サンタクロースになれる魔法
宇目埜めう
第1話 サンタクロースなんて大嫌いだ
クリスマスに浮かれる雑踏の中、少年の声は、はっきりと俺の耳に届いた。
誰かを追いかけているらしいその少年は、赤信号を無視して、躊躇なく道路に飛び出していく。
俺は、容赦なく迫る大型トラックよりも先に少年を突き飛ばす。代わりに俺の目の前には、到底よけることができないスピードでトラックが迫っていた。
次の瞬間──。
右肩、それから腰、最後に頭の順に凄まじい衝撃が襲う。重力が反転した。ちらつく雪がスローモーションになる。胸から下げたロケットペンダントが、ふわふわと無重力の中みたいに浮かんでいた。
そして──、ゆっくりと回転する景色の中、目を見開く少年の顔が見えた。
最後に聴くBGMがクリスマスソングだなんて。
クリスマスなんて俺には無関係だし、なにより俺はサンタクロースが大嫌いだ。俺の元にはサンタクロースが来なかったから、どうやら孤児のもとにサンタクロースは来ないらしいと物心付く頃には悟っていた。なんて差別的で薄情な爺だろうと思ったものだ。
だいたい、クリスマスはイエス・キリストの誕生日のはずだ。どういう理屈でその前日の夜に、無関係の爺さんが、無関係の子供たちにプレゼントを配ってまわるのか。意味不明だ。
もはや誰に向けた、なんのお祝いなのか分からなくなっている。現にこの雑踏の中に、クリスマスがキリストの誕生日だということを覚えている人がどれくらいいるだろう。
俺だって——、誕生日を祝ってもらいたい。
そう嘆いたところで祝ってくれるのは、
世界中の子供たちのためにプレゼントを配るはずなのサンタクロースは、俺のところには来なかった。他の子よりもプレゼントをもらう権利があるはずなのに――。
俺は今でもサンタクロースを恨んでいる。キリストなんかよりもずっと憎たらしい。
俺は、クリスマスもサンタクロースも大嫌いだ。
だから、少年の言葉を無視できなかった。
俺の運命を決めた少年の言葉は、「クリスマスもサンタクロースも大嫌いだ!!」だった。
少年はどうしてそう思ったのだろう。理由を尋ねることはもうできそうにない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます