4.同窓会(2)
同窓会の会場になっているホテルが見えてきた。
たしか僕が高校生の頃に出来たホテルだ。
当時は斬新なデザインとピカピカな外装に目を奪われたものだが、今は随分と汚れが目立ち、当時の印象とはかけ離れている。
ホテルへ一歩近づくごとに、妙な緊張感が重なって足取りが重くなっていく気がしてきた。
小川美咲は本当に来るのだろうか……
もしも来たら何て話しかければよいのだろう……
それ以前に、彼女は僕の事を覚えているのだろうか……
そんな事を考え始めたら、憂鬱な気分になってきた。
ホテルの玄関に立った時、中に入るのを一瞬躊躇していると、背後から女性の声が飛んできた。
「やっぱり…… 美木くんね…… 久しぶり!」
その声の主が、小川美咲でない事はすぐに分かった。
振り返ると、そこに居たのは大野弓子という小川美咲の幼馴染だった。
校内で小川美咲と接する事が多かった僕は、大野弓子ともそれなりに親しくなっていた。それは小川美咲と会話をする時に、大野弓子が加わってくる事が頻繁にあったからだ。
しかし僕にとって大野弓子は好ましい相手ではなく、出来れば避けたい存在だった。
大野弓子は美咲と幼稚園の頃から付き合いがあるせいか、僕と美咲との事にやたらと口を挟んでくるお節介な人だった。美咲を気遣っての事なのかもしれないが、僕にとっては厄介なお目付け役としか思えなかったのだ。
「美木くん、同窓会に来たの、初めてじゃない?」
僕が、曖昧に頷くと、
「あぁー、美咲が出席するからね……」
弓子は得意げな顔をしてニヤリと笑った。
動機をズバリと言い当てられた僕は、慌てて何かを言い返そうとしたが、適当な言葉が思いつかず、苦笑いをしてやり過ごす事しか出来なかった。
「じゃ、また、後でね……」
弓子は僕に一瞥をくれると周囲を見回し、別の友人を呼び止めて忙しそうにロビーの奥へと消えていった。
弓子の消えた跡には、強烈な香水の匂いが漂った。
それは高校生の頃には嗅ぐ事のなかった匂いだった。
大野弓子が去り、少し間を開けてから、僕はエレベーターで六階の会場へ向かった。
クロークにコートを預け、トイレで髪型とネクタイの締め具合を確認し、宴会場の外に設えられた同窓会の受付テーブルへ行くと、クラス毎に名札が並べられていた。
その中から自分の名札を探して持っていくというシステムになっているようだ。
僕が気になったのは、小川美咲の名札が、そこにあるかどうか・・・・・・
そしてそこには、まだ彼女の名札が置かれたままだった。
名札が置かれているという事は、彼女はまだ来ていないという事になる。
ほっとしたような、がっかりしたような複雑な感情が湧いた。
会場には続々と人が集まり始め、懐かしさからか、方々に人の輪が出来て会話が弾んでいる。
僕は何名かの同級生と挨拶を交わしたが、溶け込めるような人の輪はどこにもなかった。
高校時代、美咲以外の同級生と深い関わりを持たなかった僕にとって、この場所はとても居心地が良いとは言えない。
自分の居場所を見つける事が出来ない僕は、開宴するまでロビーへ降りて待つ事にした。
会場へ来た小川美咲を待ち伏せして、偶然を装って接触しようと考えたのだ。
ロビーのソファーにどっぷりと腰を降ろして、ホテルの玄関を見つめた。
そして、美咲との高校時代の思い出に耽る・・・・・・
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