襲撃
時間はあっという間に過ぎて、太陽が西の空に沈もうとしている頃。
「ねえ、あれは何だ!?」
マルコが海の向こうを指差す。
皆が一斉にその指差す先を見ると、そこには船らしき影があった。
「テセウスの父ちゃんの漁船じゃないの?」
「うちの漁船はあんなに大きくないよ」
「
ここにいる皆が教会の図書室の絵本でしか見た事がない
「まさか。
それは船のようだった。漁船ではなく、大型の軍船。
木造の船で、所々壊れている古い船ではあるが、航行そのものには支障は無いらしい。
「すげー! 軍船だぞ! カッコいいな!」
「でも、どうしてこんな所に?」
「ね、ねえ、こっちへ向かってくるよ」
田舎の平凡な村であるトルジナに一体、軍隊が何の用があるのか。まだ幼い子供達に分かるはずもない。
初めは興味と好奇心で視線を軍船に釘付けにしている子供達。
軍船が子供達が遊んでいた入り江に停泊する。
子供達の視線の一身に集める軍船から姿を現したのは、鎧兜に身を包んだ兵士ではなかった。
腰にボロ布を纏っただけで緑色の体躯、ギザギザに尖った歯に、見ているだけで悪臭が臭ってきそうな醜悪な顔。
それは教会の絵本でよく悪者の手下として描かれるものによく似ていた。
「ご、ゴブリンだ!」
「に、逃げろー!!」
右手に剣、左手に盾を持ち、二本足で立っている姿は、一見人間のようにも見えるが、それ以外は明らかに異なる。
本来、西の人界大陸には生息しないはずの下級魔族、ゴブリン。
船を作る技術も、船を操って海を渡る技能も持ち得ないはずのゴブリンが一体どうして。
大人であれば、そんな疑問も浮かびそうなものだが、テセウス達にそんな事を考える余裕は無く、またそこまで考えを伸ばすには彼等はまだ幼過ぎた。
数十体ものゴブリンが次々と船から飛び降り、獲物を見つけた狩人のようにテセウス達に襲い掛かる。
恐怖に怯えて逃げ惑うテセウス達に対して、ゴブリンの動きは洗練されたものであった。
おそらく狩りをやり慣れているのだろう。
獲物を捕捉すると、一目散に追って確実に追い詰めていく。
岩場に追い立てられて逃げ場を失うテセウス達。
「こうなったら!
右手から炎の砲弾を打ち出し、先頭を切るゴブリンに見事命中させた。
「ウギャアアア!」
断末魔の叫びと共に、ゴブリンが焼け死ぬ様を目の当たりにした他のゴブリン達は一瞬怯えて攻撃の手が緩む。
「今だ! 皆、逃げて!」
テセウスが指示を飛ばす。
この中では唯一戦う事ができるテセウスが皆を守らなくては、という責任感が彼を突き動かしたのだ。
「
テセウスは自分の扱える最大の攻撃系魔法を連発してゴブリンの進撃を食い止め続ける。
しかし、いくら聖霊術の天才と言えども、まだ幼いテセウスの聖力には限度がある。
まして初めての実戦ともなれば、精神的な負荷は計り知れない。
無我夢中で戦うテセウスは、自身の聖力残量などお構いなしに術を発動させ続けた。
テセウスは次第に聖力が枯渇し、目の前が真っ白になっていく。
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