第15話 メガ・サイクロプス

 場所変わって森の中。

 アルデウスと勇者の二人は以前戦って……いなかった。


「おいおい、逃げんじゃねえよ!」

「うるさい!」


 背を向けて全速力で逃げる勇者を、アルデウスはキレ気味に追っていた。

 ここが開けた場所であれば飛行フライ跳躍装置ホッパーで簡単に追いつけたであろうが、勇者はそれを見越してか木々が生い茂る方向に逃げていた。


「森ごと魔法で吹き飛ばすことも出来るけど……そんなことしたら死んじまうよな」


 アルデウスは歯噛みする。

 うっかり殺してしまえば、安全な所で復活されてしまう。そうすればまたこの勇者は別の場所で、今度はバレないように用心してゴーレムの計画を建てるだろう。それだけは防がなくてはいけない。


「でも逆にまだ自害しないってことは俺に勝つ算段があるってことか。ゴーレムは全て無力化したっていうのにまだ奥の手があるのか?」


 ちなみに先ほどまで使っていたゴーレムの操作は既に解除している。いくらゴーレムの動きが見た目より軽快とはいえ、森の中を全力疾走は出来ないからだ。


「……お、止まった。ようやく観念したか」


 森を抜け、開けたところに着いた勇者はその足を止める。

 そしてアルデウスの方を向き、笑みを浮かべる。


「どうした? 走りすぎておかしくなったか?」

「……軽口を叩けるのもここまでだ。コレ・・は王都侵攻用に取っておきたかったが仕方がない。俺と女神様を侮辱した罪、その命で償え!」


 そう啖呵を切り、指を鳴らす。

 すると次の瞬間地面が揺れだす。そして近くにあった山肌が崩れ、中から何か巨大な物が現れる。


「へえ、そそるじゃねえか」


 アルデウスの視線の先で動くのは巨大なゴーレム。

 その全長は十メートルを優に超える。もはやそれはゴーレムというより巨大ロボといった方が正しい大きさであった。

 そのゴーレムの頭部には大きな目玉が一つあり、それをぎょろりと動かしアルデウスを捉える。どうやら既に敵認定されているようだ。


「こいつは俺の取っておき! 巨大ゴーレム『メガ・サイクロプス』だあ! その馬力は通常ゴーレムの三十二倍! 頭部には王羅水晶を贅沢に使用! 魔力だけでなく太陽光も動力にし、最大二日間の連続駆動を可能にしている! 貴様に勝ち目はなあい!」

「……意外とそういうの好きなんだなお前」


 ロボットオタク勇者の意外な一面を見て、アルデウスは驚く。

 ゴーレムの操作技術は拙かったが、それを作るのは得意だったようだ。


「しかもメガ・サイクロプスは完全自動操縦! 貴様でも操作権を奪取することは不可能! 殺してやるぞクソガキがぁっ!」

「まあ自動操縦は奪えないとは言ってないけど……確かにあれを奪うのは面倒くさそうだ」


 車を想像して欲しい。

 普通の車であれば操縦者を座席から引きずり下ろせば簡単に奪い取れる。

 しかしその車が自動運転だったら? その手間は何倍にも膨れ上がるだろう。


 アルデウスは自信がない訳ではないが、そっちに夢中になってしまっては勇者に逃げる隙を作ってしまう。今一番優先すべきは勇者の始末。目の前の玩具をいじくり回すのはその後だ。


「行け! メガ・サイクロプス! 太陽光収束光線サンシャイン・レーザー!」

「え、なにそれ」


 太陽光を吸収し、光り輝くはメガ・サイクロプスの瞳。

 その力を存分に溜め込んだサイクロプスは瞳から極太の熱線を発射する。


「おわ!?」


 咄嗟にその場から飛び去りアルデウスは熱線を回避する。

 すると一瞬でアルデウスがいた地面が蒸発し、大きな穴が空いてしまう。もし当たれば人間一人、簡単に消し飛んでしまうだろう。


「ふはは! 見たか! これぞメガ・サイクロプスの必殺技『太陽光収束光線サンシャイン・レーザー』! 最高級王羅水晶をふんだんに使うことにより驚異の破壊力を実現! 生半可な防御魔法なんて無意味だぞ!」

「だろうな。それだけ強力な技、再使用まで時間がかかるんじゃないか?」

「な、なんでそれを!?」


 見ればゴーレムの瞳は熱により真っ赤になっている。

 あの状態でもう一度今のを撃てば水晶は粉々に砕けてしまうだろう。それまでに片をつければいいだけの話だ。


「だ、だが貴様にメガ・サイクロプスを倒すだけの力はないだろ! 俺の勝ちだ!」

「最初からこれを出してたらもうちょい苦戦したかもしれないが、もうゴーレムは見飽きるほど観察済みなんだよ!」


 アルデウスの強さの本質は大人の魔族顔負けの魔力量、開発した強力な術式……などではない。

 それは魔法への深い理解。幼少期から触れ続けたことによる本質的な理解とそれに伴う応用力が彼の強みだ。

 ゆえに彼は相手の魔法を触れただけで使用することが出来る。そして数度も見れば攻略法も思い付いてしまう。


「こうすりゃ動けないだろ! 植樹プラントVer.3.0緑蔓捕縛グリーンバインドッ!」


 手に魔力を溜め、地面に押し当てる。

 すると緑色のつるが大量に地面から生え、巨大ゴーレムの足に絡まっていく。


「何をするかと思えばただの蔓! そんな物で俺のメガ・サイクロプスをどうにか出来るわけねえだろ!」


 勇者は勝ちを確信し高笑いする。

 それを見てアルデウスは不敵に笑う。


「植物系魔法は肥沃な地面があると威力を増す。この意味が分かるか?」

「は? 何を言ってるんだ?」

「そうか、分からないなら……見せてやるよ」


 アルデウスは「むん!」と地面に押し当てる手に力を入れる。すると次の瞬間ゴーレムの体に穴が空き、巨大な蔓がボグン! 大きな音を立て生えてくる。


「な、なにィ!?」

「ゴーレムはその肉体自体が高濃度の魔力を含む『肥沃な大地』。魔法で生み出された植物にとっては天国さ」

「ば、ばかな……!」


 絶句している間にも蔓はグングンと成長し、太く長くなっている。

 すぐに巨大ゴーレムは全身を蔓に縛り上げられ、動けなくなる。魔力も吸い尽くされ、更に水晶の表面も蔓が覆ってしまっているので『太陽光収束光線サンシャイン・レーザー』を発射することも出来ない。

 完全にゴーレムはただの置物と化してしまった。


「お、俺のメガ・サイクロプスが……」


 愕然とし、その場にへたり込む勇者。どうやら完全に心が折れてしまったようだ。

 逃がさないように、慎重にアルデウスは彼に近づく。


 勝負は一瞬。組み伏せて、蘇生を無効化し、殺す。それだけだ。


 しかし勇者の思わぬ一言により、アルデウスの足は止まることになる。


「お前、いったい何者なんだよ。お前……ガキ……。少年? そうか……お前が少年A、なんだな……?」


 かつて出会った忌まわしき女神てき

 それが使った呼び名を不意に聞いたアルデウスは、体をビクリと動かし動揺してしまった。目の前の愚か者ですら何かあると勘づいてしまうほどに。

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