第8話 『分け身』
「すごいですわ! やっぱりアルさんは本物の救世主ですわーっ!」
耳元で放たれる爆音に、俺は思わず両手で耳を塞ぐ。
ラビィめ、小さい体のくせになんてデカい声出しやがる。
「おうこら小動物、俺の鼓膜が破れたらどうしてくれんだ?」
「いふぁい! いふぁいでふわアルひゃん! ほっぺをひゅままないでくだひゃいまし!」
「お前がふわふわでモチモチなのが悪い。黙ってモチられるんだな」
「ぴぃー!」
しばらくラビィを弄り倒した俺は、涙目の彼女を解放する。いかんな、ついついやり過ぎてしまう。
姉が女王なんだからラビィも王族、結構偉いはずだ。こんなことしてるとバレたらそこそこ重い罰をくらってしまうんじゃないか? まあ止める気はないけど。
「……さて、そろそろ俺は一旦帰らなくちゃいけない。もうすぐ朝になる時間だからな。それまでに色々話を詰めておこう」
今俺とラビィは王宮の一室にいる。
部屋の窓から見える外は明るい。しかし魔王国はまだ夜なのだ。
ラビィの話によるとここジェムシュタットは『異界』と呼ばれる現実世界とは『層』が異なる世界らしい。そのせいでこの都市には夜が来ないという。
この世界には不思議なことがたくさんあって興味が尽きないな。
「次のバグベア襲撃は三日後だったか? それまでに色々準備しとけばいいんだろ?」
「そうですわ! 次の襲撃は今までよりたくさんのバグベアが来ると想定されてますわ! アルさんのお力をぜひ貸して下さいまし!」
キラキラした瞳でラビィは頼み込んでくる。
しかし……俺は首を縦には振らなかった。
「バグベアと戦うのはいい。だが……もちろん
「え゛」
想像だにしてなかったのだろう。ラビィは俺の言葉に小さな体に似合わぬ野太い声でリアクションをする。
まあ救世主様が見返りを要求してくるなんて思わないわな。
「おっと安心してくれ。別に大変なものを要求しようとはしてない。俺は
「何かと思えば
ラビィの反応を見る限り、やはりこの都市では
勝手に持ち去ることも出来なくはないだろうが、
そんなことしたらクソ勇者たちと同類だ。
「どうだ?
「うーん……多分大丈夫だと思いますわ。三級品以下の物にはなってしまうと思いますけど」
「三級品?
「はい! 大まかにですが一から四までのランクに分かれていますわ!」
そもそも元の世界ではランク付け出来るほど
この世界には
「外で自然発生している
「
確かにカーバンクルであるラビィの額には光り輝く赤い宝石がはめ込まれている。
しかしこれを取ったらなんかこう……死んでしまいそうだ。だってそれは力の源的なアレじゃないのか? 心臓を抜き取るようなものじゃないんだろうか。
流石の俺でもそれは躊躇ってしまうぞ。
「私たちは一生に一度だけ、宝石の『分け身』を作ることが出来るんですわ。自分についている宝石と瓜二つの分け身、その力はそこらに生えている
「なるほど。つまり一級品と二級品の
「そうなりますわ! ちなみに王族の分け身は一級品になるので私の分け身も一級品なのですわ!」
えっへん。とラビィは胸を張る。
たぶん
「まあ三級品でも四級品でも構わないさ。品質よりもひとまず量が欲しい」
「でしたら問題ないと思いますの。私からお姉さまに頼んでおきますわ!」
「そりゃ心強い。よろしく頼んだぜお嬢様」
「ぴぃー! 強くモフらないでくださいまし!」
騒ぐ毛玉をいじくり回しながら今後の事を考える。
あのバグベアとかいう怪物、一体だけなら問題ないが流石に大勢でやってきたら対処が大変そうだ。
そのためにも……まずは
解析、それと量産。後は
やることは多いがその分成功した時に得られる物も多い。こりゃやり甲斐があるぜ。
「あ、そうだ。自分用にも
「ぴ、ぴぃ!? それ、本気で言ってるのですか!?」
「へ? まあ本気だけど」
ラビィの反応がやけに大きい。いったいどうしたんだ? 顔も赤いし体調でも悪いんだろうか?
一級品が貴重でも、何個かは王宮で保管してると思ったんだけど……流石にそれは渡せないのだろうか?
「ダメか?」
「いや、ダメというわけではないですが……は、」
「は?」
「は、破廉恥ですわーっ!!!!」
ラビィは俺の鼓膜をぶち抜くほどの大声を出しながら部屋から出て行ってしまう。
は、破廉恥? いったい俺がいつそんなことをした?
「一体なんだったんだ……」
呆然としながら俺は呟くのだった。
◇ ◇ ◇
「お姉さま! 私……求婚されてしまいましたわ!」
「き、求婚!? 誰だその不届きものは!?」
「それは言えませんわ……ぽっ」
「妹が……頬を赤らめてる……だと?
あの万年お子ちゃまのラビィが……信じられません……」
「お姉さまも早くお相手を見つけた方が宜しいんじゃなくて?」
「まさか妹にマウントを取られる日が来ようとは……人生は分からないものですね……」
「はあ……まさかあんなに情熱的に求められるとは思いませんでしたわ。どう返事しましょうかしら……」
異性の
そのことをアルデウスが知らなかったと知りラビィが盛大に肩透かしをくらうのは、次の日のことであった。
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