第5話 扉《ゲート》

「で? さっき言ってた選ばれし者ってのは何のことなんだ?」

「むー。みだりに他人に言ってはならないと言われているのですが……まあ貴方は子どもですしいいとしましょう。お話ししますわ!」

「聞いといてなんだがガバガバだな」


 こんなお喋り珍獣に大役を任せて大丈夫なのか女王様。もしかして女王もこいつみたいな天然娘なのか?


「私たち宝石の力を持つ獣、『魔宝石族ジェニマル』は宝石都市ジェムシュタットに住んでいますわ。ジェムシュタットはとっても綺麗で住みやすい、いい街なんですわよ!」

「へえ。そりゃ是非行ってみたいものだ」

「はい! 自慢の街、なの、ですが……」


 そこまで話すとラビィは急に声のトーンを落としシュンとしてしまう。

 目を細め、耳を垂らし、尻尾は畳まれる。感情の分かりやすい生き物だ。

 うーむ、言っちゃ悪いが、なんかこう、嗜虐心がくすぐられるな。意地悪して涙目にさせたくなってしまう。もちろん俺は空気が読める男なので今はしないが。


「ジェムシュタットは今、未曾有の危機にあるんですわ。なので私は王都こちらに伝承に出てくる救世主様を探しに来たのですわ!」

「伝承の救世主様……ねえ」


 なんとも胡散臭い話だ。本当にそんな都合のいい存在がいるのか?

 この世界は神も勇者も揃ってクソ野郎だ。伝説なんて碌なものじゃないと思うぞ。


「その伝承の救世主様ってのはまだ見つかってないんだろ? どんな特徴してるんだ?」

「分からないですわ!」

「じゃあどう探せって言うんだよこの白毛玉が!」

「ぴぃ!? そんなに強くモフらないでくださいまし!?」


 あわあわと目を回すラビィ。

 俺は制止を聞かずに存分に三分ほどモフり倒す。

 こいつの毛、ムカつくほどに手触りがいいな……。ひん剥いて枕にしたらよく眠れそうだ。


「なんか怖いこと考えている気がしますわ!?」

「勘がいいな。全部脱いでくれない?」

「きゃー! 汚されますわーっ!」


 本気でギャン泣きするので仕方なく解放する。

 やれやれ、冗談だってのに。半分くらいは。


「ぴいぃ……酷い目にあいましたわ……」

「ごめんって。ラビィの毛が魅力的だからつい、な」

「私の毛が魅力的……! ま、まあそこまで言うなら許してあげないこともないですわ! こ、今回だけでしてよ!」

「ツンデレまでいけるとは属性盛りすぎじゃない?」


 俺がケモナーじゃなくて良かったな。そっちの人だったらモフるぐらいじゃ済まなかったろうぜ。


「……ツンデレってなんですわ?」

「こっちの話だ、気にしないでくれ。それよりそんな何も情報がない状態でどうやって探してたんだ?」

「ジェムシュタットには子どもしか入れない『制約』がありますわ! なので夜出歩いてる子どもに片っ端から声かけて、ジェムシュタットに来てもらってますわ!」

「なんて非効率的なローラー作戦を……。ていうかそんなに攫ってたのかよ」

「ちゃんと救世主じゃないと分かったら、記憶を消してすぐにおかえししてますわ」

「まあそれなら……いいのか?」


 ファンシーな見た目してるくせに倫理的にスレスレなことを堂々としやがる。

 ……まあでもそれだけこいつらは追い込まれているのだろう。『未曾有の危機』っていうのがなんなのかは知らないが、興味がある。いっちょ飛び込んでみるとするか。


「なあ、そのジェムシュタットには俺も行けるのか?」

「へ? 十二歳未満でしたら行けますけど……」

「よっしゃ決まりだ。俺を連れてってくれよ。そこらの子どもよりは戦えるから役に立つと思うぜ?」


 俺の提案にルビィは「う〜ん」と困ったような顔をする。

 まあ自分をさんざ追いかけ回して糸でグルグル巻きにした挙句、ひん剥こうとした奴を連れて行きたがるわけがな


「いいですわよ! 行きましょう!」


 ガクッと崩れ落ちる俺。

 自分で言うのも何だけどこんな怪しいやつ連れてっていいの?


「お前もうちょっと人を疑った方がいいぞ?」

「へ? 騙してるんですの?」

「いや違うが……」

「じゃあ大丈夫ですの!」


 一切警戒心のない、純粋な笑みを見せるルビィ。

 全く、いい性格してやがるぜ。


「それじゃあ早速ゲートを開きますわね!」


 そう言うやルビィは額の宝石を近くの壁に「こつん」とぶつける。

 すると壁が突然光り出し、次の瞬間には人ひとり通れる大きさの扉が出現していた。


「これが宝石都市ジェムシュタットへ通じるゲートですわ!」

「へえ、こりゃ面白い。ぜひ後で解析したいもんだ」


 転移魔法、もしくは空間魔法の類だろう。実に興味深いな。

 だがジェムシュタットとやらに行くのが先決。この扉を調べるのは後でいいだろう。


「じゃあ早速入らせて貰うぞ」


 そう言って躊躇せず扉を開ける。

 扉の中は光で包まれている。先の見えないそこへ入ろうとして……見えない壁に思い切り額を打ちつけた。


「いだっ!」


 思わず額を押さえ、その場にうずくまる。

 いったい何だってんだ!? 入れないじゃないか!


「お、おい! どうなってんだラビィ!?」

「おかしいですわね……? 子どもであれば入れるはずなのですが」

「ってことはお前も知らない通行条件があるってことだな。頭来たぜこんちくしょう」


 こうなりゃ強硬手段だ。

 俺は扉を両の手で触り、解析を始める。どんなに未知の物でも、魔力で動いている物なら全部俺の専門だ。丸裸にはお前がなってもらうぞ。


「ふむふむ、なるほどねえ。対象が肉体ではなく魂の年齢で区別してんのか。転生者である俺はそのせいで入れないんだな」

「転生……ですわ?」

「それもこっちの話だ。気にしないでくれ」


 既に出来た魔法っていうのは大幅には変えられない。それが複雑であれば複雑であるほど、だ。

 だから俺は女神の転生魔法を転移先を『増やす』ことしか出来なかった。『変更』したりそもそも魂の行き先を『消す』ことは不可能だったのだ。


 だからこの扉の魔法も、年齢対象を変えたり、肉体年齢を参照にすることは難しい。俺の今の年齢は通れるように『追加』は出来そうだけど、そしたら明日の俺は通れなくなる。それは面倒臭い。


「ま、だったら俺の方を変えりゃいいか」


 偽装工作なら得意分野だ。俺はちゃちゃっと自分の魂に偽装コーティングを施す。俺の魂が肉体年齢と同じように見えるように。


「さてこれで……うん、大丈夫そうだな」


 試しに腕を突っ込んでみると、光の奥にすんなり入った。

 ふはは、こんな魔法で俺を止められると思ったら大間違いだ。


「よーし、行くぞルビィ」

「もう何がなにやらですわ……」


 頭を抱える小動物と共に、俺はお伽噺の国へ入っていくのだった。



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