同窓会

1.同窓会(1)

 僕は電車を降りた。

 週末と言うこともあってか、駅は混雑している。


 改札口へ向かう人の流れに抗う事無く、ノロノロと歩いて駅構外へ出ると、乾いた風が身震いするような寒さを運んできた。僕は慌ててコートの襟を立てた。


 空はどんよりと曇り、まだ午後四時を過ぎたばかりなのに辺りが薄暗く感じられる。バレンタインデーが近いせいか、街のあちこちにはハートのオブジェが飾られていて、そのせいか街を行き交う人々が、なんとなく浮かれているように見えた。


 同窓会の会場であるホテルまでは駅から徒歩五分程の筈だが、その距離がやけに遠く感じる。


 同窓会への出席を決めたのは二ヶ月ほど前だった。

 同窓会の案内は、電子メールで届いた。

 メールには、同窓会専用サイトのアドレスが記載してあり、そこへアクセスして指定されたアカウントとパスワードでログインすれば出欠の返事をする事ができる。

 専用サイトには、出欠登録の他に出席者リストの公開など、いくつかの機能が備えられていた。

 これまでにも何度か同窓会の案内は届いていたが、出席した事は一度もない。

 僕は出席予定者というページを開いてみた。

 出席者リストは三年生の時のクラス毎に分かれている。

 僕はA組だったが、そのページを開かずに、G組を開いた。

 次の瞬間、胸の鼓動が早鐘を打つ。


 小川美咲……

 彼女は高校三年の夏休みに海外へ転校した。

 だから最後に会った日から二十五年以上が経過している。

 その後、彼女がどんな生活をしていたのか、それを知る術はなかった。

 ただ、僕の心には常に彼女の存在があった。

 高校時代の楽しかった思い出と、取り戻す事が出来ない日々……

 そんな思いが交錯したのか、彼女に会いたいという気持ちが俄かに沸いてきた。

 そして僕は同窓会への出席を決めた。


 僕は外資系コンピュータ会社でシステムエンジニアをしている。

 勤続二十年を越えてリーダーを任される立場になった。

 僕が担当しているのは開発に行き詰ったプロジェクトや、問題が発生したトラブル案件の対応だ。問題箇所を割り出し、責任を追及し、最善の対応策を実行する……

 それは成功して当たり前、失敗すれば逆に責任を負わされるという理不尽な役割でもあった。

 そのために社内での評価は上がらず、風当たりだけが強い。

 それでも文句を言わずに仕事をこなしてきた。

 仕事が片付いてひと段落すると、一人で山へ入ってリフレッシュする。

 そんなささやかな楽しみが、生きる糧になっていた。

 しかし近頃は、そんな生活が虚しくなり始めている。

 どうしても埋める事の出来ない心の中の空洞が、月日を追う毎に大きくなっていく気がするのだ。

 そんな思いが重なって、小川美咲に会ってみたいという気持ちが増幅されたのかもしれない。

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