第10話 実験開始《バトルスタート》!

「こんなガキにやられるなんて情けない。どこの魔族カスかは知らないが邪魔立てするなら容赦はしない!」


 銀髪の勇者ソウタは、ザガの頭から足を離すとアルデウスに聖剣の剣先を向ける。

 そして魔力を聖剣に送り魔法を発動させる。


「燃え尽きろ! 勇者の聖炎ブレイブファイア!」


 剣先から黄金色に煌めく炎弾が発射される。

 これは今まで何十人もの魔族を葬ってきたソウタの得意魔法だ。どんな強靭な肉体を持つ魔族もこの魔法には耐えきれず死んでいた。盾で防御されても盾ごと焼き払ってしまい、防がれるようなことは無かった。


 今日、この日までは。


「――――術式展開、守護者ガーディアン


 現れた二枚の半透明の盾が、ソウタの炎弾を受け止め破裂させる。

 その盾の表面には傷一つついていない。勇者の炎はアルデウスの盾の前に敗北したのだ。


「ば……かな……」


 目の前の事実が信じられず絶句するソウタ。

 その間にアルデウスは地面に落ちて燻っている勇者の炎を拾い上げる。


「ふむふむ」


 アルデウスは手に持った魔法の解析を始める。

 勇者の魔法を調べるまたとない機会、アルデウスは期待に胸を膨らませ解析するが、その成果は残念なものだった。


「なるほど……たいした魔法じゃないな。『魔族特効』と『魔力消費量節約』が付いている以外は普通の『火炎ファイア』と変わりないじゃないか。ああ『色変更【金】』もあったな。こんなの付けるくらいならもっと威力を上げた方がいいだろ」


 勇者の魔法が大したこと無いと分かり、アルデウスは肩を落とす。

 もっと複雑で飛び抜けた術式の魔法が見れると思った。これじゃ拍子抜けだ。


「おい、早く『異能チート』とやらを見せてくれよ。こんな安い魔法を見るためにわざわざここに足を運んだわけじゃないぞ」

「訳の分からないことを……! ならばお望み通り私の力を見せてやろう!」


 聖剣を握りしめ、勇者ソウタは駆ける。

 そしてアルデウス目掛け聖剣を振り下ろす。


「せい! そりゃ! ほうりゃ!」


 縦から横から斜めから。

 四方八方から迫るソウタの剣撃をアルデウスはグラムナイフで捌く。

 ロングソードとナイフ、リーチの差があるにも関わらずアルデウスはソウタの攻撃を器用に捌き切って見せた。


「こいつ……ちょこまかと!」

「魔法よりは筋がいいけど……それだけだ。ガーランやシルヴィアの剣技に比べたらまだまだ」


 アルデウスは魔王たちから英才教育を受けている。

 魔法だけに限らず剣術や格闘術などその種類は多岐に渡る。術式を抜きにしてもアルデウスは強い・・


「だったら、これならどうだ!」


 ソウタは鋭い突きを放つ。

 アルデウスの動きを読んだ的確な一撃。しかしアルデウスはそれをグラムナイフの刀身の上を滑らせることで器用に捌いた。


「気をつけろ! そいつは相手の考えが読める!」


 ザガの忠告を聞き、アルデウスは「なるほどね」と笑みを浮かべる。


「それがお前の異能チートか。中々面白そうだな、俺にも使わせてくれよ!」

「女神より賜った私の力が、貴様みたいな魔族カスに使えるわけがないだろう! とっとと死ね!」


 ソウタは聖剣を振り回す。

 剣の達人である師匠たちと比べると、彼の動きは重心の動きはバラバラ、狙いも甘いし握りも甘い。


「だけど異能チートが邪魔だな。……そうだ、これならどうだ?」


 いい案を思いついたアルデウスはすぐさまそれを決行する。


「おい、ちゃんと俺の考えを読めよ!」

「貴様何を言って……うあぶ!?」


 瞬間ソウタの頭に浮かび上がる膨大なイメージ。その情報の奔流に圧倒されソウタの脳内はパンクする。


「頭が……割れる……っ!」

「おお、上手くいった」


 アルデウスがやったことは単純。

 普通の人では理解できない術式を頭に思い浮かべただけだ。


 同じ現象を普通の人にやっても頭に変な文字列が浮かぶだけだろう。しかし魔法にある程度理解があるものにやると、脳が無意識にその術式を理解し実行しようとしてしまう。


 当然術式の理解が深く無い者では脳がイカれてしまう。

 古いスペックのパソコンで無理やり最新のソフトを起動しようとするようなものだ。


「獅子王直伝、烈爪脚れっそうきゃく!」

「がっ……!?」


 アルデウスの鋭い横蹴りがソウタの脇腹に直撃する。

 幼い人間である彼の肉体スペックは低い。しかし魔法のアシストが加われば大人の魔族顔負けの筋力を得ることが出来る。そこから放たれる体術の威力は高い。


 ソウタの体は五メートルほど吹き飛び、無様に地面を転がる。

 その隙にアルデウスは死にかけのザガのもとへ行き、彼の傷を魔力の糸で縫合する。


「麻酔はかけてる暇はない。ちょっと痛いが我慢してくれよ」


 そう言うと鮮やかな手捌きで傷を縫合していく。

 我慢してくれよ。とは言っていたがザガはほとんど縫合による痛みを感じなかった。それほどまでに見事な手捌きだった。


「よし、後は回復魔法で体力を回復させれば……っと。これで死にゃあしないだろ。あんたはリズの側にいてくれよ。流れ弾が行くかもしれないしな」


 そう言ってアルデウスは立ち上がり、こちらを睨みつけている二人の勇者に近づこうとする。

 そんな彼にザガは声を投げかける。


「君は……いったい何者なんだ……?」


 勇者に一対一で勝てる魔族は少ない。

 それなのにこの年端も行かない少年は、二人の勇者相手に互角以上に渡り合っている。ザガの疑問は当然だった。


「俺の正体? それなら知ってるだろ?」


 アルデウスはその問いに振り替えることなく背中を見せながら答えた。


「魔王の息子だよ」


 そう言ってナイフを抜き放つアルデウスの姿は、かつて共に戦った好敵手の姿と重なって見えたのだった。

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