第17話 仲直り

 式部さんの家にまで足を運んだ翌日。

 僕は、すべての試験を終え夏休みを迎えているのにも関わらず大学にまで来て、一年生の試験が終わるのを教室の前で待っていた。

 理由はただ一つ。

 式部さんが友達に謝るのを見届けるためである。

 昨日、式部さんは僕に友達に謝ると宣言した後、スマホを手に取り連絡しようとしたのだが、僕はそこで静止をかけた。謝るのならば電話越しではなくキチンと向かい合って謝った方がいいと考えたからだ。

 そんな僕の考えを伝えると、式部さんは明日試験が終わった後に自分の所に来てほしいということだけ連絡ツールを使って友達に伝え、今日謝ることにしたというわけである。

 では、後は式部さんの問題だから、僕がお節介を焼く必要はないのではないか? そう考える人も多いだろう。僕も客観的にこの状況を見ていたら、間違いなくそう思う。

 だが、僕は式部さんが心配なのだ。

 僕の中では式部さんが誤れば、ほぼ間違いなく友達との仲は修復できると考えている。

 だが、もし、本当にもし、式部さんと友達との仲が修復できなかったら、きっと式部さんは昨日のように涙を流してしまうだろう。

 そうなったらその時には昨日のようにそばに誰かいた方がいい。だが、頼れるような人もいないだろうから、ということで僕が来ているというわけである。

 と、昨日から今日こんな行動をするに至った経緯を思い返していると、試験が終わったのか、一年生が少しずつ、教室から出てくる。

 その集団の中から式部さんを探すが、見当たらない。

 おそらく、中で謝っているのだろう。

 僕は式部さんが友達と仲直りできるようにと願いながら、式部さんが教室から出てくるのを待つのだった。


 隆也先輩の前で涙を流した翌日。

 私、式部春は美咲ちゃんたちの前に立っていた。

 まず、私は美咲ちゃんたちが四人とも私が連絡した通り、私のところまで来てくれたことに安堵する。

 謝ろうにも、まず会えなければ話にならない。

 そうして、四人全員が私の方に目を向けてくれたところで

 私はゆっくりと深呼吸をして、しっかりと謝るために口を開く。

「ごめんなさい!」

 言って、私は精一杯頭を下げる。

「今まで、私が二次元オタクだってこと隠してたこととか、美咲ちゃんたちに偏見を持ってたこととか、その、ごめんなさい!」

 さらに付け加えて言う。

 これが、今の私にできる精一杯の謝罪だ。

 私のしてしまったことは、言うなれば友達の思いの裏切りだ。

 普通は謝っても許してもらえないようなことだということも自覚している。

 だけど、私には謝ることしかできないのだ。

 そうして少しの間の後、美咲ちゃんの声が聞こえてきた。

「……私ね、昨日春に色々言ってから、考えたんだ……春にも、色々と事情はあるんじゃないかって……私はよくわからないけど、二次元オタクっていうだけで嫌う人もいて、だから春は私達に二次元オタクだってことを隠したんじゃないかって思ったんだ……だってほら、私達二次元オタクじゃないし……」

「……」

「だから私は……うんん、私達はもう怒ってないの。というか、謝らせてほしい。ごめんなさい、春。私達、春の気持ちとか全然考えないで色々言っちゃって……本当にごめんなさい!」

「私も、色々言っちゃって、ごめん!」

「私も!」

「本当にごめんなさい!」

 美咲ちゃんたちの謝罪に、私は思わず顔をあげて尋ねる。

「……もう、怒ってないの?」

「うん、全然怒ってない」

「……隠し事したり、偏見を向けたり、酷い事したのに?」

「本当に怒ってないよ。春の方こそ、私達を許してくれる?」

「許すも何も、私はそもそも美咲ちゃんたちの言葉に怒ってないよ……」

「……じゃあ、これからも私達と友達でいてくれる?」

「もちろん! 私の方こそ、みんなと友達でいていいの?」

「「「「当たり前じゃん!」」」」

 そのみんなの言葉に、昨日の夜からせき止めていた感情が一気にあふれ出してきて、渡井はまた泣いた。


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