8.いつか、また、どこかで・・・

 読み終えた手紙を二つに折ろうとしたが、その手が小刻みに震えて、どうにも抑えられない。

 涙が、溢れんばかりに湧いてくる。

 込み上げてくる感情を必死に抑えようと袖で涙を拭うのだが、すぐにまた溢れだす。


 美咲の思い……

 手紙にしたためられたその思いが、ひと言ひと言、胸に突き刺さってきた。


 あの日会わなければ、苦しむ事は無かった?

 それはそうかもしれない。だけど……

 僕もあの日、美咲と再会できて良かった。

 叶うならば、もっとずっと一緒に生きていきたかった。

 美咲との別れは、胸が張り裂けそうなほど悲しかった。

 だけど、会えないまま生きていく事を思えば、やっぱり会えてよかった。


 短い間だったけど、君は僕の心にたくさんの火を灯してくれたね……

 ありがとう……

 君と出会えてよかった……

 本当に幸せだった……


 僕は美咲が書いた日記に手を伸ばし、胸にぎゅっと抱きしめ、心の中で呟いた。

 いつか、また、どこかで……

 必ず……


 覚悟を決めて、美咲の日記を焚き火の中に、そっと置いた。

 火の子がパッと舞い上がり、日記が炎に包まれていく。

 

 微笑を浮かべる美咲の顔が、焚き火の中に浮かび上がった。

 これで、いいんだね……

 心の中で囁きかけると、美咲は小さく頷いて、炎の中に消えていった。


 ふと気がつくと、七海が後ろに立っていた。

 背後から啜り泣く声が聞えてくる。

 僕の両肩に、七海がそっと手を置いた。

 その手の温もりを感じた瞬間、かろうじて抑えていた感情が溢れ出す。

 喉の奥から込み上げてくるものを堪えようと唇を噛み締めるが、どうしても抑えきれずに声が漏れてしまう。

 

 僕は、肩に置かれている七海の手を握った。

 七海の手から伝わってくる悲しみの波動が、ギリギリのところで押し止めていた心の堰を決壊させた。

 僕は、自らの腕の中に顔をうずめて号泣した。

 愛する人を奪い去った病魔への怒り、

 愛する人と触れ合えなくなってしまった悲しみ、

 僕の心に残された煌びやかな思い出、

 目を瞑ると浮かび上がってくる美咲の笑顔……

 あの日からずっと封じ込めてきた様々な感情が、僕の全身を震えさせ、このまま、どうにかなってしまいそうなほどに、大声をあげて泣いた。


 声が枯れるほど散々泣き、泣き疲れて、気づいた。

 背中から強く抱きしめられている事に……

 七海の温かさが全身にじんわりと伝わる。

 それは新鮮なようで、どことなく懐かしいような……

 七海の温もりを感じ、激しく荒れ狂っていた感情の波がおさまると、僕の心の中に静寂が訪れた。


 積み重なっていた薪が崩れ、火柱を立てて激しく燃え上がる。

 真っ赤な炎が暗闇の二人を照らし出した。

 二人の影が一つに重なっている。


 パチパチと爆ぜていた焚き火の音がおさまると、静けさが里山を包み込む。

 夜空を見上げると、都会では決して見る事ができない多くの星が輝いている。

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