第4話 重い愛

 クロエが来てから早いもので一週間の時が経った。

 最初こそ騒がしかったクロエだが、それだけの時間が経てば流石に大人しくなってくる。


 まあそもそもクロエは俺の専属ではないので普通に仕事があるので一日中一緒ということはない。魔王国の兵士の中でもくらいの高い彼女には兵士の訓練を見る義務があるのだ。

 だけど自由気ままなクロエは人の面倒を見るのが苦手らしく、訓練が終わるやいなや俺の部屋に直行しだる絡みしてくる。


 そんなんだからシルヴィアしか専属メイドに選ばれないんだぞ……とは言わない。

 クロエは戦闘特化でお世話スキルが欠落してるからな。何かの間違いでこいつが俺の世話をすることになったら大変だ。


「ゔぁぁ……づかれました主人様マズター……」


 仕事を終えたクロエは魔法の開発に勤しむ俺を自身の膝の上に座らせ、抱き抱える。

 正直邪魔でしかないけど抵抗する方が疲れるので、膝の上で俺は作業を続ける。決して背中に当たる大きなそれの魔力に抗えないからではない。断じてだ。


「クロエもいい加減子離れしたらどうなんだ? ずっと俺みたいな子供ガキに構ってても仕方ないだろ」

「何を言いますか! 私は主人様マスターに忠義を捧げた身、一生貴方の騎士として生きていく所存です」


 そう言ってクロエは俺にキリッとした顔を向ける。

 その表情からは褒めて褒めてオーラが溢れ出している……大型犬みたいな奴だな。悪いが俺はそんな簡単に甘やかしたりしないぞ。


「……愛が重い」

「しょんなあ!」


 オーバーに落ち込むクロエ。

 ……いやこいつどさくさに紛れて俺の背中に顔を埋めて匂いを嗅いでやがる。やっぱ犬じゃねえか!


「ええい嗅ぐな!」

「良いじゃないですか! 減るもんじゃなし!」

「俺の好感度はメリメリ減ってるぞ!?」

「一番減ってはいけないものがっ!」


 ガーン。と目に見えてへこむクロエ。

 ちょっと強く言いすぎたかもしれないが訂正はしない。これくらいで反省したら苦労しない。こいつの打たれ強さは雑草が裸足で逃げ出すレベルなのだ。


「……ところで挙式はいつにしますか?」

「ちょ、い、か、会話飛んだ!?」


 へこむとかそんな次元じゃなかった!

 脈絡がなさすぎるだろ! いったい何日、いや何年分の会話をすっ飛ばしたんだ!?


「やっぱり式は派手にしたいですよねー。なんせ未来の魔王様なんですもの。いや、その頃にはもうなっているかもしれませんね」

「怖い怖い! なんで婚約してる前提で話してんだよ!」

主人様マスターが小さい頃に結婚の約束をしてくれたんじゃないですかあ。忘れちゃったんですか?」

「どんなに記憶を遡ってもそんな約束をした覚えはない! よくありそうなシチュエーションに持ってこうとするな!」

「ちっ」

「おい今舌打ちしただろ!?」


 なんて奴だ、未来だけに飽きたらず過去まで捏造しようとしやがった。ツッコミのし過ぎで喉を痛めてしまうぜ。


「愛が超重量級ヘヴィーなんだよお前は……。もっと軽量級ライトにしてくれよ」

「おや、私は重くありませんよ。結婚できるなら第九夫人でも構いませんからね」

「重いのか軽いのか判断がつかない主張だな……」


 てかなんだ第九夫人て。とんだ女たらしじゃないか。

 ラノベの主人公じゃあるまいし、そんな奴いるわけないだろ。


「もう、そんなに拒否していると他の人になびいてしまうかもしれませんよ?」

「クロエが幸せになるならそっちの方がいいだろ。ま、少しは寂しくなるけどな」


 いくらウザくてもクロエも家族の一人だ。いなくなったら寂しくはなるだろう。

 まあだがそうありえない話でもないだろうな。こいつは黙ってれば美人だし、いくらでも貰い手はあるだろう。


 だから早いこと子離れ……ん?

 なんだ? やけに静かだな。


「どうした?」


 振り返りクロエの顔を見てみると、彼女はわなわなと震えていた。

 いったいどうしたんだ? 変な物でも食べたのか……? と思っていると、急にクロエは俺を全力で抱きしめてくる!


「私の幸せをそこまで考えてくださっているなんて! 心配しなくても私はずっと主人様マスターのものですよ!」

゛っ!! ちょ、アバラが折れるっ!」


 おんおんと泣きながらクロエは馬鹿力MAXで俺を抱きしめる。

 なんだこの力!? A級モンスター『バーサーカーゴリラ』でももっと優しくハグするぞ?


「離せ……っ! この筋肉ゴリラァ!」

「ふふふ! 逃しませんよ! このまま〇〇◯や×××をしましょう! △△△なんかもいいですね!」

「こんの色ボケゴリラが! こちとら未成年だぞ!」


 既成事実を無理やり作ろうとするクロエに必死の抵抗をする。

 結局この日はこいつをどうにかするのに時間を取られ、魔法の研究に精を出すことが出来なかった。


 やっぱりとっとと嫁にでも行ってしまえ!

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