騎士の来訪
都市国家、アテナ共和国。
ここは世界中で信仰されている聖王教会の総本山にして、世界中の都市国家が加盟している国際機関“神聖同盟”の本部が置かれている。
このアテナの町の中心地に立つ丘アクロポリスの上は、世界で最も高い建造物である
聖王教会が祀る神々の中で主神に位置付けられる聖王神ゼルス。その化身とも呼ばれる最高司祭パトリアルケータがその御業である聖霊術で築いたとも言われるこの大聖堂は、他では決してみられない地上百階建てという高さを誇る。
夜遅く。その最上階にある展望台の上には今、一人の少女の姿があった。
雪のように白く綺麗な肌に、床まで付くくらい長く豊かな金髪。
黄金色に輝く瞳はまるで神のような雰囲気を醸し出している。
黄金に輝く髪と同化しているかのように輝く豪華な装飾を施した黄金の冠を頭に被り、身体には白い衣を身に纏って、右手に黄金に輝く杖が握られている。
その杖の先端には聖王神ゼルスの遣いであり、聖王教会の象徴でもある鷲のオブジェが取り付けられていた。
少女は頭上に広がる星々の大海を眺めた後、視線を落として真っ暗闇な海を。その水平線の向こう側にある大陸を見据える。
視界には決して入る事はないが、少女には何かが見えているかのように、じっと。
「ようやく現れたようね。十三人目の騎士となれる器が」
少女はおっとりとした印象の声で呟き、小さく笑みを浮かべた。
◆◇◆◇◆
真夏の太陽が大地を照らす中、今日もテセウスは他の労働者達と共に黙々と作業に勤しんでいた。
あまりの暑さに身体中から汗が流れ落ち、数時間も持たずに喉が渇きを訴える。
しかし、水を飲もうと仕事の手を止めると、背後から容赦のない鞭が飛んでくるので、誰一人その渇きを満たす事はできなかった。
中には暑さに耐え切れずに倒れて意識を失ってしまう者も現れるが、そんな者に兵士がするのは介抱ではなく、懲罰の鞭打ちである。
そうと分かっているので、テセウスも鉛のように重くなった身体を無理やり動かし続けるのだ。
それがここでの日常だった。
しかし今日、テセウスはその日常の中では初めてのものを目にする事になった。
「あれは、ドラゴンかな?」
テセウスが石を詰め込んだ袋を担いで歩いていると、正面に広がる青空から何かが高速で近付いてくるのが見えた。
それが鳥でない事は、その大きさからすぐに分かった。
となると、考えられるのは最も強力な動物と言われるドラゴンくらいだろう。
本来、ドラゴンは山奥など人目につかない場所に生息し、人間が目にする機会はそうそうない。
そのため、ドラゴンを見ると良い事がある、という迷信が存在するほどだった。尤も地域によっては不幸の予兆という所もあるが。
歩きながらそのドラゴンを眺めていたテセウスは、徐々に近付いてくるドラゴンに人が乗っている事に気付いた。
「も、もしかしてあれは、修道騎士!?」
ドラゴンを乗りこなせる人間は、世界広しと言えども極々少数に限られる。
聖王教会最高司祭が従える世界最強の騎士団である修道騎士団の騎士達もその一つである。
修道騎士団は、たった一人で数百、数千の軍勢を相手にできるとも言われ、アテナ共和国、そして世界の平和と秩序を守る正義の味方。
所属する騎士全員が聖剣や聖槍と言った聖遺物使いであり、ドラゴンに騎乗して世界中を飛び回る、世界中の人々が憧れる存在だった。
そんな誉ある騎士を目の当たりにできてテセウスは疲労も忘れて胸を躍らせる。
修道騎士を乗せたドラゴンは、高速でテセウスの頭上を通り過ぎる。
空を切り裂く音が地上まで鳴り響き、凄まじい突風が地面へと叩き付けられた。
「す、すげー! あれが、修道騎士か~」
テセウスが一瞬だけとはいえ、初めて本物の修道騎士を目にした感動に身体を震わしながら仕事を進めていると、兵士が銀山の麓にあるギルド本部にまで来るようにと告げてきた。
それを聞いて、テセウスは驚いた。この銀山で働くようになって五年が経つが、麓にまで降りた事は一度も無かったからだ。
一体、何事なんだろう? そんな不安を胸に、テセウスは五年ぶりに銀山を降りて麓にあるギルド本部へと出頭した。
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