第2話 田中太郎②


(どうなってんだあのクラス...)


 教室から出てトイレに向かいながらクラスメイトの面々を思い描く。まず基本的に美男美女。この高校に受かっている時点で頭脳は言わずもがなとか物語の主人公ですかっての。

 まるで別世界に入り込んだみたいだ。もっとこう、女子の下着は何色かで盛り上がろうぜ?女優の性癖とか馬鹿な予想したりとかさ、男優が日に何本撮るのかとかくだらない話をさぁ~。


 早くも雲行きが怪しくなってきた高校生活に不満を垂れていた俺はトイレを開けようとして――


 ガチャ


「は?自動ドア? っとすまん」

「・・・あ?」

「ひぇ」


 ドアノブが付いた自動ドアって何の引っかけだよと、内心突っ込んでいたら出てきた男子生徒とぶつかった。そして聞こえるドスの効いた不機嫌そうな声。少し目線を上げるとこちらを睨みつけるワイルドなイケメン。片耳にピアス2個、銀のネックレス。ネクタイゆるゆる。


 やめろよ。もう腹いっぱいだよ。どうなってんだよここの校則。個性強すぎだろ。


「そこどけ」

「ア、ハイ。スミマセン」


 サッとどいてビシッと気を付け。軽く頭を下げるのを忘れるな?


 特に何も言わず通り過ぎて行った男子生徒をちらり盗み見れば、んん~~~1組!!期待を裏切らないなぁフゥ↑↑


「アホらし、うぅ...トイレトイレっと」


 インパクト強すぎて本来の目的忘れそうになったわ。まああれだ。触らぬ神に祟りなし。撃シュ〇クには逃げるが勝ち。同じクラスだろうと話すことはないよなきっと。授業中で偶にあるかどうかだろ。『はいプリント』的な?


 フラグ乙とか言う奴はデコピンな?


「ん~~~」


 ガチャ


 誰かが入ってきて隣に並ぶ。


(んだよ普通一個空けるとかするだろ?分かってないなこいつ。マナーだよマナー)


 去り際にマナー知らずの御尊顔を拝んでやろうと見れば、頬に大きな傷が入った子どもも泣き止む強面の2m(推定)。

 嘘だろ?さっきの奴の上がいるとか思わないじゃん普通!!?ほんとに高校生!?身内がヤの付く人でも違和感ないよ、これ! 裏口入学とか実際にあんの!!?俺の頑張り返して!!?


「あの...」

「っ!!?」


 しまったジロジロ見すぎた!ヤられる!逃げきれるか!!?


「流石にトイレの最中を...その、見られるのは恥ずかしいと言うか...」

「っああ、えっとごめん」

「いえいえ。そろそろ朝のHRが始まりますし、遅れないように気を付けてくださいね」

「これはご丁寧にありがとうございます」

「では僕はこれで」


 そう言いながら案外可愛い笑みを浮かべトイレから出て行った男子生徒。








「ん゛ん~~~~~ギャップが強い!!!!」







「よーっしお前らー席に着け~」


 我らがクラスの担任はダルッとした感じの男性教諭。第一印象は目が死んでる。ネクタイは首から下げるだけ、ヨれたシャツとホントに先生?


「あ~取りあえず、入学おめでとう。今日からここ1組の担任になった古手川新こてがわ あらただ。どうぞよろしく。つっても初日からいない奴がいる上にここにいる面々一癖も二癖もある奴ばかり。はぁ~~恨むぜ俺の右手...」


 そう言って悔しそうにプルプルとチョキの右手を震わす古手川先生。

 おい、担任だろ?それでいいのか?あと、じゃんけんか?じゃんけんで担任決めたんだな?


「ま、今日はこれから第一体育館で校長から無駄な・・間違えた。有難ーいお話とか聞いて、軽く自己紹介やら教科書配布やらしてハイ終わりって感じだから。OK?」

「適当過ぎない?」

「あん?」


 しまったつい...

 

「田中だっけか。いいんだよ担任なんてただの連絡係だから。お前らが問題起こさなければただのお飾りだから」

「言ってて悲しくなりません?それにさり気なく釘差しましたよね、今」

「てなわけでちゃっちゃと廊下出て並べ~」

「スルーですかそうですか」


 ボリボリと頭をかきながら古手川先生は教室を出ていく。それにつられてクラスのみんなも外へと動き出した。ただやはり全員大なり小なりあの先生の態度に戸惑っているみたいだった。夢ノ中に至っては睨みつけてたぞ。真面目そうだからな~。


「あ、さっきの...」

「ん?おお、トイレで会った」


 二列に並び、そうなると当然横には誰かが来るわけで、そこには先ほどトイレで会った強面君が立っていた。


「同じクラスだったんですね。自分の名前は西郷敦盛さいごう あつもりと言います。この一年間よろしくお願いします」

「おう、俺の名前は田中太郎。こちらこそよろしくな!」

「・・・」

「ん?」


 何だろう、少し遠慮気味というか悲し気?にされた自己紹介に応えるべく俺は手を差し出したのだが、何故が西郷君は驚いたように俺の手を見つめ固まってしまった。握手は不味かったか?


ふらふら

じーーー

(なにこれ?)


 余りにも強く、正に穴が開くほど俺の手を見つめるので彼の目の前で手をゆっくりと動かすと顔は固まっているのに目だけはしっかりと俺の手を追う。


パチンッ


「はっ!すみません!自分の方こそよろしくお願いします!!」

「ははっ、二度もよろしくされたな?」

「あ、えっとアハハ...」


 このままでは埒が明かないのと、そろそろ列が動き出しそうなので西郷君の目の前で指を鳴らし意識を戻させる。ハッとなってワタワタと手を握る西郷君の手は予想通りがっしりしていた。


「ふーん。見た目でねぇ」

「人を助けて付いた傷なんで後悔は微塵も無いんですけどね。それに加えて小学校5年生あたりから急に身長が伸び始めて、中学三年生になった頃には2mを超えてしまって余計に...」

「因みに親は?」

「父は210ですね」

「...他は?」

「お爺ちゃんも曾お爺ちゃんもその先も最低190は超えてましたね」

「こういっちゃなんだが遺伝って凄いな」

「ですね...。でもだからこそ余計に嬉しかったんです。昔からこの顔と身長で怖がられてまして、高校でも最初から友達を作るのは諦めてました。けどこうして田中君と知り合えた。それだけで満足です」

「嬉しいこと言ってくれるじゃん。なら俺が高校最初の友達だな!」

「っ!! いいんですか!!?自分なんかが友達で!!?」

「何言ってんだよ。こっちからお願いしたいくらいだよ」

「っっっありがとうございます!!!」


 感極まって若干潤んだ目を向けてくる西郷君だったが、話せば極々普通の優しい良い子だった。誰だよヤの付く人に関係してるとか言った奴。失礼だぞ?

 西郷君はその見た目で色々と苦労して来たそうで、初対面の人はだいたい怯えるか逃げ出すかで、残す少数はケンカ腰か警察を呼ばれるかのどちらかだったらしい。


 思わず涙が溢れたよ。


 その後も校長の話そっちのけで西郷君と話し合った(小声)。注意されるようなへまはしねぇよ?


 因みに新入生代表は夢ノ中が務めていた。すげえ。



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