あの人を……

 ………はい、落ち着きました。

 もう泣きません。はい。

 そのようなある日、私たちは多くの大地を回り、最後にこの国をゆっくりと回っておりました。

 ビガテ、ユルサイ、ミノハ、ユルク、この国をゆっくり包むように渡り、途中でこのグランスの地も通り掛りました。

 最後に、我々は、ユルムに行った時です。

 あの人は静かに、私たちと食事をした時です。

 他の物に、パンをくださったのに、私だけ浸されたパンを渡されました。

 屈辱でした。なぜ、私だけと、あの人に言いました。

 するとあの人は私に近づき、私の耳元で、為すことを為せばよい、と小さく言ってその場を去ったのです。

 あぁ、あの人は見離したのです。

 私から去ったのです。

 それがどうにも許せない。

 ですから、私はあの人を売ることにしました。私の手で殺すことに決めました。

 ですから、旦那様、あの人を殺してください。

 どこにいるか知っております。

 ですから、あの人を捕らえ、殺してくださいまし。

 あの人は、今頃、クリュシュタの屋敷の中で部下の皆々様と話しておるでしょう。

 小鳥囀るあの屋敷にあの人はおられるのでしょう。

 ですから、早く捕まえてください。

 別に金銭が欲しいのではありません。いや、欲しておりますが、今はそれ以上に欲しているものがあります。

 あの人の……。

 私の名ですか? 私、私の名は、ユダ。ユダと申すメイドでございます。




====================================




 あははははははは…………あはは……!

 いかせません、貴方様。

 貴方様が死ぬのであるのでしたら、私も追いかけましょう。

 ですが……誰かに殺されるのでしたら、私が殺してあげます。

 貴方様。

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【短編】Rush appeal 山鳥 雷鳥 @yamadoriharami

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