第2話 魔宝石《ジェム》

「これで最後……っと。ふう、疲れたぜ」


 最後の術式付与を終えた俺は、ドカっと椅子に腰を下ろす。

 するとサイボーグのガストンがよく冷えた水を俺の前に出してくれる。


「お疲れ様です坊ちゃん。積み入れは俺がやるので休んでいてくだせえ」

「おう、さんきゅー」


 ガストンは俺が作った魔剣を丁寧に梱包し、積み入れていく。

 あれらは前線に持っていかれ、魔族たちの武器となる。それほど貴重な素材を使っていないので強力な魔法効果は持ってないけど、普通の武器に比べたらその性能は段違いだ。

 もうちょっといい素材があれば魔法の刃を飛ばせたりビームを出せたり出来たんだけどな。


「うーん。やっぱり素材不足は問題だな。なんかいい方法があればいいケド」


 来たる決戦に備えて、良い素材はなるべく集めておきたい。

 だけど魔王国の近くに貴重な素材が採れるような場所はないからなあ。魔鉄鉱ももう無いだろうし。


 魔王国北部にある炎の国ムスペルニアと氷の国ニヴリアなら良さそうな鉱石がありそうだけど、いかんせん遠すぎる。一人で行けるようになるのはもっと大きくなってからだろうな。


「なあ、ガストン。なんか良い素材が採れる場所とかしらないか?」

「良い素材ですかい? ガハハ、そんな場所あったら俺が真っ先に向かいますよ」

「だよなあ……」


 素材不足なのは俺だけの話ではない。

 年中人間たちと小競り合いしている魔王国は武器の補充に一年中苦労している。

 今はなんとかやりくりして保っているみたいだけど、いつか限界は来るだろう。


「なんか良い手段がありゃいいけど。そううまい話は転がってねえよなあ」

「たまには魔宝石ジェムでも使って良い武器を拵えてえもんだぜ」

魔宝石ジェム、かあ……」


 魔宝石ジェムというのは魔法の力を溜め込んだ宝石のことだ。

 魔力を含んだ鉱物は「魔石」と呼ばれるが、それよりもずっと珍しく、効果も高い。

 そしてもちろん値段も高い。拳ほどの大きさもあれば、いい家が買える値がつくだろう。


 なんとかして手に入らないもんかと考えていると、ガストンが不思議な話をし始める。


「そうだ。坊っちゃんはカーバンクルの伝説を知ってるか?」

「ん? なんだそりゃ」


 伝説とやらは知らないけど、カーバンクル自体は知っている。確か赤い宝石を額につけた兎みたいな見た目の小さな獣のことだ。

 幻獣種という珍しい種族で、その額にある宝石は魔宝石ジェムであり、仲良くなるとそれを取り外してプレゼントしてくれるらしい。

 昔は魔王国でも見かけたらしいけど、もう随分前からいなくなってしまったみたいだ。


「王都にはカーバンクルの伝説があるんでさあ。まあ伝説と言っても都市伝説みたいな眉唾もんなんですがね」

「へえ、そんなのがあるのか。教えてくれよ」

「なんでも深夜に子どもが一人で外を歩いていると、どこからともなくカーバンクルがやって来て、宝石の都市に案内してくれるらしいぜ? 実際白い獣と会ったって言う子どもが時々いるらしい。ま、子どもの嘘だとは思うけどよ」

「王都にカーバンクルねえ……」


 夢のある話だが、王都に獣が住めるような場所はない。

 しかし火のないところに煙は立たない。もしかしたら下水道に住み着いた魔獣が夜な夜な子どもを襲っているのかもしれない。


(どうせ暇だし探ってみるか。夜の散歩っていうのも楽しそうだしな)


 俺は心の中でそう決めると、ガストンと部屋に戻るのだった。

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