第19話 浴衣姿の美少女襲来

 式部さんが友達と仲直りをしてから一週間。

 僕、泉隆也はせっせと書店でのアルバイトに勤しんでいた。

 現在の時刻は夜の八時半。

 いつもであれば、八時から九時の間はお客さんも少なくなるのだが、今日は近くで夏祭りが開催されている影響か、八時ごろからお昼ごろと変わらないほどのお客さんが来ていた。

 そう言うわけで、僕はずっとレジ業務に追われていたというわけである。

 そうして、レジに並んでいるお客さんが一人となり、そのお客さんの会計を済ませようと顔を上げたところで僕は驚いて思わず目を見開く。

 驚いた理由は単純で、僕が対応しようとしたお客さんが水色の浴衣を着た式部さんだったからだ。

 イヤイヤ待て待て! 可愛すぎないか⁈

 普段から美人だとは思っていたが、浴衣を着るだけでこんなに変わるとは……思わず、胸が高鳴る。

「本を探してほしいんですけど、いいですか?」

 僕があれこれ考えを巡らせていると、式部さんからそう聞かれる。

 そうだ。僕は今バイト中だ。

式部さんの可愛さに戸惑っていても仕方ないし、とりあえずしっかりといつも通り接客するとしよう。そう決めた僕は「はい」と端的に返し、探しているという本のタイトルを聞いてから検索をかける。

 そうして在庫があることを確認してから、本の置かれている棚の場所をメモして

「それではご案内しますね」

 と言って式部さんを案内する。(もちろん、式部さんが浴衣に下駄という動きにくい格好であることを考慮してゆっくり歩きながら)

 そうして、僕と式部さんがレジから見えず、かつ話し声も聞こえないくらいの位置まで来たところで

「式部さんは夏祭りの帰り?」

 と式部さんの方を見ないようにしながら、いつも通りの少し砕けた口調で尋ねる。

「はい」

「そっか、夏祭りは楽しめた?」

「おかげさまで楽しめました」

「そっか、それなら良かった」

 式部さんの声の調子から察するに嘘は言っていない。

 友達との仲も完全に戻ったようだ。

「夏祭りにはどうやって行ったの? 確か、式部さんの家から夏祭りの会場まで結構距離あったよね?」

「お母さんに送ってもらいました。私、お盆休みに実家に帰るんですけど、それならその前に私がちゃんと一人暮らしできてるか見ておきたいってことで私の家まで来てたので、折角なら送ってもらおうってことで」

「そうなんだ。っていうことは、帰りのお母さんが?」

「そうですね。今も迎えに来てもらって、駐車場で待っててもらってます」

「だったら、早くしないとね。すぐ探すよ」

 言って、僕はそのまま式部さんの探している本を探す。

 そうしてしばらく探したところで目当ての本を見つけた僕は、式部さんの顔を見ないようにしながら式部さんに本を手渡す。

「ありがとうございます……ところで一つ聞いてもいいですか?」

「うん、いいけど……」

「どうしてさっきから、私の方を見てくれないんですか?」

 うん、ずっと式部さんの方を見ないでいたらそりゃあ聞かれるよな……

 ……聞かれた以上、式部さんに不信感を抱かせないためにちゃんと理由を言わないと……

 そう考えた僕は、式部さんの方をしっかりと見ながら

「浴衣、すごい似合ってるね」

 と初めに浴衣姿を見た時に思ったことをそのまま口にする。

 すると式部さんは「へ?」と間抜けな声をあげてから頬を赤らめ、そのまま顔を覆ってしまう。

 そうして数秒の間の後

「……ありがとうございます……」

 と式部さんからか細い声が返ってきた。

 ……互いに恥ずかしがっていて、何だか気まずい。

 とりあえず、何か言わないと。

「……探してる本、これで間違いないよね」

「……あ、はい、間違いないです。ありがとうございます……」

「じゃあ、早く会計しちゃおうか、お母さんを待たせるのも悪いしね」

「……はい」

 そうして僕は、式部さんと一緒にレジまで戻り、本の会計を済ませたのだった。



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