第20話 偶然の出会いと美少女からの誘い

 時は過ぎ、九月の始め。

 僕は、家の近くの図書館の自習室で、公務員試験に向けた勉強をしていた。

 公務員試験の勉強は最初こそ、中々集中できずに苦労したが三か月弱勉強していく内に次第に長い間集中できるようになっていき、今では一日に四~五時間くらいの勉強ならかなり楽にできるようになった。

 そう言うわけで今日も昼から四時間ほど勉強しているのだが、流石に疲れてきた。

 今はもう五時を少し回った所で、図書館も六時までしかやってないし、そろそろ自習室を出て、図書館を出るとしよう。

 自習室を出て、受付に向かう。

 この図書館では自習室の使用前と使用後に受付に伝えなければならないのだ。

 そうして、受付前の列に並んだところで、僕は思わず前にいる人を二度見してしまった。

 何故二度見したかと言われれば、僕の前に並んでいるのが式部さんだったからだ。

 こんな偶然があるのか?

 いや、普通はない気がする。

 まあ、普通はないとはいえ、出会ったのだからそれはそれでいいだろう。

 そんな考えの元、僕は式部さんに「式部さん」と声を掛ける。

 すると式部さんは僕の声に反応して僕の方へと身体を向けてから

「あ、隆也先輩」

 と言った。

「隆也先輩も何か本借りに来たんですか?」

「うんん、僕はこの図書館の自習室で公務員試験の勉強をしてたんだ。今ちょうど切り上げたから、自習室が開いたことを受付に言いにいくところ」

「ああ、そうだったんですね」

「そういう式部さんは何か借りに来たの?」

 式部さんが手に持っている本に目を向けながら尋ねる。

「私は、ちょっと気になる文芸本があったんでそれを借りに」

「へえ~ラノベだけじゃなくて文芸本も読むんだ」

「そうですね、内容も面白いものが多いので結構読みます」

 僕は文芸本など殆ど読まないが、ラノベの趣味が合う式部さんが内容を面白いというのであれば、少し暇を作って文芸本を読んでみるのもありなのかもしれない。

「……まあ、ライトノベルばっかり買っちゃってお金もないので、文芸本はこうして図書館に借りに来てるんですけどね……」

 僕が考えを巡らせている中、式部さんが言う。

 まあ確かに、一人暮らしをしている女子大生が友達と一緒にご飯を食べたり、ラノベをかなりのペースで買っていれば、文芸本に回すお金は無くなるだろう。

 僕が勝手に納得していると、式部さんが受付に呼ばれるままにそそくさとカウンターまで行ってしまったので、僕も後に続き、受付の人に自習室の使用を終えたことを伝える。

 そうして、式部さんと一緒に外に出たところで

「今から一緒にご飯食べに行きませんか?」

 と式部さんから聞かれる。

「筒谷とかも誘って?」

「……いえ、私と隆也先輩の二人で……」

 僕が尋ねると、少しの間の後式部さんからそんな答えが返ってきた。

「え? 二人で?」

「ダメ……ですか?」

 式部さんの返答に思わず間抜けな声を漏らした僕に、式部さんがさらに不安そうな声で聞いてくる。

 今までにも、部室で筒谷抜きの二人でオタク趣味について話すこともあったし、何より式部さんが僕に電話をしてきた日に至ってはかなり長い時間、式部さんの部屋で二人で過ごした。

 だが、今まで式部さんから、二人きりになろうと誘われて二人きりになったことは一度もない。

 そんな中二人きりになりたいとは、これは一体全体、どういうことだ?

 ……という風に、ラノベや漫画に出てくる鈍感主人公のように、女子の突然の行動にモヤモヤするだけで、行動の意味を全く理解できないほど、僕も鈍感ではない。

 今の式部さんからの誘いも踏まえた上で、もしかしたらこれが原因なのではないかと思うことはある。

 式部さんがこんな行動をとる原因として考えられるのは、式部さんが僕に好意を持っていることだ。

 好意と言っても、友人に向けるようなものではない。

 付き合いたい人に向ける好意の方だ。

 勿論、可能性の一つに過ぎないし、僕の自惚れからくる間違いの可能性の方がまだ高い。

 だけど、もしそうだとしたら、夏休みに入ってから『先輩』とか『泉先輩』と呼んでいたのが『隆也先輩』になったことや、送り迎えがあるとはいえ、別の日でもいいような用事であるにも関わらず、動きにくい浴衣姿で僕のバイトしている時間にバイト先に来たこと、そして今、僕と二人きりにならないかと誘ってきたことも合点がいくのだ。

 ……って、あれやこれや考えてはみたけど、そんなことあるわけないか。

 式部さんは陽の部類の人で、僕は陰の部類の人間。

 共通することなんて、二次元オタクであることくらいしかないし、式部さんが僕に好意をもつなんてありえないだろう。

 ご飯を食べに行こうと誘ってくれたのは、偶然会ったのにこのまま別れるのも味気ないからだろうし、二人で行こうと言い出したのも、時間も時間だし、他の人を巻き込むこともないだろうと式部さんが考えたからだろう。

 そう結論付けた僕は、式部さんの問いかけに答える。

「全然だめじゃないよ。一緒にご飯食べに行こう」

 すると式部さんは明るい表情を浮かべながら

「はい!」

 と大きな声で返してきた。

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