第11話 先輩・後輩のお出かけ5

 フードコートからしばらく歩き本屋に着いた僕は、二人とは別行動をとっていた。

 理由は単純で、僕の見たいものが公務員系の本であり、二人の見たいものが文芸本と言ったように見に行きたいものが違うからだ。

 ちなみに、僕が公務員系の本が欲しいのは僕が公務員を目指しているからという単純な理由である。

 僕が公務員系の本を見たいと二人に言うと筒谷からは「お前、公務員目指してるのかすげえな」と言われ、式部さんからは「公務員ですか……勉強大変そうですね」と言われた。

 実際に勉強を始めてはいないから大変かどうかはわからないだけど……

そんなどうだっていいことを考えながら二人に「まあ、そうだね」と軽く返しつつそのまま公務員系の本がある就活関連本コーナーに向かい今に至るというわけである。

 就活関連本のコーナーは手前に就職の筆記試験やエントリーシートの書き方、自己PRの仕方などの本がそれぞれ数種類ずつ置かれており、公務員系の本が置かれたコーナーには、公務員を目指すにあたってやるべきことを示した指南本や過去問集、それぞれの科目の問題集など様々なものがこれまた数種類ずつ置かれている。

 僕はその中から一つの問題集を手に取り、中身を確認する。

 そうして全体をざっとバラ読みしたところで

「やっぱりこの問題集が良さそうだな」

 と呟いた。

 公務員を目指すのならば早めに勉強しておくに越したことはないと考えて、元々、どの問題集にしようかというのは大学で公務員の指南書本を借りたり、ネットでの評判を見たりしながら決めていたのだ。

 だから今、中身を見て呟いたわけである。

 買うものも決めたところで会計をしようとレジに向かうと、二人で楽しそうに会話している式部さんと筒谷が目に入った。

 二人の様子を見ていると少しだけモヤモヤしてしまう。

 今までは別にあの二人が楽しそうに話していてもモヤモヤしなかったというのに……

 まあ、今はモヤモヤの理由を考えても仕方ないだろう。

 そう考えた僕はモヤモヤを心にしまいつつ、二人の元に駆け寄り声を掛ける。

「何見てるの?」

「あ、先輩」

「特に何見てるとかはないぞ。文芸本に欲しいのがなかったから適当にブラブラしてただけ」

「そうなんだ。じゃあ僕も後は買ってくるだけだし一緒にレジまで行こうか」

「了解」

 僕の提案に筒谷がそう言ったところで僕達は三人でレジへと向かう。

「先輩はどんな教材買うんですか?」

「今日買うのは教養試験のうちの一教科の教材かな」

「教養試験……って何ですか?」

 疑問に思ったのか式部さんが聞いてくる。

 まあ、公務員を目指したことがない人が教養試験を知らないのは無理もないか。

「教養試験は、公務員を受ける人が絶対に受けなきゃいけない試験。公務員の種類によって教養試験だけ受ければいいところと教養試験と専門試験を受けなきゃいけないところがあって……ってごめん。関係ないところまで説明しだしちゃって……」

「いえ、大丈夫です……先輩、色々頑張ってるんですね」

「まあ、いやでも頑張らないといけないからね」

「ほんとにな……」

 僕の言葉に反応して筒谷が切なげに呟く。

 就職活動に追われて自分の趣味に使える時間が確実に減っているのだろう。

 僕も公務員を目指すとはいえ、民間企業も併願で受けるつもりなので筒谷と同じような、いや、公務員の勉強もあるから筒谷以上の忙しさになることは明白だろう。

 非常に憂鬱である。

 そんな会話をしている間にレジまで辿り着いたので、会計を済ませ、本屋を出る。

 そして、本屋を出たところで

「で、これからどうする?」

 と振り出しに戻るわけである。

 現在時刻は午後二時頃。

 流石にまだ帰るには早すぎると思うし、それは二人も同じ気持ちらしい。まだ帰りたくないオーラが漏れ出ている。

 しかし、特に行きたいところもないし……と僕が少し諦めムードに入った所で

「特に行きたいところがないなら、このショッピングモールを適当に回りませんか?」

 と式部さんが提案してきたので、僕達はその案に乗ることにした。


 ショッピングモールを巡っている間に時間は過ぎていき現在午後四時。

 ショッピングモールを歩き回ってクタクタになった僕達(僕と筒谷の二人だけ)は車の中でだらけきっていた。

「慣れないことするもんじゃないな」

「だね。式部さんは大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

 僕の問いかけに、式部さんは元気そうにそう答える。

 推測ではあるが、式部さんは友達と一緒にこういう場所に来ることが多く慣れているから僕達に比べて疲れていないように見えるのかもしれない。

 まあ、それ以上にいつも外に出なさすぎな陰キャオタクの体力がミジンコ以下なことの方が、僕達が疲れ切っている原因なのだろうが……

 とまあ、いつまでも休んでいてもしょうがない。

 そう考え、僕は二人に確認してから車を走らせる。

 向かう先は筒谷と式部さんの家だ。

 ショッピングモールを出る前は、このまま夕食も一緒に食べようという雰囲気になっていたのだが、三人そろってアニメショップやフードコート(僕は本屋も含む)でかなりのお金を使っていたことに気づき、夕食は家に帰って各自で帰ってから済ませようということになったのである。

 そうして車を走らせて、筒谷を家へと送り、式部さんの家に着いたところで式部さんの家に着いたところで式部さんから

「先輩、今日は楽しかったです。一緒に来てくれてありがとうございました」

 と言われた。

「こっちの方こそ、誘ってくれてありがとう。楽しかったよ」

「先輩も楽しんでくれたならよかったです。それじゃあ、また」

「うん、また」

 言って、式部さんが笑顔で手を振ってきたので、僕も手を振り返す。

 そうして式部さんが家に入っていくのを確認した後、僕は車を走らせて帰宅したのだった。

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