中央大聖殿

 アテナのアクロポリス。

 アテナの町の中心部にある小高い丘の 上に立ち、アテナの町を全体を一望できる。


 ここには限られた者しか入る事が許されない、世界一の塔、中央大聖殿セントラル・パルテノスが立っていた。


「これが中央大聖殿セントラル・パルテノスか」


 白亜の塔は、テセウスがこれまで過ごしてきたラウリオン銀山よりも高く、雲にも届くほど高い。


「テセウス君、こっちだよ」


 中央大聖殿セントラル・パルテノスの大きさに、思わず目を奪われていたテセウスを呼ぶラファエルの声。


 ここまでドラゴンに乗って移動をしたラファエルとテセウスだが、ここからは歩いて移動する事になる。


大聖殿パルテノスの周辺をドラゴンで飛翔するのは禁じられていてね。ドラゴンで一気に上まで上がるというわけにはいかないんだ」


 そう言いながら、ラファエルはテセウスを連れて大聖殿パルテノスの中へと入る。

 大聖殿パルテノスの出入り口には二人の門番が立っているが、ラファエルが近付くと門の左右に移動して道を開けた。


 二人の門番は、ラファエルの後ろに続くテセウスに視線を向ける。

 いくら騎士に抜擢されたと言っても、テセウスはまだ奴隷であり、罪人なのだ。両腕に嵌められた手枷がその事を証明していた。


 罪人が神聖な中央大聖殿セントラル・パルテノスに、それも修道騎士に伴われて一体何の用なのか。彼等の視線はそう訴えていた。


 そんな痛々しい視線に耐えながら、大聖殿パルテノスの中に入ったテセウスは、ラファエルの案内で奥へと進み中央は吹き抜けになっている螺旋階段を登っていく。

 しかし、どれだけ上がってもラファエルが歩みを止める事はない。

 まさかこのまま最上階の百階まで昇るつもりなのか。そう思った瞬間、テセウスは背筋が凍る思いがした。


「あ、あの、ラファエルさん、あとどのくらい上がるんでしょうか?」


「今が十五階で、目的地が五十階だから、あと三十五階上がるよ」


 さらりと言うラファエルだが、彼の言葉にテセウスは驚愕した。

「あ、あと、三十五階も上がるんですか……」


「あ。でも、二十階から五十階までは昇降機エレベーターがあるから、二十階まで上がれば、そこからは自動で上がれるよ」


 ラファエルの言葉を聞いてテセウスは安堵の息を漏らす。

「ふう。そ、そうですね。流石に五十階まで歩いて上がるなんて事は無いですよね」


 二十階まで上がると、螺旋階段は更に上まで続いているものの、それ以上は上がらずに階段エリアから離れる。

 そしてテセウスが足を運んだのは、人生初のとなる昇降機エレベーターだった。


「テセウス君は、昇降機エレベーターに乗るのは初めてかい?」


「は、はい。本で読んだ事はありますが、実際に見るのも初めてです!」


 人や荷物を載せて垂直に移動する昇降機エレベーターは、大きな聖堂や宮殿などに設けられる。

 田舎の漁村や鉱山でしか暮らした事がないテセウスには縁遠いものだった。


 人生初の昇降機エレベーターにテセウスは奇妙な感覚を覚える。

 足はしっかりと床に着いているというのに、身体がふわりと宙に浮いたような感覚を。

 しかし、五年間も働かされ続ける日々を過ごしたテセウスにとって、それは久しぶりに好奇心と興味をそそられるものだった。


「す、すごい。あの、これって一体どうやって動いてるんですか?」

 年相応の男の子らしい純粋な眼で問うテセウス。


「風嵐系の聖霊術で昇降機エレベーターを動かしているんだよ。この昇降機エレベーターには既に術が掛けてあって、指定した階にまで昇降機エレベーターを上げたり下げたりするんだ」


「事前に術を掛けて物を動かす事なんてできるんですか!?」


「まだあまり普及はしていないようだけど、十数年前くらいに最高司祭猊下が開発した技術なんだ」


「へえ~。最高司祭猊下ってやっぱりすごい方なんですね」


 聖霊術師見習いだった頃の血が騒いだのか。テセウスはこの昇降機エレベーターについてずっとラファエルを質問攻めにした。

 その探求心は、ラファエルの知識の壁を軽く突き破り、ラファエルもお手上げになるほどだった。

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