インコらんど
天石蓮
どこかにあるインコの国
ようやく授業が終わり、昼食時になったとある高校の教室で…
「ねぇ、ヒナちゃん知ってる?どこかにある島国…インコが統治している国の話!!」
メロンパンの袋を開ける少女、ヒナの目の前に座る少女、コトリが真面目な顔をして突然そんなことを聞いてくる。
「…インコが統治している国?何それ、おとぎ話?」
「おとぎ話なんかじゃないよ!!どこかにある、すっごいとんでもない国なの!その名もインコらんど!」
「インコらんど…なんかテーマパークの名前みたいな感じだね」
ヒナのその言葉を聞いたコトリは激しく首を横に降る。
「テーマパークだなんて…!人間がインコの為に奴隷の様に働かされているんだよ!?」
ズイッと前のめりに喋るコトリに呆気をとられるヒナは「そ、そうなんだ…」と言ってメロンパンをかじる。
「ヒナちゃんに教えてあげる!インコらんどがどれほど恐ろしいか…!」
コトリは語り出す。どこかにある、人間が奴隷の様に働かされ、インコが統治する国の話…
あのね、インコらんどはね、ジャンボセキセイインコが王様なんだ。でね、宰相がオウムなんだって!
あ、ジャンボセキセイインコってのは、品種改良された、通常のセキセイインコより一回り大きいインコなんだよ。
…でね、インコらんどにやって来た人間の事はね、羽衣インコを中心にしたセキセイインコ達の宴で骨抜きにして、奴隷にするの!!
え?どんな宴か?ほら、インコって歌とか覚えるでしょ?あれってオスのインコの求愛行動なんだよね。いかにメスの声を真似れるかってね。
そう、インコらんどの宴って言うのは、オスのインコ達による、歌の披露宴なの。
その宴がね、とてつもなく可愛らしくて、楽しくて、素敵なんだって…!それですっかりインコ達の可愛さにやられた人間は、インコ達のお願いを何でも聞いちゃうの!つまり、人間はインコ達の奴隷になるの…!
「ね!?め~っちゃヤバイでしょ!?インコ達は、人間の事を誘惑して、奴隷にするの!!」
コトリはバンバンと机を叩く。ヒナは危なっかしく机の縁で揺れる紙パックのリンゴジュースを、机の真ん中に移動させる。
「ふぅん…そんなにヤバイかな…。羽衣インコってアレだよね。くるくるって渦巻いた羽毛が生えたインコだよね。なんかクセっ毛みたいで可愛いよね」
ヒナがそう言えば、コトリは驚愕の顔をする。
「イ、インコらんどの恐ろしさが、全く伝わってない…!?」
「…いや、何処に恐ろしい要素あるの?あ、でも…インコ達の『お願い』が、人殺し…いや、鳥殺し?どっちかわからないけど、そういった残酷なお願いをするなら、恐ろしいよね」
ヒナが頬杖をしながらそう言うと、コトリはすぐに反応する。
「インコ達のお願いってのはね、自分達が食べる食べ物…インコだから、粟とか稗とか…あと小松菜に豆苗、林檎、蜜柑だね。それを、人間達に作らせるの!それも無給で!!タダ働きだよ!?ヤバくない!?」
「インコらんどってお金使うの?てか、インコらんどの通貨って何?」
「インコらんどの通貨はね、綺麗な羽なんだって!!」
「めっちゃファンシーじゃん…やっぱりテーマパークじゃん」
ヒナがそう言えば、コトリは腕をブンブン振って否定を体現する。
「本当にヤ・バ・イ・の!!労働環境とか最悪なんだって!!」
コトリは再び、インコらんどがどれほど恐ろしいかを語り出す…
インコ達はね、人間達に自分達が食べる食べ物を作らせるんだよ。無給でね!大事な事だから、もう一回言うね。無給!!!あ、声が大きかったね…ご、ごめん。皆、気にしないで…
そうそう…労働環境が最悪なんだって。人間達がインコ達の為に農作業してるとさ、頭とか~肩とか~ 乗ってきてね、服をかじったり、髪をかじったり、ちゃっかり育ててる農作物を食べるの!邪魔してくるんだよ!?インコ達の為に働いてる人間達を邪魔してくるとか最悪でしょ!?
それにね、人間達の住居とかお偉いインコさん為に決められてね、必要な物は、配給されるのを待つしかないの!!
配給されるのは、月に一度…配られるものは、毎日茶碗一杯分食べれる量の粟と稗と大豆!!それと、カビかけたり、打ったり、形が悪かったり…商品にならない林檎に蜜柑も一緒に配られるの。あと、インコ達が食べきれなかった豆苗に、小松菜の葉も、インコ達は一日に数枚食べるだけだから、余った葉っぱも人間の配給物の一つなの。あとね、稀に卵が配られたり…
これだけしか食べられないんだよ~!!
それにね、寝る時に使う布団は、羽毛100%の布団しか、使っちゃダメなの!
あと、家の中にインコ達が勝手に入ったりして、置きっぱなしにしてた雑誌のページの縁から縁がかじられても、コップに容れた水で水浴びされても、追い出したらダメなんだって!
こんな雁字搦めな生活、絶対無理っ!
「ね?インコらんどって恐ろし~いってわかるでしょ?」
コトリは少し前のめりになってそう聞く。
「めっちゃいい国じゃない?」
ヒナは間髪入れずにそう答える。
「な、なんで~!?無給なんだよ!?お偉いインコさん達に色々決められちゃうんだよ!?」
ヒナは紙パックのリンゴジュースをちゅーっと飲んでから、ゆっくり喋り出す。
「う~ん…確かに、縛りのある生活は窮屈だね。働いても給金が貰えないから、配給物で生活する以外ないもんね。そうすると、自分が欲しいなって思った物が自由に買えないね」
「私、そんな生活やだぁあ~!欲しい物、沢山あるのに~!…おかけで今月のお小遣い、ピンチ…」
コトリは手足をバタバタさせる。
「お小遣いピンチって…まだ中旬だけど?まぁ…コトリのお小遣い事情は右に置いて…だから、そうだな…インコらんどって、奴隷の人間に結構優しいから、いい国だよね。配給物をしっかり配れてるから、豊かな国だってわかるよ」
「え?そうなの?」
コトリがぽやっとした顔でそう言うと、ヒナは呆れた顔をする。
「コトリってば…自分で話していて気づかなかった?毎日、茶碗一杯分食べれる量の粟、稗、大豆が配られるんでしょ?とりあえず、毎日食べるものが確保されているんだよ?それと、大豆も配るとはすごいね。タンパク質の心配がなくなるしね。それに、布団も配られるなら、寝る時も快適だよね」
「言われてみれば…確かに?」
コトリはようやく理解した様だ。
「それに…インコ、可愛いし。別に農作業中に肩とか乗ってきても、いいかな。だから、家の中に入ってきても迷惑というより、嬉しいかな。いっそのこと、一緒に生活できたらいいよね」
ヒナはちょっと笑う。
「そういえば…コトリ、そのインコらんどの話って、結局、どこで知ったの?」
「ん~?ネットだよ!!」
「うわ…それ、絶対に怪しいヤツじゃん」
ピチチッチチチッ!!
突然、外で鳥が、けたたましく鳴き、ヒナとコトリはそちらを見てしまう。
「インコらんど…本当にあるなら、ちょっと気になるな」
ヒナはそう呟いた。
インコらんど 天石蓮 @56komatuna
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