第5章 悪友と宝石都市

第1話 二人の悪友

 コボルトの村での戦いを終え、無事王都に帰還した次の日。

 俺は一人で魔王城のある場所へと向かった。


「邪魔するぞー」


 怪しげな魔道具らしき物や、見たことがない機械が大量に転がる室内を進みこの部屋、いや研究所の主人のもとにたどり着く。


「よう、調子はどうだ博士」


 そう呼びかけると、椅子に座った人物が白衣をはためかせながら振り向く。

 長身で色白のその魔族は、俺の顔を見ると怪しげな笑みを浮かべる。


「いらっしゃいましたかアルデウス様。調子はいつも通り絶好調ですよ」


 この白髪の男の名前はフラン・K・ブラムス。

 魔王国の魔導技術開発研究所『真理の塔タワー』、通称『技研』の所長だ。

 早い話が魔王国で一番の狂気の科学者マッドサイエンティスト。倫理観とかに問題はあるけど、その頭脳は俺も認めるところだ。博士も俺のことは気に入ってくれてるみたいで、よく一緒に魔道具の開発をしたりしている。


「このゴーレムは素晴らしいですよアルデウス様。あの女神アバズレのことは私も嫌いですが、その魔法技術は芸術的だ。よくこんな物を一人で……くく、あいつも私と同じくイカれ野郎マッドですよ」


 博士には俺が持ち帰ったゴーレムを預けていた。

 俺の部屋に置いておく場所はないし、デス爺とかに持って帰って来たことを知られたら何を言われるか分からない。


 だから魔王国の裏口に隠しておいて、博士に回収して貰ったのだ。


「量産は可能そうなのか?」

「コボルトたちが素体ボディを作ってくれるのだとしたら……中の回路をこちらで入れ込むのは簡単ですよ。まあ技術者を何人か派遣することにはなりますが、文句は言わせませんよ。ヒヒ」

「……お前のとこの職員には悪いことをしたな」


 技研は魔導開発分野における最高峰の研究所。せっかく入所できたと思ったら辺境の村に飛ばされるのだから泣ける。

 しかしこれも魔王国に必要なことなんだ……申し訳ないが行ってくれ……。


「ところでガストンはまだ来てないのか? あいつも今日来る予定だったよな」

「ガストンなら奥で鉄くずをいじくってますよ」

「そうか、じゃあちょっと見てくるわ」


 今日はゴーレムの解析結果を聞きにきただけではない。

 今後の色々なこと、特に武器や兵器のことについて細かく打ち合わせに来たのだ。


 実は俺の作った魔武器は既に前線に投入されている。しかし兵士たちはそれが俺が作った物だということを知らない。

 もし俺が作ってるってことが魔王おやに知られたら止められてしまうからな。


 そして知られずにそれを出来ているのは今日ここにいる二人の人物のおかげなのだ。


「ようガストン。来たぞ」

「おう坊っちゃん! ご無沙汰してるぜ!」


 研究室の奥で機械をいじり、大きな銃みたいなのを作っているこの大男がガストン。

 こいつは魔王国武器調達配備部隊『鉄血組』の副隊長だ。

 三度の飯より武器が好きなこの男は、一度戦争で肉体の六割近くを失ったが自力で機械化手術をして一命を取り留めたあり得ない経歴を持っている。

 好きな飲み物はガソリン。ギャグ漫画みたいなプロフィールだ。


「さて、坊っちゃんも来たことですし始めましょうか」


 手にした鉄の塊を置いたガストンは俺と共に博士のもとに行き、本題の会議を始める。


「じゃあガストンから報告してくれるか? まず前線がどんな状況なのかを教えて欲しい」

「あいよ。前回坊っちゃんが作った分の魔武器の配備はつつがなく完了しているぜ。ただ今は人間たちと睨み合いをしている状態、まだ実践での使用はされていないが、まあ前回のことを考えるに今回も活躍するのは間違いないだろうな」

「そっか」


 俺の作った魔武器を流す計画は前々から立てていた。

 ガストンにはその時が来るまでに流通経路を確保して貰っていたので、かなりスムーズに紛れ込ませることが出来た。


「ただ、以前作って貰った聖属性を抑える防具はたいぶ効き目が薄くなってるな。これは向こうの攻撃力が上がったってよりも、魔法的に対策されてるって感じだ」

「あー、まあそうなるよな。あのクソ女神ババアめ仕事しやがって」


 俺の術式と女神ババアの魔法の戦いはセキュリティソフトとウイルスの戦いに良く似ている。

 どちらかが対策すれば、もう片方もそれを対策する。いたちごっこを永遠に繰り返し終わることがない。どっちかが死なない限りこの不毛な戦いは終わらないだろう。


「取り敢えずこっちも対策する。術式を少し変えればまた効果が出るはず。数週間はそれで対応して貰おう」

「了解。素材は集めてあるからこの後頼んでも大丈夫ですかい?」

「ああ、すぐやるよ」


 ガストンにそう返事をし、次に博士の方を向く。


「博士は何か進展あったか?」

「昨日頂いたアレは絶賛解析中ですが、まだ成果は上がっていません。ですが必ず何か掴んで見せますよ、どんな手を使ってでもね……!」

「分かった。頼りにしてるぞ」


 アレ、というのは『勇者の遺体』のことだ。

 実はクシナ村で戦った勇者の一部は持って帰ってきている。危険な可能性はあるけど、勇者には謎が多いので得る物は多いと思ったのだ。

 もちろん魔力を通さない特殊な布で包んで持って帰ってきている。女神に捕捉されていないはずだ。


「それじゃ博士は引き続きゴーレムのこととアレのことを頼む。ガストンは俺と一緒に来てくれ。新しい魔武器の構想があるからそれも聞いてほしい」

「分かりましたアルデウス様。次までに必ず勇者の中身を暴いて見せますよ」

「いいねえ坊っちゃん! どんな武器なんだい!?」


 俺はガストンと武器の話をしながら移動を始める。

 さて、忙しくなりそうだぜ。

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