第6話 宝石都市ジェムシュタット
光の中をくぐり抜けると、そこは絵本に描かれていた宝石の国とうり二つの世界が広がっていた。
「これは凄いな……!」
エメラルドの屋根にダイヤの壁。アメジストの道路に金の街灯。
街全体がキラキラと輝く宝石の国。これが宝石都市ジェムシュタットか、流石に度肝を抜かれたぜ。
「さ、王宮はこちらですわ。えーと……」
「そういえば名乗って無かったな。俺はアルデウスっていうんだ。アルでいいぞ」
「ではアルさん! さっそく女王陛下のもとへ行きましょう!」
元気よくぴょんぴょんと跳ねていくラビィ。俺はその後をついて行く。
「それにしても色んな動物がいるな。これ全員
「そうですわ! ここに住んでいるのは
「へえ、変身能力まであるのか。てことはラビィも人型になれるのか?」
「私はまだ未熟なので無理ですわ!」
「こんなこと言いたくないけどよくお前が選ばれたな!?」
致命的な人選ミスじゃないか?
まあ結果的に俺と出会えたのだから結果オーライではあるが、こいつに任せるのはあまりにも危なっかしすぎるだろ。女王さまは何を考えているのやら。
「女王様、救世主候補を連れて来ましたわ!」
王宮の奥、やたら広い大広間に通された俺はジェムシュタットの女王様と顔を合わす。
女王は全身を煌びやかなドレスで着飾った人間だった。見た目は二十代前半くらいといったところだろうか。女王というだけあってとても整った綺麗な顔をしている。
もっと年いってると思ったんだが結構若い感じだ。
女王はラビィに目を向けた後、俺を一瞥すると「はあ……」とため息をつく。
あれ? なんか歓迎されてない感じだな。
「また連れてきたのですかラビィ。迷惑になるからやめなさいと言いましたのに」
「で、でも! 今度こそ救世主様だと思うのですわ! この人とっても強いんですわよ!」
ははん、成程。だいたい理解したぞ。
女王に命じられたとか言っていたけど、あれは真っ赤な嘘だったんだな?
全部ラビィの独断でやっただけで、女王は救世主様の存在すら信じていなかったんだ。だからラビィみたいなおっちょこちょいが救世主探しなんてものをやっていたんだ。
「もうこれで終わりにしていただきますよラビィ。みなやるべき事があって忙しいのです。貴女のお遊びに付き合っている暇はないのですよ」
「お遊びなんて……そんな……!」
何か言いたげに口をパクパクと動かすラビィだが、やがて耳をペタンと垂らして押し黙ってしまう。こいつも内心では救世主が本当にいるなんて思ってないのかもしれない。
それでも自分に出来ることはこれしかないと、愚直に探し続けてたんだろうな。いじらしいじゃないか。
……まあここまで連れて来てもらった恩もある。
ここは一つ、一肌脱いでやるとするか。
「こいつのやってきた事が無駄かどうかは……まだ分からないんじゃあないですか?」
「そなたは……」
ジロリと女王様は俺を見る。明らかに警戒している目だ。
だがその程度で怯みはしねえぞ。
「お初にお目にかかります、女王陛下。私はアルデウス・サンズと申します、お会いできて光栄です」
「……
この人、ラビィのお姉さんだったのか。だからこんなに親しげに……って今はそれどころじゃない。
このままでは手ぶらで帰らされてしまう。せっかくこんなとこまで来たっていうのに手ぶらで帰るのは嘘だろ。なんとか食い下がらなければ!
「力を見ずに私を帰すのは早計ではありませんか? 自分で言うのもなんですが……他の子どもとは『違う』自信がありますよ」
「……ほう」
目を細め、女王マリィは俺を値踏みする。
疑惑半分好奇心半分と言った所か。分の悪い勝負じゃなさそうだ。
「確かに貴方から感じられる魔力は非凡。普通の子どもとは思えません。しかし我らに必要なのは真に救世主と呼べるような逸材。優秀な魔法使いが一人増えたところで状況は変わりません」
「じゃあテストしてくれませんか? 私が救世主……かどうかは分かりませんが、力を見てから判断しても遅くはないでしょう」
「ふむ……」
俺の言葉に女王は逡巡する。
そしてしばらく考えたのち、結論を出す。
「分かりました。ではそうしましょう」
「……! ありがとうございます!」
よし、第一関門突破だ。
サクッとテストを突破してこの国に居れるようなろう。
「衛士よ。この前捕えたアレをここに連れて来なさい」
女王がそう言うと、広間がザワつく。
何だ。いったい何を連れてくる気なんだ?
「し、しかし女王様、本当によろしいのですか?」
「私は連れてこいと言ったのです。早くしなさい」
「は、はっ! 直ちに!」
緊張した面持ちで去る衛士。
そしてしばらくすると、ガチャガチャと金属音を立てながら大きな物が広間に運ばれてくる。
それは大きな檻だった。
高さは四メートルもあり、一本一本の格子は太くとても頑丈そうだ。
しかし何より目を引いたのはその中身。檻の中にいたのは見たこともない巨体の亜人が入っていた。
「この者の種族は『バグベア』。私たちの国を脅かす仇敵です。この者を倒すことが出来れば、都市への滞在を認めましょう」
薄く笑みを浮かべながら、女王はそう言い放つのだった。
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