主人公の多すぎるクラスでラブコメは難しい。

カモミール

高校生活開始!!

第1話 田中太郎①


「何だここは...?」


 4月。それはここ日本において始まりの月とも言える。冷たく寒い冬を乗り越え花たちが咲き誇り、冬眠から目覚めた動物が動き出す。

 進学し新たな学年になる者。社会人として新たな一歩を踏み出す者。俺こと田中太郎もその一人。


 今年から高校生になる俺は住み慣れた土地を離れ一人暮らしを余儀なくされた。地元県外にある高校なのだから仕方が無いのだが、親元を離れるのは正直かなり不安であった。

 だがしかし、このチャンスを逃すのは惜しすぎると、両親兄弟から説得されれば、頑張ってみようと思うのが人情というもの。『やってやらぁ!!』と覚悟を決めてここ国立桜城高校にやって来た。


 桜城高校は国内のみならず海外からも注目が集まり始めている4年ほど前に建てられた新設高校だ。注目される理由としては高い水準での教育。生徒の『やってみたい』を実現する施設の充実とそのサポート体制。そして極めつけはなんと昨年卒業した桜城高校第一期生のとある生徒数名が早速何やら世界的有名な賞を受賞したらしい。

 その為倍率は鰻登りで馬鹿みたいに高くなり、しかし卒業すれば将来は約束されると言われる高校になったのだ。


 そんな名門高校に受かってしまったのだからもう大変。中学では横断幕が垂れ下がり、近所では一躍有名人の如き扱いを受けた。


 そりゃもう鼻高々ふっふ~ん♪と調子に乗ったさ。地元じゃ負け知らずそうだろの俺だったさ。けれども教室に入って暫く。俺のちっぽけなプライドはゴミだったと理解した。


「お嬢様。こちら本日の紅茶、フォートナム&メイソンで御座います」

「あら、ありがとう。丁度喉が渇いていたところよ」

「ご一緒にスコーン、ジャム各種をご用意させていただきました。お好みでお召し上がりください」

(フォートナム&メイソン!? 古くからイギリス王室御用達にもなってる超高級紅茶ですか!?)


 窓際一番後ろの席で優雅に紅茶を嗜むのは目を剥くほど美人な女生徒。陽光を受けキラリと光る金髪は緩いカールを描いており、パタンと本を閉じ、カップを傾ける何気ないその所作一つ一つに気品が溢れていた。

 そんな彼女の斜め後ろに控えているのは執事服の男性。黒髪のオールバックにひと束だけ前髪が垂れている。すらっとした手足に慈愛の籠った表情は見る者を魅了するイケメンだ。

 というか、え? あいつもここの生徒なの?執事服ビシッとキメてるけど指定された制服は?


 触れていいものなのか分からないのであの二人は放置。あ、因みに俺の席はクラスのど真ん中。そのおかげかいろんな話が聞こえてくる。


「隼人!ちょっと聞いてるの!?」

「ごめんごめん、ちゃんと聞いてるよ」

「嘘ね!どうせ周りの女の子たちに見とれてたんでしょ!!」


 前方入り口近くで何やら腹の立つ会話をするのはこれまた美形の男女。男は茶色のふわふわとしたヘアーが良く似合うイケメン。クソが!

 女性は癖っ毛のある黒髪で左右の毛先をゴムで止めている少し気の強そうな美少女だ。

 痴話喧嘩は他所でやって下さいね~。


「ひどいなぁ、美鈴がいるのに僕が他の子に見とれるはずないでしょ?」

「なっっ...ちょっ...!!は、恥ずかしいこと急に言わないで!!」

「あ!どこ行くの!」

「知らない!!」


 隼人君。聞いてるこっちが恥ずかしくなるセリフ良く言えるね君。そしてそんな恥ずかしいセリフを向けられた美鈴という生徒は離れてても分かるくらい顔を赤くして教室を飛び出していった。

 言葉の裏を邪推していいかな??美鈴さんがいなけりゃ見るってか?はぁ~ん?

 俺が流せるものなら流したい血涙を耐えていると、見られていたことに気づいたのか、恥ずかし気に頬をかく隼人君は悔しいけどかっこかわいかった。畜生!!


「やあ、そこの麗しのレディたち、初めまして。僕の名前は春野・ミリアーノって言うんだ。差し支えなければお名前を伺っても宜しいかな?」

「ええ、それくらいなら問題ないわ。私の名前は夢ノ中 ゆめのなかねむりよ。よろしくミリアーノ君」

「愛音 和歌奈だよ。よろしくね!」

「...水原 翆。よろしく」

「睡さん、和歌奈さんに翆さんだね。うん、覚えたよ。今日から一年よろしくね」


 そう言って暫しの雑談のあと別のクラスの女子に話しかけに行ったサラサラ金髪の男子イケメン。ちゃらちゃらしていると言うよりもナルシスト然としている感じがまた何とも言えないが嫌悪感を全く感じない。春野女たらしっと、よし俺も覚えたからな。あいつとは仲良く――


「ねぇ、睡ちゃん。あの人確か『ライフ』って車メーカーを経営している社長の息子さんだよね?」

「そうね。社長の名前も春野って女性だったはず。恐らく間違いないでしょうね」

「...夫はイタリア人」


―――無理だわ。住む世界が違うもん。うん。よくよく思い出してみれば夢ノ中なんて珍しい苗字、確か化粧品メーカーの社長もそうだったはず。今朝CMで見たもん。恐らくそうなのだろう。愛音と水原は割と同姓がいるから判断付かんがまさかか...?


 俺?平社員の息子です。どもども。



ガララッ――



「とうちゃーく! おっはよー!! ん?んん!! うわーなんだか凄そうだよ!麻奈!」

「とうちゃ~く!ホントだ!みんなのオーラって言うのかな?が凄いの!楽しくなりそうなの!瑠奈!」


 双子だ。うん。顔も身長も体形も瓜二つの二人が勢いよく教室のドアを開けて入って来た。麻奈と瑠奈って確か双子で読者モデルとして活躍中の二人じゃね?妹がお世話になってます。


「お!いっ君だ!やっほー!」

「それで隠れたつもりか~!」

「ばっっか!話しかけてくんな!」

「ええー!いいじゃん、いいじゃん!」

「麻奈!いっ君はきっと照れてるの!うりうり~」

「やめろ!髪を触るな!頬をつつくな!」


 嘘だろ...。ブルータス、お前もか...。


 さっきまでずっと机に伏してる奴いるな~って思ってた髪ぼさぼさの男子生徒にあの二人が...!?いっ君とやらは嫌そうにしてるがどこから見ても双子と親し気とか羨ましいぞ!!・・・いや待て、落ち着け俺。そろそろ一人誰とも喋らず席についているのが辛くなってきた。ここはひとつ会話に加わって――っ!!


「さ「あっ!ゆっきーおはよー」・・・」

「おはよう。相変わらず瑠奈も麻奈も朝から元気だね」

「ゆっきーはいつも通りクールなの!何の本を読んでるの?」

「貝殻の世界。去年有名な賞を受賞した作品だ。まだ読んでいなかったから今朝方手に入れてきた」

「この前の英語の本はもう読み終わったの?流石ゆっきー。見境ないの」

「語弊のある言い方をするな。僕はどんなジャンルでも気になれば読むだけだ」


(トイレに行くか…泣)


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