いつか、また、どこかで・・・

T.KANEKO

プロローグ

追憶

 夕暮れ時、男は焚き火の前に座っていた。


 周囲の山々は鮮やかに紅葉している。

 しかし太陽が山の向うに落ちているので色彩はない。

 

 揺らめく炎を灯りにして、男は一冊の日記に目を通していた。

 時に微笑み、時に目を潤ませ、1ページ、1ページ丹念に目を通し、最後のページを読み終えると、目から溢れそうになる涙を閉ざす為、固く目を瞑った。


 日記を抱え込んだ男は、胸に去来してきた様々な思いを振り切るために顔を歪める。そして再び目を開いたとき、男の瞳には決意が宿っていた。


 抱えていた日記を握りしめ、焚き火の中にくべようと手を伸ばす。

 しかし、あと少しというところで、その手がぴたりと止まる。

 

 オレンジ色の炎が闇をぼんやりと照らしている。

 男の横には、誰も座っていないデッキチェアが、寂しそうに置かれていた。

 

 パチパチという薪の音が響いている。

 男は焚き火を見つめ、深い溜息をついた……

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