第7話 先輩・後輩のお出かけ1

 そうして、約束の土曜日の朝。

 僕は、筒谷を助手席に乗せながら式部さんの家まで車を走らせていた。

 当初、仲がいいとは言え僕達が女子大生が一人暮らししている家を知るのはいかがなものだろうかと考え、どこか適当な集合場所を設けようとしたのだが、式部さんが「じゃあ、先輩たちに私の家の場所教えますね」と言いながらサラリと自分の家の住所を伝えてきたので、僕達は今式部さんの家にまで式部さんを迎えに行っているというわけである。

「もう少し警戒心を持ってもいいと思うんだけどなぁ……」

 式部さんの家の場所を知ったときのことを思い返しながら呟く。

「式部さんのことか?」

「うん、そう。知り合って二か月程度しかたってない男共に家を教えるなんて警戒心が無さすぎると思うんだよね」

「それだけ信頼されてるって考えればいいんじゃねえの? そもそも俺らのことを信頼してないならいくら一緒にアニメショップに行けるような人が俺達以外にいないからって俺達を誘ったりはしないだろうし」

「まあ、それもそうなんだけど……」

 もう少し警戒心を持っていてほしいなとは思う。

 式部さんは警戒心が無さすぎだ。

 と、そんな風に話している間に式部さんの家が近づいてきたので筒谷にもうすぐ到着するからわかりやすい場所で待っていてほしい旨を連絡してもらう。

 そうして三分ほど車を走らせていくとアパートの駐車場の中で待っている式部さんを見つけた。

 車で駐車場内の開けたスペースへと入り、そのまま車を停め、式部さんが車に乗ったのを確認してので、僕は駐車場を出て今日の目的地であるショッピングモールへと車を走らせる。

「先輩、迎えに来てくれてありがとうございます」

 後部座席に座っている式部さんからお礼を言われる。

「ああ、うん。別に気にしなくていいよ。目的地が同じだから、こうやって一緒に車で行って浮いた分のお金でショップ巡りを楽しめるしね」

 バスとかの公共交通機関はお金もかかるし何なら乗り換える可能性なんかがあって大変な上に時間がかかる。

 その点、僕の車で一緒に行けばお金も浮くし時間も短縮できると考え、話し合いの時に僕の車で一緒に行こうと提案したところ、その提案は受け入れられ結果、こうして僕の車でショッピングモールまで行くことになったのだ。

 と、そんな考えを巡らせながら一つのことを確認するべく口を開く。

「二人とも、飲み物買いたいとかトイレ行きたいとかあったら遠慮なく言ってくれ。どこか適当なコンビニでも入るから」

「俺は大丈夫」

「私も大丈夫です。飲み物も持ってきてますし」

「オッケー」

 二人とも大丈夫なようなのでそのまま車を走らせる。

 車を走らせること数十分。目的地であるショッピングモールが見えてきた。

「いや、でかいな」

 助手席から見ていた筒谷がそう呟く。

 確かにでかい。

 三階建ての建物で、端から端まで見渡そうと思ったら顔を左右に振らなければならないほどでかい。おそらく、フロアを歩くだけで十分程度は歩くことになるだろう。

 それほどまでにでかい。

 そんなショッピングモールのでかさに驚きながら駐車場へと入っていく。

 休日ということと一週間前にできたばかりということが重なってかなり混雑していたが、端の方のスペースに何とか車を停めて館内へと向かう。

 そうして入口まで来たところで

「うわ……」

 と、入り口から見える館内の様子を見て、思わずそう呟く。

 入り口から見える範囲だけで人でごった返しているのだ。

 駐車場の状態からある程度は予想していたが、実際に人でごった返している様を見ると思わずたじろいてしまう。

 二人の顔をちらりと伺うと、僕と同じようにたじろいでいた。

 まあ、ここまで来たし行かないという手はないのだが……

 そんな風に思いながら入ってすぐにあった『館内の案内とパンフレット』と書かれたボードが置かれているところからパンフレットを三つ手に取りつつ、館内へと入っていき、少し進んだ所で二人にパンフレットを一つずつ手渡す。

「先輩、これは?」

「館内のパンフレット。これだけ人が多いとゆっくり館内の地図を見てる暇もないだろうけど、これがあれば場所もすぐわかるから。それに、この人ごみの中でもしはぐれちゃったりした場合でも目印の店の名前を全員が分かってると集合しやすいからね」

「なるほど」

 式部さんから聞かれたので答えると、式部さんは納得したようにそう呟いた。

「なるほど、そんなこと全然考えてなかったわ。すげえなお前」

「まあね」

 筒谷からの賞賛の言葉を、下手に謙遜するのも良くないだろうと考え、素直に受け取る。

 そうして、目的地であるアニメショップへと向かおうと人ごみの中をゆっくりと進みつつ、パンフレットに描かれている館内の地図に目を通す。

 館内の地図によれば、このショッピングモールは三階建てであり、一階には電化製品や大型家電が売られている店に大型スーパー。二階には、書店やアンティークの雑貨屋、フードコートが。そして三階には、小物店や映画館、そして僕達の目的地であるアニメショップがあるようだ。

 大きさだけで見ても僕達の住んでいる市にあるショッピングモールの三倍はあるし、展開されている店のラインナップも幅広い年齢層・ニーズに対応したものになっている。

 本当に、ショッピングモールの規模に驚かされるばかりである。

 そんな風に考えつつさらに進んでいき、しばらく歩いたところで目的地であるアニメショップが見えた。

「いや、結構でかいな」

 筒谷がそんな風に呟く。

 事実、アニメショップはショッピングモールの中にある一つの店としてはあり得ないほどに大きい。平均的な百円ショップくらいの大きさがありそうだ。

「これだけ大きいと色々ありそうですね。行きましょう、先輩!」

 式部さんが若干興奮気味に言いながら早く入りたそうにしているので僕は

「うん」

 と返して、三人でアニメショップへと入っていった。


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