第18話 気づき

 僕、泉隆也は中々教室から出てこない式部さんに対して少しだけ不安を感じていた。

 他の一年生が出てきてからかなりの時間が経っている。

 もしかしたら、許してもらえなくて泣いているのかもしれない。

 もしそうであるならば、放っておくわけにはいかない。

 そう考え、式部さんがいるであろう教室に足を向けたところで、式部さんが女子四人と一緒に教室から出てきた。

 僕は、慌てて教室に向けていた足を逆方向に向ける。

 式部さんが心配で様子を見に来たというところまでは良いが、それで見つかってしまうのはどうにも格好がつかない。

 一応、見つかった時のごまかしも何通りか考えてはあるが、式部さんには通用しない可能性が高いし……

「何してるんですか? 隆也先輩?」

 僕が色々と考えを巡らせている中、突然後ろから声をかけられる。

 反射的に声のした方へと振り返るとそこには式部さんがいた。

「式部さん、どうしてここに?」

「どうしてって、それはこっちのセリフですよ。どうしてこんなところにいるんですか?」

 驚きすぎて尋ねると、式部さんに尋ね返される。

 ここで、馬鹿正直に式部さんが心配で様子を見に来たなんて言ってしまってはそれこそ格好がつかない。

 僕は、見つかった時用に用意しておいたごまかしの中で一番見破られそうにないもので乗り切ろうとしてみる。

「今日、僕も試験でさ、早く終わったからブラブラしてたら式部さんに声かけられて……」

「三年生って昨日で全試験終了でしたよね?」

 ごまかしを言い切る前に見破られてしまった。

 一番見破られなさそうなごまかしが通じないとなると、これ以上下手にごまかしても意味はないだろう。

 僕は観念して、式部さんが心配で夏休みに入ったにも関わらず、大学にまで来たことを話した。

「ありがとうございます」

 すべてを話し終えたところで何故か式部さんからお礼を言われた。

 わかってはいたことだが、こうしてあっさり見つかってお礼を言われるのはかなり恥ずかしい。

「そんな、いいよお礼なんて。式部さんの家に行ったのも、今日大学まで来たのも全部、僕が勝手にやったことだし……」

「でも、昨日先輩が助言をくれなかったら、私は美咲ちゃんたちと仲直りできてなかったかもしれないし、だから……」

「仲直りできたの⁈」

 思わず声を荒げる。

「……はい、隆也先輩のおかげで仲直りできました」

「そっか……よかった……」

 式部さんと式部さんの友達の仲は、ほぼ間違いなく修復できるとは考えていた。

 だが、ほぼ間違いがないだけで百パーセントではなかったので、やはり式部さん本人の口から仲直りできたと聞いて安心してしまう。

 そして、仲直りできたということは僕の役目はもうないということだし、長居は不要だろう。

「じゃあ、式部さんが友達と仲直りできたことも確認できたし、もう帰るね」

「あ、はい。じゃあ、隆也先輩、また」

「うん、またね」

 僕はそう言って踵を返し、家まで帰宅するのだった。


 美咲ちゃんたちとお昼ご飯を食べ、そのまま家に帰宅した私、式部春は、今日の隆也先輩との会話を思い返していた。

 思い返すと言っても会話の内容ではない。

 会話をしている時に感じたことについてだ。

 隆也先輩と話していると、何故か胸のドキドキが止まらなかったし、顔も熱でもあるんじゃないかっていうくらい熱かった。

 それだけじゃない。

 美咲ちゃんたちとご飯を食べている時も、家に帰ってくるまでも、そして、家に帰ってきてからも隆也先輩のことが頭から離れない。

 この現象の原因を私は知っている。

 ああ、これはきっとそうだ。

 おそらく、間違いない。

 きっと私は……隆也先輩に恋をしたのだ。


 


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