第3話 黒と銀
「いやあ、メチャクチャに怒られましたね! 災難でしたね
「お前なあ、誰のせいだと……」
あっけらかんと笑うクロエを見て、俺はため息をつく。
派手に暴れたおかげでクロエは落ち着きを取り戻したけど、結局中庭をまた荒らすことになってしまった。
そのせいで魔王城整備隊長のおばちゃんにしこたま怒られてしまった。普段は優しいんだけど怒ると怖いんだよなあのおばちゃん……。
「で? なんで俺はまだお前に捕まってるんだ? 散々遊んでやったじゃないか」
「それはそれ、これはこれってやつですね♪」
「意味が分からん……」
現在俺は自分の部屋でクロエに抱き抱えられながら膝の上に座っている。
度々抜け出そうとは試みているけど、万力のようにガッチリとホールドされているのでちょっとやそっとの力ではビクともしない。
術式を使えば抜け出せないこともなさそうだけど、そんなことしたら俺の部屋がめちゃくちゃになってしまう可能性が高い。なので俺は現状を甘んじて受け入れて大人しく撫で回されている……
「ていうかその
「それは出来ませんね。あの時私を救ってくださったその瞬間から、私は貴方に忠義を捧げると決めたのです。この呼び方はその決意の表れなんです」
「そんな昔のこと忘れてくれていいんだけどな」
今から四年くらい前、クロエは色々あって危機的状況に陥っていた。
それを偶然通りかかった俺が助けたのだ。
それ以来こいつは俺に懐いてしまい、べったりになってしまった。
とはいえ俺には専属メイドのシルヴィアがいる。戦闘以外からっきしのクロエは早々に俺のもとから引き剥がされ戦場に送り込まれたのだった。
「クロエ、そろそろ離れてくれませんか? ちょっと引っ付き過ぎですよ、アル様も迷惑ですよね?」
今まで黙っていたシルヴィアが痺れを切らし口を開く。
確かに今のクロエのポジションはシルヴィアが担っていたからな。
ちなみにシルヴィアとクロエはかつて一緒に戦場を駆けた仲だと聞いた。
銀閃と黒砕のエルフコンビは有名で、人間たちに恐れられていた……らしい。
「シルヴィアはずっと
「それの気持ちは分かりますが……駄目なものは駄目です!」
「ちょっと、引っ張んないでよ!」
二人にぐいぐいと引っ張られ、俺の体は右へ左へ
綱引きの綱にでもなった気分だ、肉体強化魔法をかけなかったら体のあちこちが裂けていただろう。
「おい、それくらいに……」
暴走する二人を止めようとするが、シルヴィアとクロエは睨み合いながら大声で言い合いをしており俺の話を聞いちゃいなかった。
こいつら……流石の俺でも怒るぞ?
「いい加減にしろ! 術式発動、
二枚の盾を出し二人を引き剥がす。そしてすぐさま盾の形を変える。
「
二枚の盾は球体の形に変化し、俺を包むように守る。
この防壁は勇者の魔法を真似して特に魔族や亜人の攻撃に耐性があるように作ってやったので、クロエの馬鹿力でもそうは壊せない。
「ちょ、
「アル様! ご慈悲を!」
「うるさい、喧嘩両成敗だ!」
術式に手を加え、光と音も遮断する。ふう、これで静かになった。
ひとときの安息を手に入れた俺は、二人が反省するまで昼寝に勤しむのだった。
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