第21話 泉隆也の気づき

 式部さんの誘いを受け、二人で夕食を食べに行くことになった僕達は、図書館を後にした、図書館近くのファミレスまで来ていた。

 ファミレスを選んだのは、金銭的な面でも、移動の面でも一番いいのがファミレスだったというだけの理由である。

 メニュー表を眺め、注文する品が決まったことを互いに確認したところで僕はハンバーグステーキセットを、式部さんはオムライスを注文する。

 そうして注文し終えたところで式部さんが

「注文したものが届くまで、ラブコメについて語りませんか?」

 といつものように趣味の話をしようと持ち掛けてきた。

 断る理由もないので、僕は頷いて提案を受ける。

「隆也先輩はその……ラブコメを読んでいて現実でもラブコメみたいな恋愛したいなって考えることとかありますか?」

「そうだね……ラブコメを読んでる時は、主人公とヒロインがどうなるかが気になって自分のことなんて考えてないけど、読み終わった後ではシーンを思い返して僕もこんなシチュエーションを味わってみたいな~って考えたりすることはあるかな……式部さんはどう? ラブコメの中で憧れのシチュエーションとかある?」

 聞いてすぐ、いくら式部さんがよくラブコメを読むからと言って男子を主人公と置いた男子向けに描かれたラブコメの中で憧れのシチュエーションはあるかという質問は答えづらいだろうかと思い、「別に無理に答えなくてもいい」と言おうとしたのだが、式部さんは僕がそう言うよりも先に質問に答えてくれた。

「私は、告白のシチュエーシに憧れますね。私もあんな風に告白されてみたいなって思ったりはします」

「告白か……いいね。僕もああいうシチュエーションは憧れるなあ」

 告白のシーンは憧れのシチュエーションの一つだ。

 あんな風に告白できたら……と考えることは決して少なくはない。

「隆也先輩は、他に憧れのシチュエーションとかあるんですか?」

「他の憧れのシチュエーションか……そうだね。憧れとは少し違うけどヒロインが主人公の前でだけ甘えたり、可愛い行動をしたりするシチュエーションはいいなって思うよ」

「なるほど、隆也先輩はそう言うシチュエーションが好きなんですね?」

「好き……うん、まあそうだね。好きかな」

 好きというと少し気持ち悪いかなと濁していたのだが、『好きなんですね?』と聞かれてしまえば正直に答えるしかない。

「……じゃあ、私が隆也先輩に甘えたりしたらどう思いますか?」

「ぶふぅ!」

 式部さんの突然の質問に、僕は思わず吹き出す。

 何だ急に? 

 今まで式部さんは、そんなことを急に言ってくるような人ではなかった。

 それが、どうして急に……

「それで、どうなんですか、隆也先輩?」

 真剣な表情で再度聞いてくる式部さん。

 質問の意図は全く読めないが、ここまで真剣に聞かれているのだから答えないという選択肢はないのだろう。

 そんな風に考え、僕に甘えてくる式部さんを想像し、その中で思ったことを口にする。

「……式部さんに甘えられるのは正直嬉しいかな」

 恥ずかしい気持ちをこらえながら言い切ると式部さんは「……そうですか」と言いながら明後日の方向を向いてしまう。

 ちなみに式部さんは隠しているつもりのようだが、耳まで真っ赤で恥ずかしがっているのを隠しきれていない。

 耳まで真っ赤にするくらい恥ずかしいのに、何故あんな質問をしたのか? と式部さんがしてきた質問の意図について考えようとしたところで、さっき注文した品が届いたので、僕達はしばらく食べることに集中する。

 そうして僕達が、注文した品をあらかた食べ終えたところで

「隆也先輩はどんな女の子が好きとかありますか?」

 と聞いてきた。

 これまた、答えるのが恥ずかしい質問だな。

 しかし、答えないで会話が詰まるのもよくはない。

 さっきのように答えることにしよう。

「どんな女の子が好き……か。そうだな……やっぱり優しい人が好きかな。それと、二次元オタクな人」

「……内面もそうなんですけど……外見とかだったら、どうですか?」

「外見か……僕は特に気にしてないな。式部さんみたいに外見も内面も綺麗な人もいるけど、外見は綺麗でない面が汚い人も少なくはないしね、だから外見はあんまり気にしないかな」

「なるほど……って隆也先輩から見て私は外見と内面の両方が綺麗に見えてるってことですか?」

「うん、まあそうだね」

「……それじゃあ、私みたいな人とだったら付き合いたいとか考えたりするんですか?」

「え?」

 またも突然の質問をしてくる式部さんに対して、僕はそんな素っ頓狂な声をあげる。

 イヤイヤちょっと待て! 何だその質問は?

 いきなり自分みたいな人となら付き合いたいかどうかって……そんな質問をするなんて、まるで、式部さんが僕と付き合いたいと思っていて、それを誤魔化すために私みたいなと言っているようだ。

 ……いや、事実そうなのだろう。

 式部さんは、僕に好意をもっているのだろう。

 これまでの行動からそうなのではないかと予想はしていたが、この質問で確信することができた。

 しかし、そうであるのなら僕はこの質問にどう返答すればいいのだろう。

 僕も、最近になって式部さんに好意のようなものを抱いてはいる。

 だが、それが好意なのかどうかはまだよくわかっていないし、そんな状態で適当に答えるのも……って違う! これは別に告白されているわけではない。ならば、素直な気持ちを答えればいいだけだ。

「式部さんみたいな人とだったら付き合いたいって思うかな」

 僕がそう言うと、式部さんは赤く染まった頬を手で覆いつつ、少しだけ口角を上げて

「……そうですか」

 と短く呟いた。

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