第7話 バグベア
異形の亜人『バグベア』。
茶褐色の表皮は岩のように硬く、複雑に隆起した筋肉は常識外れの怪力を発揮する。
豚と熊を足したような顔は醜く歪んでおり、その凶暴性と残虐性を見るものに雄弁に語る。
そんな恐ろしい化け物が檻の中からアルデウスのことを睨みつけていた。
「フーッ! フーッ!」
「おいおいなんだこの鼻息の荒い生き物は。動物図鑑でも見たことないぞ?」
言葉が分かるのか、バグベアと呼ばれたその生き物は鉄格子を掴み、勢いよく揺らしてアルデウスを威嚇する。
「バルルルルッッ!!」
「おー、おっかねえ。女王様、これは一体なんなんですか?」
「その者は『バグベア』と呼ばれる亜人の一人です。ゴブリンと祖を同じとしますが、その気性は比較にならないほど獰猛で野蛮。言語能力もありますが、暴力によるコミュケーションを第一手段とする恐ろしい種族です」
「見た目通りの習性というわけですね。テストっていうのはこれを倒せということですか?」
アルデウスがそう尋ねると、女王のマリィは静かに首を縦に振った。
するとカーバンクルのラビィが「ぴぇ!?」と甲高い声を上げる。
「な、ななななな何を言ってるのですかお姉さま! そんなの危険すぎますわ! 死んでしまいますわ!」
「何を言ってるのですかラビィ。救世主であるのならばバグベアを一人で倒せる力を持っていないとお話になりません。その力を持っていないのであれば今すぐ帰っていただくべきです」
「そ、それはそうですが……でも……」
歯切れ悪く食い下がるラビィ。そんな彼女をアルデウスは止める。
「庇わなくても大丈夫だぞラビィ。
「へ?」
呆けるラビィを置いて、アルデウスは檻に近づく。
中のバグベアは鬼の形相で彼を睨みつけるが、アルデウスは一切怯まずむしろ睨み返してみせる。
「檻を開けてくれ。夜遊びしてるのがバレると怒られちゃうからな」
「……いいでしょう。そこまで言うのなら見せてみて下さい。貴方の力を」
女王が指を鳴らすと、檻に付けられていた宝石の錠前が音を立てて砕ける。
それと同時に檻の扉が勢いよく開き、中に閉じ込められていたバグベアが飛び出してくる。
「ガアアアアッッ!!」
猛獣のように鋭い牙を剥きながら、バグベアは巨木のように太い拳を振り上げ、アルデウスめがけ振り下ろしてくる。
バグベアの身の丈は三メートル超。アルデウスと並ぶとその差は大人と子ども以上だ。
とてもじゃないが正面から太刀打ち出来るとは思えない。表面から見えるものだけでいえば。
「獣王直伝、天地投げ!」
アルデウスはその拳をギリギリまで引きつけてから躱すと、その手首をつかみ思い切り投げ飛ばす。地面に激しく背中を打ちつけたバグベアは「……ガッ!?」と呻き苦悶の表情を浮かべる。
そして驚いたのは投げられたバグベアだけじゃない。その戦いを見ていた衛士、ラビィ。そして女王のマリィも目の前の光景に驚き目を見開く。
「バグベアを……投げた!? あの少年はいったい……!」
「ほら! 見ましたか姉さま! アルさんはすっごいんですよ! やっちゃえー!」
謎の少年の思わぬ力にざわめく
一方投げられたバグベアは跳び上がり体勢を立て直す。思い切り地面に体を打ちつけたように見えたが、大きなダメージを受けたようには見えない。
「見た目通り頑丈ってわけか。こっちももう少しギアを上げるとするか」
アルデウスは腰に差したグラムナイフを抜き、構える。
そしてその黒く光る刀身に指をすべらせ術式を付与する。
「術式付与、
アルデウスの体から滲み出る異質な魔力。それを感じ取ったバグベアはナイフのように鋭い爪で引き裂きにかかるが、既にアルデウスに反撃の準備は整っていた。
「秘技、
ドンピシャのタイミングで放たれた斬撃が、バグベアの腕を弾きとばす。
自分の攻撃力をそのまま反射されたバグベアの腕はあらぬ方向にひん曲がってしまう。
「――――ア゛ァ!!」
しかしそれでもバグベアの攻撃は止まない。痛みを怒りに変え、複雑骨折してない方の左腕でアルデウスを掴みにかかる。だがアルデウスその攻撃をギリギリで躱すと、お返しとばかりに左手首をグラムナイフで斬り落とした。
「グッ!?」
手首に走る焼けるような鋭い痛み。
いくら頑丈で痛みに強いバグベアと言えど我慢できず怯み、隙を晒してしまう。アルデウスはそれを見逃さず、ガラ空きとなったバグベアの腹部に蹴りを打ち込む。
「
術式により強化された肉体から繰り出される音速の蹴り。
それをモロに食らったバグベアの肉体は物凄い勢いで吹き飛び、勢いそのまま檻の中に収監されてしまう。
「が……ぁ……!」
檻の中で数度バウンドしたバグベアは、力無く檻の中に倒れ意識を失う。
誰がどう見てもアルデウスの圧勝。謎の少年の力に
「どうですか女王様。自分が伝承の救世主様かは分かりませんが……話を聞いてくれる気にはなったんじゃないですか?」
「……分かりました。貴方の滞在を許可しましょう」
何か言いたげに女王は眉を顰めるが、彼女はアルデウスの滞在を許可するのだった。
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