じゃないくらい常に堂々とした立ち振る舞いをしている。が、他人を容易に見下したりはしない模様。恐らく興味を無くした相手は冷たくあしらうタイプだ。入試では惜しくも一点差という僅差で夢ノ中に負けてしまったのをかなり悔しがっていた。


 そしてトイレですれ違った金髪ピアスの男こと七貴奈木ななき なき。175ある俺の頭半個分くらいの身長。自己紹介の時も実にそっけなく名前と出身中学、入試の順位を言って自分の席に戻っていった。何と驚きの7位。クラス中から奇異な眼差しを向けられていたが、何のそのと窓の外を眺めていた。夢ノ中に身だしなみを注意されていたが無視。教室の空気が凍ったね。こう・・ビシィィ!!みたいな。


 めんどくさいので割愛するがその他にも姫咲の執事、双子読者モデルに大手老舗旅館の跡取り、仕事の都合で来れなかった男子に硬式テニスにて全中三連覇を果たした男と紹介が続くたびに古手川先生の表情が段々悟った風に薄くなっていったのは笑えた。最後とか澄んだ瞳で外の雲を眺めてたからな。


 まあ流石に全員が全員社長ご子息令嬢とかでは無かった。俺みたいに普通の・・って言ったらその人に失礼だがちゃんといた。


 ただし!!これだけはおかしいと言えることが一つ。


 俺以外全員が美男美女美少女ってどゆこと??前髪とかで隠れて良く見えない奴もいたが恐らくイケメン!!そこだけは共通だった。西郷君も頬の傷とかガタイで怖がられてるみたいだけど、強面イケメンに属するからな。


 まあそんな彼でも話せばいい奴だったし、こんなマジで異世界みたいなクラスでこの先不安だったが、楽しくなりそうな予感があったりなんかもする。このままクラスのみんなと馴染んで彼女とか出来ちゃったりしちゃったり!!?


「うし!帰るか」


 朝よりかは幾分気分が前向きになった俺はのんびりと歩く。引っ越しの整理は終わったし、街の探索でもするか?確か駅ちかに商店街があったよな?好きなんだよね~。



 ぐぅーーー



「・・その前に飯だな」 


 これからの生活に思いを馳せていると腹の虫が騒ぎ出した。それもそのはず現在時刻は12時30分をお知らせします。最寄り駅も近づいてきたしどっか適当なところでお昼でも食べるか。


「離して下さい!!」


 ぬ?



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