第15話 式部春の悩み事
しばらく車を走らせ、式部さんの住むアパートに到着したところで、式部さんの部屋のインターホンを押す。
しばらくの間の後、扉が開き、泣き顔を浮かべた式部さんが出てきた。
「せ、先輩……どうして?」
「式部さんが泣いてたから……大事な後輩が泣いているのに放っておくなんて僕にはできないよ……」
「っつ……せんぱい……」
僕の言葉にわっと泣き出す式部さんをそっと抱き寄せる。
そうして式部さんが少し落ち着いたところで、僕は式部さんに尋ねる。
「何があったのか聞かせてほしい……勿論、言いたくないなら言わなくてもいいけど……」
自分で言っておいてなんだが、この言い方はずるいなと思う。
だって、この言い方は、何かあるなら言ってくれと言っているのと殆ど同じだから。
でも、それでも、こんなずるい言い方をしてでも、何があったのかを式部さんの口から聞いておきたいと、聞いて少しでも気持ちを楽にしてもらいたいとそう思ったのだ。
そして、しばしの沈黙の後
「……聞いてもらっていいですか?」
と弱弱しい声で式部さんが聞いてくる。
その式部さんの問いに僕は「うん」とそう返す。
すると式部さんは僕の胸にうずめていた顔をあげてから
「えっと、じゃあ、上がってください」
と言って、僕に家に入るように誘導してきた。
え? と。
式部さんの行動に僕は心の中でそんな素っ頓狂な声をあげる。
確かに、僕は式部さんのことを放っておけなくて式部さんの家まで来たし、今、実際に式部さんに何があったのか聞こうとしている。
だが、大学生の男女が一緒の部屋に入るのはどうなんだ?
二人きりになるのは状況的に仕方ないのかもしれないが、別の場所の方がいいのではないのか?
「えっと、その……式部さんの部屋に入っていいの?」
戸惑いを隠しきれないまま、式部さんに聞いてみる。
すると、式部さんからは
「はい」
と端的な一言が返ってきた。
やっぱり、式部さんは男子に対する警戒が足りない気がする。
今、式部さんが精神的に参っていて外に出るような気分でないにしても、やはりすんなりと家にあげようとしてしまうのは、余程警戒心が少ないからなのだろうと思わずにはいられない。
前に筒谷が言っていたように信頼されているにしても警戒心が薄すぎる。
……まあ、さっき言ったように式部さんが精神的に参っていて外に出るような気分ではないのかもしれないし、今日の所は式部さんの家に上がらせてもらうとしよう。
……うん、まあ、話を聞くためだからね。
下心もないし、変なこともしないからね……
と誰にするわけでもない言い訳を心中で呟いてから僕は式部さんの家の中へと入っていった。
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