第9話 捨てる神あれば
「そもそも貴様らの狙いはなんだ、なぜ私を狙う……!」
ザガは痛みを堪えながら二人の勇者に問いかける。
悔しいが戦っても勝ち目は薄い。ならば時間を稼ぐしかないからだ。
幸いこの街には最強の剣士、剣王ガーランが滞在している。彼が来れば勇者二人程度追い払えるだろうとザガは踏んでいた。
「俺たちの狙いはお前の娘だよ。よく知らないけど『魔眼』ってのは珍しいんだろ? 良いコレクションになると思ってな」
「それにその魔眼、効くところによると私の
あまりにも勝手な物言いに、ザガは奥歯を噛み締める。
そんな勝手な理由で娘の命は危機に瀕しているのか、と。
しかしいくら怒った所でこの事態は好転しない。ザガは沸騰しそうになるほどの強い怒りを必死に抑え込み交渉を試みる。
「……確かに魔眼は希少だ。しかし娘はまだ幼い、見逃してもらえないだろうか。代わりに魔眼相当の現金を出そう。娘を見逃してくれるなら私の首も差し出す。昔は軍人として活躍した身、多少の価値はあるだろう」
そう言ってザガは頭を下げる。勇者に頭を下げるなど酷い屈辱だが娘の命に比べたら軽いものだった。
「「…………」」
その申し出を聞いた勇者二人はぽかんとして目を丸くする。
そしてお互いの顔を見合わせ……大声で笑った。
「ははっ! 本気で言ってるのかそれは!」
「こりゃ傑作だぜ! なんでどっちかしか選んじゃいけねえんだよ! 娘も、お前も、金も全て頂くに決まってるじゃねえか! 魔族は俺たちの狩り対象でしかねえんだからよ!」
そう高笑いする二人を見てザガは青ざめる。
こいつらは話の通じる相手ではない。今まで出会ったどんな存在よりも邪悪で
「領主の首を取ったとありゃあ女神様から褒めてもらえるかもな。もしかしたら新しい
「あの娘も整った顔をしてるから高く売れそうだな。人間の中には魔族をいたぶる事でしか興奮できない変態もいる。良かったな、あんたの娘もしばらくは生きてられそうだぞ」
ザガに浴びせられる心ない言葉の数々。
耐えきれなくなったザガは再び斧を握りしめ前進する。
「――――貴様らッ! 黙っていれば!」
激昂したザガは肉体の限界を超えた力を出し襲いかかるが、再び呆気なく撃退される。
いかに優れた力を持っていようと、いかに高潔な心を持っていようと、いくら自分より大切なものがあろうと……自分の力を大きく超えた存在には敵わない。
勇者とは魔族にとってそういう存在であった。
「そろそろ死ぬか?
「ぐう……無念だ……!」
ザガは銀髪の勇者ソウタに頭を踏まれ、首元に刃先を当てられる。あと少し力を入れれば容赦なく首は両断され死に至るだろう。
彼女はそれを黙って見ていることが出来なかった。
「――――やめてください!」
果敢に飛びかかるのはザガの娘、リズ。
父を助けようと決死の行動に出るが、もう一人の勇者コウタに捕まってしまう。
「もう目ぇとっちまうか? そうすりゃ少しは大人しくなるだろ」
「やめろ! 娘に手を出すな!」
「何だよそれフリかぁ? 父親の目の前で取るってのもオツかもな!」
「貴様ッ! どこまで外道なんだ!」
ザガは吠えるが、コウタは一切気にせずリズを手にかけようとする。
「いや……」
その時少女の脳裏に浮かんだのはあの少年の姿だった。
肉親以外で初めて魔眼を恐れなかった少年。自由で、賢く、強い、うじうじした自分とはまるで違うあの少年の姿だった。
「たすけて……」
無意識にそう口が動く。
たとえ彼が来たとしても勇者に勝てるはずがないのに、少女はそう願わずにはいられなかった。
「今更誰が助けに来るってんだ! 大人しくその瞳をよこしな!」
邪悪な笑みを浮かべながらその指をリズの眼窩に差し込もうとしたその瞬間、コウタの顔面が突如爆発し、彼は後方に大きく吹き飛ぶ。
「ぷげら!」
地面を二回ほどバウンドした彼は体勢を立て直すと、少女の方を見る。するとその傍に一人の少年が立っていた。
「変な魔力を感じて来てみたけど……ずいぶん楽しそうなことをしてるじゃないか」
少年、アルデウス・サタンサンズは笑みを浮かべながら勇者たちを見やる。
その顔に焦燥感のようなものはない。自分が一番強い。そんな自信がありありと浮かんでいた。
「アル様……なぜここに……?」
「助けに来たからに決まってるだろ。それよりよく頑張ったなリズ、後は任せろ」
偉大な軍人である父ですら勝てなかった相手、普通に考えれば少年であるアルデウスが勝てる道理はない。しかしリズには不思議な確信があった。
この少年ならこの場をどうにかしてくれる。そんな確信が――――
「さて、
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