一口は一口で終わらない…

好葉

第1話私はきつね派!でもたぬきも一口食べたい…。

年が来る鐘音という目覚まし時計が部屋に鳴り響く。

こたつの魔物に打ち勝つことが出来なかった者たちはそれにすら気付かずまだ眠り続ける。

起きているのは私とお母さんとおばあちゃん女三人だけ…。


「おめでとう。今年もよろしくー。」


友達から来たあけおめLINEを返しながら適当に新年の挨拶を二人にする。

お母さんとおばあちゃんからも挨拶が返って来るが返事に覇気がない。

きっと大晦日の支度で疲れたのだろう。


「あけましておめでとう…。お父さん、ほら起きて…。芽衣(めい)…。」


「おじいさん、起きてください。年が明けましたよ…。」


二人とも起きる様子は無い。

LINEの返信で忙しいのに…。

お母さんは目力で私の隣で寝ている翔太(翔太)を起こせって言っている。

まぁ、ちょうど小腹が空いていたし起こすとしよう。


「翔太、うどん食べたいから起きて!早く!」


翔太の頭をパシパシ起きるまで叩き続ける。


「一人で食えばいいじゃん。俺、食うならそばが食いたい…。寝る。」


翔太はまた瞼を閉じる。

一人じゃ多いから一緒に食べようって言ったんじゃん。

いいし、一人で食べるし。

途中で食べたいって言ってもぜぇぇぇぇぇぇぇったいあげない。


一向に起きない人達を跨いで押し入れに向かう。

電気をつけるのが面倒くさいので暗い押し入れの中でカップ麺が入っているであろう白いビニール袋の中に手を突っ込み感覚だけで探し出す。

これだっ!!手には赤いきつね、大当たり!

早速お湯を入れ、こたつに入りながら五分経つのを待つ。

翔太の隣で食べるのは嫌がらせだ。

ほんのり良い匂いがしてきた所で翔太の顔付近に赤いきつねを持って行き手を仰いで匂いを送る。


翔太の目がパチリと開き、私を見た。

私はニッと笑い、勝ち誇る。


「あげないからね。」


翔太をからかっていたらあっという間に五分たっていた。

一人食べるには少し多いけど食べれなくはない。

蓋を剥がすと湯気にのってスープの匂いがただよう。


そして、最初のここが一番の迷いどころ!


一口目を甘々の揚げにして幸せにしようか、スープを飲んでほっこりしようか、麺を

一気にすすり満足感を優先すべきか…。



迷うとこだが…ここは揚げにする!!



スープに既に浸っている揚げだが、隅の隅まで浸って欲しくてお揚げをカップの奥底に何秒か沈める。

揚げがスープをよく吸ったところで急いで揚げにかぶりつく。

急ぐ理由はただ一つ、吸い上げたスープが落ちるのを阻止するため。

お揚げにかぶりついた瞬間、限界までスープを吸ったお揚げから…じゅぁ~っと甘々でしょっぱいスープが溢れ出す。




この瞬間の幸せなこと…。




噛めば噛むほどお揚げの甘さが引き立つ。

お揚げを一口食べた後に直ぐに麺をすするともう止まらない。

お揚げ、麺、をエンドレス。

スープを箸休めに飲みながら、一息つくと隣で翔太が緑のたぬきを食べ始めた。

勢いよく音を立てて。

かき揚げをスープに沈め、少しほぐれたかき揚げと一緒にそばを食べる。


これは…さっきの仕返しのつもり…?




ゴクリ…。




隣の芝生は青く見えるとはまさにこのこと…。

翔太がそばをすすりきったところでスッと自分の所に緑のたぬきを引っ張る。


「おいっ。俺の返せやっ。」


無言で赤いきつねを翔太に押し付ける。

どうやら、きつねの誘惑には勝てなかったらしく翔太はお揚げにかぶりついている。

私もかき揚げとそばを一緒にすすり、たぬきを堪能する。


この…かき揚げのトロっとサクっの中間地点がそばとマッチして最高に美味い!!

そしてスープを飲み一休み…。




「はぁ~、うまっ。」




きつねの方が好きなのは変わらないけど…たまにはたぬきも悪ないかな。

翔太がニヤニヤとこちらを見ている。


「早く返して、私のきつね!あっお揚げ食べすぎ!!」


私のお揚げが半分くらいになっている。


「姉ちゃんも食いすぎだし。」


これ以上食べられないように交換しようと思ったら、私のきつねが横にススっと移動。


「お父さん、それ私のきつね!」


私のきつねを奪ったのは先程まで寝ていたお父さんだった。

どうやら、スープの匂いに釣られて起きてしまったらしい。

今度、目覚まし時計の替わりにきつねを作ればいいんじゃないかな。


「一口ぐらい良いだろう。」


「やだよ。お父さんの一口は一口じゃないもん。」


お父さんの一口は私の三口分くらいに相当する。

あと、一口っていいながら三口ぐらい食べるのだ。

案の定お父さんの一口は一口で終わらなかった。

お父さんが満足すると箸をお母さんに渡した。


「お母さんも食べるの~?」


「一口だけ。一口だけ。」


お母さんの一口は普通だけど、お父さんと同じく一口で済むわけない。

まぁ、予想道理…。

次はたぬきが私の前から消えた。


「えっ、それ俺の何だけど…。」


翔太は私の後ろの人物を見ている。

バッと振り向く。

犯人はおじいちゃん!!


「やっぱり、大晦日はそばだな、そば。」


「あら、いいだしね。」


おじいちゃんに続くはおばあちゃん。

結局、私達に戻ってきた時には二口ぐらいしか残っていなかった。



「私の赤いきつね…。」


「俺の緑のたぬき…。」




まぁ、たまにはこんな日もありかな…。








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