第11話 解析開始
「貴様……生きて帰れると思うなよ!」
勇者ソウタは顔を赤くさせながらそう叫ぶ。
しかしアルデウスの方に進もうとはしなかった。いくら馬鹿で無謀な彼らも無策で勝てる相手ではないということは分かっていたからだ。
そんな焦った様子の二人と対照的にアルデウスは落ち着いた様子だった。
「よかった、二人とも生きてたか。最低一人は生きてて貰わないと困るからな。貴重な勇者の肉体、隅々まで調べさせてくれよ……!」
悪魔的な笑みを浮かべるアルデウス。
それを見た二人の勇者は背筋に鳥肌が立つ。何度も死に、蘇って来た二人。もはや恐怖を感じることなどないと思っていたがここに来て最大級の恐怖を感じることになる。
しかし彼らはそれを認めるわけにはいかなかった。
自分たちは選ばれし勇者。こんな年端もいかない少年に圧倒されるなどあってはならない。
「こいつだけは絶対に殺さなければ……コウキ! いけるか!?」
「ああ、ぶっ殺してやろうぜッ!」
最初に顔面を焼かれたコウキも立ち上がりアルデウスを睨みつける。
その憎悪に満ちた顔を見たリズは「ひっ」と声をあげる。
「ただ殺すだけじゃ足りねえ……手足を切り落として靴を舐めさせ命乞いをさせてからゆっくり殺してやる……!」
この世界に来て、勇者たちはちやほやされ続けた。
元の世界では普通の人間だったとしても、環境が変われば人は変わる。
自分が特別な存在、選ばれた存在なのだと信じ、歪んでしまった彼らの心はもう、正常なものではなくなってしまっていた。
勇者とは程遠い、邪悪な何か。それが今の彼らだった。
「外道に落ちてくれてて助かるぜ。思いっきりやれる」
アルデウスはそう言って笑うと、お試しとばかりに「
「
二人の勇者を包むようにして現れた半透明の障壁は、アルデウスの魔法を受け止め、かき消す。
それを見たアルデウスは嬉しそうに笑う。
「面白そうなの持ってるじゃないか! 他には何かないのか!?」
「なんだこいつ気持ち悪い! とっとと死ね!」
コウキとソウタはバリアの中からアルデウス目掛け魔法を発射する。
「
「へえ、そんな効果もあるんだ。ここからだとよく分からないから直接触りたいな!」
そう言ってアルデウスは駆け出す。
魔法の雨が彼の命を消さんと襲いかかるが気にしない。的確にそれらを躱しながら勇者たちに接近していく。
「クソ! なんで当たんねえんだ!?」
「おい、しっかり狙え!」
「お前も当たってねえだろうが!」
言い争いを始める勇者たち。当然攻撃はどんどん雑になっていく。
その隙にアルデウスはバリアの所までたどり着いてしまう。
「さてさて、楽しい解析タイムだ」
アルデウスは両手をバリアにペタリと付けると、解析を始める。手の平から細い魔力の糸を出し魔法の隙間に潜り込ませることで内部からその魔法の構成方式を読み解くのだ。
「ふむふむ……ほうほう……これは中々興味深い……」
楽しげに解析をするアルデウス。
当然勇者たちはそれをこころよく思わなかった。
「てめえ! 勝負中に何してやがる!」
聖剣から黄金色の炎が放たれ、アルデウスに襲いかかる。
しかしその炎はアルデウスの体に当たった瞬間ボフン! と消えてしまう。
「は、はあ!? 何が起きてやがる!?」
「……その魔法はもう見飽きた。なんかもっといい魔法貰ってないのか?」
かったるそうにアルデウスは言う。
彼が今行ったのは『
使うには対象の魔法を深く理解していることと、高度な魔法技術を必要とする。アルデウスはこれを十歳の若さで習得していた。
この技も万能ではなく、複雑な魔法や強力な魔法は無力化出来ないが……目の前の勇者の魔法くらいだったら難なく出来た。
「……うん、だいたい分かった。えい」
解析を終えたアルデウスは、満足そうに笑うと目の前のバリアを……素手で引きちぎった。
まるでダンボールのようにベリベリと引きちぎられていく無敵(だった)バリア。それを見たコウキは口をあんぐりと開け、目を飛び出し驚く。
「ば、ばかかかかな。俺様の無敵のバリアが……っ」
「確かに良い性能の魔法だったけど、中身が分かれば脅威にはならない。これ一本で最強になれると思ったら大間違いだ」
「こ、の、ガキャあ……!」
絶対の自信を持っていた魔法を壊されただけでなく馬鹿にされ、コウキは顔を真っ赤にして怒る。彼は最後の
「俺は、選ばれし勇者なんだぞ!」
「救えない奴だ。同じ星出身だとは思いたくないな」
破れかぶれの一撃を難なく躱したアルデウスは、右の拳を強く握り締めながら術式を発動する。
「術式纏身、
それは新たに覚えた友人の
この世界のものを奪うのではなく、手を取り分かち合うことを選んだ彼だからこそ手に入れることの出来た技。
その技の恐ろしさを感じ取ったのか、コウキは唐突に命乞いをする。
「や、やめ……」
「問答無用! ゴブリンパンチ!」
「ふぐぺ!?」
友の力が宿った必殺の拳は、悪しき勇者の腹に突き刺さり、遥か遠くの壁までぶっ飛ばしたのだった。
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